第四十三話
翌日の午前中にレオナールは、エクランド国に着いたようで、ブラッドリーがダグを呼びに来た。
そして、午後五時頃にティモシーも呼ばれ、彼の部屋に向かう。待っていたレオナールは、何故か薬師の制服を着て厳しい表情だ。
「二人で話をします。あなたも下がって下さい」
レオナールの言葉に、ブラッドリーは軽く頭を下げると部屋を出て行った。
「どうぞ」
ソファーに座るように促され、ティモシーは座った。正面に座ったレオナールには笑顔がない。ティモシーは、ごくりと生唾を飲み込む。
「昨日の朝早く、あなたの母親が訪ねてきたようですね。どのような用件で?」
「え?」
ティモシーは驚いた。まさか、母親と会った事を聞かれるとは思いもよらなかった。
「……魔術師だとバレているのなら、一緒に村に帰ろうと言われました」
「私に知られたと話したのですか?」
俯くティモシーに、レオナールは問う。首を横に振ってそれに答えた。
「では、あなたの母親は何故、あなたが誰かに魔術師だと知られたのではと思ったのでしょうか?」
ティモシーはビクッとする。
彼に下手な言い訳は通じない。ティモシーもそれはわかっている。
「答えられませんか? 別に怒りはしません。知りたいだけです。教えては頂けませんか? あなたもご存知の通り、二人は逃亡し同じタイミングでヴィルターヌ帝国の使者が訪ねてきました」
「そ、そう言われても……」
ティモシーは返答に困った。エイブが言っていた仲間がその使者を指すのか、それとも別の人物なのか、ティモシーにもわからない。そして夢が現実になったのか、偶然の一致なのかもわからないが、ミュアンは夢ではないと言っていた。
今更ながら、裏切りになるのでは? と、言うのをためらう。
「では、ザイダの事はどうです? 最後は意気投合していたと聞きました。何か言っておりませんでしたか?」
「え! 意気投合!」
ティモシーは驚く。別にそんなつもりはなかった。どちらかというと違う。彼女は、トンマーゾをいい人だと思っていただろうが、ティモシーは逆である。たまたまブラッドリーを敵視していただけだ。
「別に彼女とは仲良くありません!」
「そうですか。ブラッドリーですが、今回の連絡を怠った事はきつく言っておきました。逃亡に影響を与えたのは確実ですからね」
ティモシーは何故という顔でレオナールを見た。
「ブラッドリーが連絡を怠った事で、彼女は事を起こした。その聴取でトンマーゾを呼んでしまい、私がいない事に彼は気づいた。逃げるチャンスだと教えてしまったのです。私も一言言って国に戻ればよかったのですが……」
レオナールの説明にティモシーは、なるほどと頷く。
「まあ、時間的に知ってから使者を呼ぶというのは不可能なので、関係はないとは思いますが……」
ティモシーは、ふと疑問に思う事を聞く事にした。
「あの……もし二人が逃げなかった場合、最終的にどうするつもりだったのですか? 殺す……とか?」
「なるほど。話は本当のようですね」
「え?」
ジッとレオナールが、ティモシーを見据える。
「隠れて会ったりはしてませんね?」
「してません! エイブさんは、寝たきりじゃないですか!」
「そうですか。エイブですか……」
「………」
レオナールは、別にエイブとは言っていない。そう気づくも遅い。疑いの目でレオナールはティモシーを見ていた。
「……嵌めるなんてひどいです」
「嵌めた……ですか。そう思うという事は、そういう事があったという事ですね? どのように彼と連絡を取り合ったのです」
「違います!」
ティモシーは、慌てて首を横に振った。別に企てたりした訳ではない。
「夢です! 夢を見ただけなんです! エイブさんが昨日夢に出て来て、お別れを言いに来て……」
「あなた、彼らが逃げるのを知っていて黙っていたのですか?」
「だから夢だって!」
ティモシーは、ガバッと立ち上がった。
「で、その夢にあなたの母親は登場しましたか?」
「え……」
よくわからないが、バレている。ティモシーはそう思った。
「お座りなさい」
レオナールに言われ、ストンと腰を下ろす。
「話して下さい。覚えている範囲で宜しいので、夢の内容を話して下さい」
「……エイブさんは、トンマーゾさんが助けを呼んだって。でも、エイブさんは足手まといだから殺されるかもって言っていて……。そこに母さんが現れて、エイブさんが母さんに、王宮内にまだ魔術師はいるって言って消えたんだ……」
ティモシーは、素直に話した。結局話す事になったとため息をつく。
「彼の夢は初めてですか? 私がいなくなってから何度か見ましたか?」
「母さんと同じ事聞いているし……」
ティモシーはボソッと呟いた。
レオナールはティモシーの呟きを聞くと、頷き立ち上がった。
「あなたの母親に聞いた方が早そうですね。案内なさいなさい。まだ、いるのでしょう?」
「え! 何故ですか!」
「別に危害を加えるつもりはありません。彼女は、あなたの夢に出来てたのでしょう? つまり干渉してきた。話を聞きたいだけです」
「わかりました……」
ティモシーは、自分が案内しなくとも探し出して接触するだろうと思い立ち上がる。
部屋を出ると通路には、カミーユが立っている。
「私達はこれから、王宮内を周ります。あなたは、ここで待機していてください」
「はい」
カミーユが頷くと、レオナールは歩き出す。何度か曲がると壁際に行く。そこは辺りから死角になっていた。
カチャリと音がしたと思ったら、壁が消えた。いや、ドアになっていた。
「………」
どんだけ、秘密通路があるんだ。しかも、他国の者が使うってどうなっているんだ。と、ティモシーは言いたかった。
(ホント、ここ誰の為に作ったんだよ)
これが、レオナールの為だとしたら彼はかなり特別な人物なのだろう。
階段をどんどんと下りて行く。そして、通路を真っ直ぐ進む。
何となく、王宮の外までありそうな気がする距離だ。
(これ、どこと繋がっているんだ?)
その答えはすぐにわかった。
階段を上がると、ドアがあり二人は外に出た。――王宮を囲む城壁の外だ。
(ありえない。これ、他国の人が知っていていいものなのか?)
ティモシーが驚いていると、何気なしにレオナールは施錠をする。
「え! 鍵まで!」
――持っているのか! そう言いたかったのだが……
「もし万が一という事がありますからね」
ここから侵入されるかもしれない。とレオナールは言ったのである。だが、鍵を所持しているは、他国の王子だ。彼が言う台詞ではない。
ルーファスがこっそり城を抜け出し、街に出るのならわかるが、他国の王子がするのはおかしいと、ティモシーでも思うが言わないないでおく事にした。
「で、どちらですか?」
「こっちです」
ティモシーは、ミュアンが宿泊している宿にレオナールを案内した。
宿に着くと、ティモシーはミュアンを呼び出してもらう。すぐに彼女は嬉しそうに現れるが、一人ではないと気づくと怪訝な顔をする。
「ティモシー……。この人は?」
「えっと……」
「ここでは何ですから、お部屋でお話を致しませんか?」
ティモシーは戸惑っていると、レオナールはそう提案する。ミュアンは頷き二人は、彼女に着いて行った。
部屋に入るとレオナールは、失礼しますと角に立つ。そして驚く事を始めた!
両手を肩の高さに前にVに広げ突き出すと魔力を感じた。トライアングルである。
真っ直ぐ伸びた手の先の部屋の壁まで魔力で直線が描かれ、片方の先からもう片方の先までまた直線が描かれる。
それが出来上がると中心に進み結界を張った。
あまりにも鮮やかで速やかに行われた為、二人はただ見ているだけだった。
「さぁ、結界の中へどうぞ。大丈夫です。これは普通なら気づかれない行為です」
「あ、あなたは何者なのです!」
レオナールの言葉にハッとして、ミュアンは問う。
「隠しても仕方がありませんので、正直にお答え致しましょう。私は、ハルフォード国の第一王子レオナールと申します」
レオナールはニッコリと微笑んだ。
ティモシーは、着いて早々の暴露に戸惑うだけだった。




