第四十四話
ミュアンの顔は青ざめていた。
「ハルフォード国ですって……」
「危害を加えるつもりはありません。ただ夢の話をお伺いに来ただけです」
警戒するミュアンに、レオナールはそう語り掛ける。
ミュアンは、ティモシーを見た。
「ごめんなさい。実は、レオナール王子にはバレてしまっていて……」
ティモシーは俯いて言った。
ミュアンは、一つため息をつくと、結界の中に足を踏み入れる。それに、ティモシーも続く。
「信用して頂きありがとうございます」
「別に信用したわけではありません」
ミュアンにそう返され、レオナールも少し困り顔だ。
「そうですか。やはり魔術師は信用して頂けませんか」
その言葉にミュアンは、レオナールを睨み付けた。
「彼に与えたそのペンダントは、魔術師から魔術師だと隠す為のものですよね? レジストの付与を付け誤魔化してはおりますが、逆に見抜かれれば魔術を使わずとも暴かれると思わなかったのですか?」
その問いにミュアンは、目を丸くする。
「まさか……」
「えぇ。そうです。私はそのペンダントで彼が魔術師だと気づきました」
「結構、自信があったのですが……」
ティモシーは、二人の会話に驚いた。
確かに魔術師だと隠す為だとミュアンから貰ったものだが、その対象が魔術師だとは思っていなかったのである。
「え? どういう事? 母さん」
「………」
ミュアンは、ティモシーの問いに答えない。
「ティモシー、あなたの父親は、あなた方が魔術師だとご存知ですか?」
ティモシーは、知らないと首を横に振った。
「この話はもういいでしょう! 夢の話をしましょう」
「そうですね」
ミュアンが強い口調でいうと、レオナールは頷き、今の話は一旦置いておく事にしたようだ。
「エイブという男がティモシーに近づいていました。知っている人ですか?」
ミュアンから切り出した。
「えぇ、王宮に入り込んでいた魔術師です。彼とはどのようなお話をなさったのでしょうか?」
レオナールの問いにミュアンは、そう言えばという表情を一瞬浮かべる。
「彼にもティモシーが魔術師だとバレているようです。ペンダントを造った方と言われました。あなたの言う通りですね……」
「気づかれてしまいましたか。それで接触をしてきたのでしょうか? ところで、あなたも同じ様にティモシーに接触をなさっておりましたがどのような魔術でしょうか? 出来ればお教え願いたいのですが」
ミュアンは首を横ふる。
「あれは魔術ではありません。ですが、あのエイブと言った者は何かしら教わって行っているのでしょう」
「と、申しますと?」
「あれは魔術ではなく、精神を体から切り離し、意識のみで行動するのです。一応ペンダントに見つけづらいように施していたのですが、あまり効果はなかったようですね」
魔術師でなくても行えるものだが、誰にでも出来る事ではない。もっと言えば、魔術師だとしても出来ない者には出来ない。
ジッと俯くミュアンをティモシーは見つめた。
ティモシーでも今の話を聞けばわかる。ミュアンがそれを扱う者達から身を隠していたことが……。でも、知れてしまったかもしれない。
「あなたはどこの出身なのでしょうか?」
「それはお答え出来ません」
「では、チミキナスナという、言葉に聞き覚えはありますか?」
「え?」
ミュアンの表情は知っていると語っていた。
「エイブが所属していると思われる魔術師組織の名前なのですが……。ご存知のようですね」
レオナールがそう言うと、ミュアンはティモシーに振り返った。
「ティモシー、一緒にここを出ましょう!」
「出てどうするおつもりです? そのペンダントを持ってしても防げなかった。逃げられはしないでしょう」
ミュアンは、キッとレオナールを睨み付ける。
「わかっています! でも、ここにいたら守ってあげられないのです!」
「では、私が守って差し上げます。彼とすでにそういう約束をしております。いかがですか?」
ミュアンは少し考えあぐんでから頷いた。
「そうですね。息子の事をお願いします」
「あなたもご一緒にどうですか?」
「私は……明日一度、村に戻ります。後の事はそれから考えます」
ミュアンは、レオナールに頭を下げた。
「母さん……」
不安げなティモシーに、大丈夫とミュアンは頷く。
「いい? 彼にはもう会ってはダメよ。語り掛けられても」
ティモシーは頷くも、どうやったら拒否できるかわからなかった。
ティモシーとレオナールは宿を出た。そして王宮に向かい歩き始める。
二人は、王宮内に入る隠し通路の扉の前に到着した。
「あの……お願いがあるのですが……」
ティモシーはレオナールに振り向き声を掛けた。
「なんです?」
「母さんも助けて頂けないでしょうか? 俺、知らなかったんです。追われているを……。そんな素振りもなかったし、魔術師だと隠して暮らしていたけど、それは魔術師の者にとっては普通だと思っていたから」
「そうですね。私もお助けしたいとは思っておりますが、ご本人が拒否されるのならば、どうにも出来ません。ですが少なくとも、私を敵ではないと認識したのでしょう。いや、チミキナスナと対立している者として言った方がいいでしょうか……」
「どうして母さんは、チミキナスナという組織から追われているんでしょうか……」
ティモシーは、俯いてボソッと呟く。
「それは本人に聞いた方が早いのですが。ところで母親のお名前はなんと申しますか?」
「え? ミュアンですけど……」
「……ミュアン」
「何か?」
ティモシーは不安げに聞く。レオナールが一瞬眉をひそめた様に見えたからである。
「いえ。素敵なお名前ですね。では行きましょうか。あまり遅くなると、ルーファスが心配します」
「え? 母さんに会いに行くのを知っていたんですか?」
レオナールは扉の鍵を懐から出し、胸の辺りまで掲げる。
「これをお借りする時にあなたと出掛ける事を伝えておきました」
レオナールは、ティモシーから話を聞く前からミュアンに会いに行くつもりだったのである。知っているのはルーファスだけで、カミーユ達にも伏せていた。だから、王宮内を周るという体裁を作る為に、薬師の制服に着替えていたのである。
「どういう事ですか?」
「前の日の夜に会っているというに、次の日の朝早くに訪れたとお聞きしました。何か重要な事をあなたに伝えに為、あるいは、あなたの安否を確認をしに訪れたかのどちらかだと思いました。どちらにしても魔術師としてのあなたに関する事だろと思い尋ねるつもりだったのです」
ミュアンが訪ねて来ただけで、そこまでわかるとはとティモシーは驚く。そして、組織と繋がりがあった事まで見抜いていたのではないか。そう思った。
「組織の事を知っているとわかっていたんですか?」
「いえ、そこまでは。ただ魔術師を避けている事はペンダントでわかってはおりました。試しに聞いてみただけだったのですが……相手に彼女の息子があなただと知れたかもしれません。あなたの母親だけではなく、あなたの身にも何か起きるかもしれません。心しておくように。では、行きますよ」
ティモシーは頷き、レオナールに続き隠し通路に下りて行った。
エイブは知らない素振りはしていたが、自分の事をミュアンの息子だと知っていて接触をしてきたのだろうか? 何の為に自分に接触をしていたのか……。ティモシーは、怖くなってきていた。自分は一体、彼に何を話していたのか思い出せないからである。




