第三十九話
ティモシーは、目が覚めた時、心臓がバクバクいっていた。そして今日は、少し夢の最後を覚えている。『ブラッドリーさんには気を付けて!』そう耳に残っていた。
(なんでそう言われたんだっけ?)
ティモシーは、上半身を起こしボーっと考える。そう言えばこの頃、エイブさんの夢見ていた気がする。
(そうだ。ザイダさんが、しつこいと教えてくれたのも夢の中のエイブさんだ。……本当に夢なんだろうか?)
ティモシーは、ふと首に手を持っていく。包帯が巻かれていた。それをほどく。そして、傷口を直に触る。
(覚えがある。俺、こうやって触った……)
そう思い出すと、ある言葉も思い出す。『自分の事棚に上げるようだけど、君を魔術師だと知らない魔術師は、信用しない方がいいよ。基本、普通の人達に虐げられた事あるはずだから。何とも思わず利用すると思うよ』
ティモシーは混乱していた。夢のはずなのに、現実味を帯びていて、本当に言われたような気がした。
「どうかしてる。今、あの人は牢の中。話せない状態だし……」
「おぉ、起きていたか」
ティモシーは、ビクッと体を震わせる。
ランフレッドが、部屋を覗きに来たのか、それとも帰って来たのか、そう声を掛け入って来た。
「あ、ごめん。昨日寝ちゃった」
心臓が飛び出るほど驚いたが、平然として言えた。
「いや、いいけどって、どうした? 傷痛むのか?」
ティモシーはドキリとする。
包帯をほどいているに気が付き、ランフレッドは気になって聞いたのだろう。
「え? あ、傷どうなってるかなって診てただけ」
「そうか。あ、昼からは聴取になったからダグと一緒に来いよ」
ティモシーは頷く。
ランフレッドは、伝えると「じゃ後で」と部屋を出て行った。
ティモシーは、何もやましい事などはずだが安堵する。
「俺、何、ビクビクしてるんだ? ……聴取か。俺、ここに来てから何回目だ?」
小さくため息をつくと身支度をし、迎えに来たダグと一緒に調合室に向かった。
午前中は、昨日と同じく簡単な調合をこなし、昼食後ティモシーとダグは聴取の為、五階の応接室に向かった。
グスターファスとルーファスが並んで座り、後ろにランフレッドが立ち、前には四人座っている。右から順に、ブラッドリー、ティモシー、ダグそしてザイダだ。
今回、ブラッドリーも聴取される側なので、一緒に座っているのである。
「さて今度は、昨日の事をお伺いしたい」
四人を見渡しグスターファスが言った。
(今度は? もしかして午前中も聴取していたとか?)
予想通りミゲルとギルシュそしてザイダを呼び、道具倉庫の件を聞いていたのである。
「ザイダ、あなたは、何故あのような事を起こしたのかお聞きしたい」
「………」
グスターファスがそう問うも、ザイダは口を開かない。そこで、彼はティモシーを見て問う。
「ティモシー、あなたは彼女から話を聞いたというがどうかね? どんな話を聞いたか教えてほしいのだが」
「……それは」
ティモシーは、ためらう。出来れば、ザイダに話して欲しかった。そのほうが、彼女の思いがまだ、グスターファス達に届くのではないかと考えた。
「ザイダさんから直接聞いて下さい」
ティモシーの言葉に全員驚く。素直に話すと思っていたからだ。ザイダも驚いていた。
「そうね。ここに、トンマーゾさんを連れて来て、彼からも証言を取るというのならいいわ」
ザイダは、取引めいた事を言い出した。トンマーゾは魔術師だ。レオナールがいない今、ここに連れて来るのは危険なのではないか。皆、同じ考えである。
「それはできない」
「何故ですか?」
グスターファスは言葉に詰まる。トンマーゾが魔術師だからとは言えないからである。彼女が、ブラッドリーの事を魔術師だと聞かされていたとしても今はまだ誤魔化せる。だが、トンマーゾが魔術師だと明かせば、ブラッドリーが魔術師だというの事は否定出来なくなる。
それに、トンマーゾ達が、魔術師だと知ってしまえば被害が及ぶかもしれない。
「オレ……私も、トンマーゾさんから話を聞きたいです」
ティモシーの言葉に、また周りが驚く。
何かおかしい。ランフレッドは、ティモシーの様子をそう捕らえる。ダグも一緒だ。
ティモシーは、トンマーゾに聞きたかった。ザイダが魔術師ではなかったから利用したのか。それとも、ちょうどよく現れたからなのか……。
「この人が魔術師だという事は確実よ! あの時否定しなかった! ティモシーも知っているわ! って言うか、皆知っているのよね? 脅されているの?」
ザイダの言葉に困ったと、グスターファスとルーファスは顔を見合わせる。適当な事を言ってももう誤魔化せない。
「あの、一ついいでしょうか?」
ダグは控え目に、声を上げる。
「なんだ?」
「ザイダさんって、もしかしてティモシーに復讐しようとしたのではなく、ブラッドリーさんに復讐しようとしたのですか?」
「そうよ!」
ダグの質問にグスターファスではなく、ザイダが答えた。
彼は、エイブからティモシーを助け出したのは、ブラッドリーだとは聞いていた。だが、エイブがどうなったかは聞いてはいない。しかし、彼女が復讐をしようと思う程の事が、エイブの身に起きていたという考えに至る。助けだしたぐらいでは、ここまで恨みは積もらないだろう。
「あれ? 全部知っているんじゃ……」
ランフレッドは、ダグも事の成り行きを知っていると思い込んでいた。だが、聞いたのは道具倉庫に閉じ込められた事までだった。
「じゃ、あの噂の半分はあっていた?」
ダグは、ボソッと呟いた。
ランフレッドにではなく、ブラッドリーに半殺しの目に合っていた。そう気が付く。
「そうだよ。……予定通りだったの? エイブさんが私をターゲットにする事も……あの倉庫にあてがわれるのも! ザイダさんが何かアクションを起こす事も!」
立ち上がり、隣にるブラッドリーにティモシーは言った! それにはブラッドリーも面食らう。
「な、何を。たまたまそうなっただけだ」
「たまたま? 自分が抜ければ誰かがあてがわれる。それをわかっていてよく言うよ!」
シーンと静まり返る。ティモシーの言いたい事が皆わかったからである。
ジッとブラッドリーは、ティモシーを見据えた。一体誰が彼に口添えをしたのか。ブラッドリーに怯える様子は伺える事もあったが、今までそう思っている素振りはなかった。
ブラッドリーだけではない。ザイダを除く全員がそう思った。
「お前、何があった? 誰に言われたんだ? それ……」
ダグはそう言いながら立ち上がる。
「誰にも別に言われてない」
自分が利用されたとしたら、そういう事だろうと思ったのだ。
「そうみたいね。エイブさんを嵌める為にティモシーを利用したのね!」
ザイダはそう言い放った。どうしてエイブを嵌めなくてはいけなかったか。などという事は、彼女には関係なかった。
「二人共落ち着きなさい」
グスターファスは、二人をなだめるように言う。
「陛下は、平等ではないのですね。今お聞きしましたよね? トンマーゾさんをもブラッドリーが嵌めた! その可能性があるのに、彼の話は聞かないのですか!」
「わかった。彼にも話を聞こう」
「え! 父上!」
ため息をしつつ、ルーファスに耳打ちをする。
「真相をしる為には必要だ。それに、ダグもいる」
「それはそうですが……」
不安は残るが、トンマーゾは、マジックアイテムで魔術を封じている。滅多な事は起こらないだろう。それがグスターファスの考えだ。
「悪いが、ダグとランフレッドは、ブラッドリーと一緒にトンマーゾをここに連れて来てほしい」
グスターファスの命令に、三人は頷き部屋を出て行った。




