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魔術師なのはヒミツで薬師になりました  作者: すみ 小桜
第八章 惑わす声

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第三十八話

 ティモシーは、医務室でクルクルと首に包帯を巻かれていた。

 ブラッドリーは、流石に上手だ。苦しくもなく緩くもなく巻いて行く。少し前なら、このまま首を絞められるのではないかと、怯えていた事だろう。

 「すまなかったな。あのドアは開かない様に施した」

 秘密の通路にでるドアの事である。

 「うん。あの……ザイダさんってどうなるんだ?」

 ブラッドリーはジッとティモシーを見る。危害を加えた相手の心配をするのかという顔である。

 「王宮専属は首だろうな」

 (トンマーゾさんが、あんな事言わなければ!)

 確かにザイダは、ティモシーに危害を加えたが自分を襲うというよりは、エイブに怪我を負わせた相手に復讐する為だった。トンマーゾが彼女を煽らなければ、ここまで大きな事件にならなかったかもしれない。

 ティモシーは、悔しさでいっぱいだった。

 「ティモシー。そそのかされたからと言っても、自分で判断してやった事だ。彼女が責任を取るのは当たり前だ」

 「そうだけど……」

 「失礼します」

 ノックと同時にそう声が掛けられ、医務室にオーギュストが入って来た。その後にもぞろぞろと……。ダグにアリック、ベネット、ランフレッドもいた。皆ティモシーを心配している様子だ。それも当然で、ダグが彼女を遠ざけたというのに、こういう事態を回避出来なかった。

 「すまないな。まさか、こんな手に出るなんて……」

 何故かダグがバツが悪そうに言う。いつもの彼らしくない態度に、ティモシーだけではなく周りも驚く。

 「え、なんで、ダグさんが謝るの?」

 「そうです。彼女がティモシーに近づいたようなので、私も警戒をしていたのですが、ベネットに伝えておくべきでした」

 ティモシーの言葉に乗るように、オーギュストが言う。彼は、ザイダがティモシーに近づき、何かする気ではないかと感づいていたのである。

 「あ、やっぱり、あれ、ワザとか?」

 「だと思われます」

 ダグの問いにオーギュストは頷いて答えた。

 「あれって何だ?」

 「ティモシーとぶつかって、調合ビンのビンが割れたんだ」

 ランフレッドの問いに、ダグが素直に答える。

 「それって接触を図って来たって事かよ」

 「申し訳ない。今回の事は全て私の責任だ。ティモシーがその後、彼女の策で襲われそうになった事を報告しておりませんでした」

 ブラッドリーは頭を下げ、オーギュストに今、伝えた。本当は、彼女がその後隠し扉から地下に行き、トンマーゾにそそのかれ、自分に復讐する為にティモシーを利用したという事は言えない。言えるのは、今言った事だけだった。

 「ちょっと待て! 俺も聞いてない! ティモシー、お前何故俺に言わなかった!」

 「え! いやだって、忙しそうだし。ダグさんが送り迎えしてくれるって言っていたし……」

 ランフレッドは、ティモシーの答えに眉を寄せる。彼にしてみれば、ティモシーを守る為に、王宮に泊まらせた。だが、今回もそれが裏目にでた。しかも、ブラッドリーさえ、報告してくれなかったのである。

 「今回の事は、連絡がちゃんと取られていなかった。それが原因でしょう。これからは、連絡を密にするようにしましょう。まあ、内部でこんな事が起きるなど、誰も想像しなかった事です。これを教訓にしましょう」

 オーギュストがそう締めると、皆頷いた。

 「取りあえず、部屋に戻るか」

 ティモシーは頷き、ランフレッドの元に向かう。

 「ブラッドリーさん、何故すぐに報告を上げなかったのです? あなたらしくもない」

 オーギュストは、ブラッドリーに耳打ちするように囁く。

 彼は、ティモシーを治療した後、色々確認やらをしているうちに遅くなり、翌日報告をしようと思ってはいた。

 朝一に報告をすればよかったが、王宮に泊まっている彼も調合の仕事が回って来ていた。倉庫の材料の管理もある。気が付けば、その日も夜が更けていた。それは言い訳にしかすぎないが、つい、報告が後回しになったのである。

 「申し訳ありません。ティモシーが男だと伝えたので、もう手出ししないかと思い。……いえ、報告を後回しに致しました。本当に申し訳ありません」

 ブラッドリーの答えに、オーギュストはチラッとティモシーを見た。男だと言われた所で、あの見た目では信じられないかも知れない。しかも噂は、彼を襲ったっとなっているのだから。

 オーギュストは、エイブがティモシーを襲い、男だとわかり逆上し危害を加えようとした所をランフレッドが止めた。という報告を受けていた。つまり、噂は事実は少し異なるが、それも仕方がないと納得していた。

 今回の事件は、色んな事が重なり起きた事件。そうオーギュストは解釈した。



 ティモシーとランフレッドは部屋に戻り、向かい合って座っていた。レオナールの部屋にあるような立派な物ではないが、この部屋にもソファーとテーブルがあった。

 「まさか、女が襲ってくるとはな……」

 ランフレッドは、魔術師どころか今回は男ですらなかった事に、完全に意表を突かれた。

 「……あのさ。後でブラッドリーさんから聞くと思うけど。ザイダさん、トンマーゾさんにそそのかされたんだ」

 「はぁ? どういう意味だ?」

 ティモシーの意外な言葉に、ソファーにだらしなく身を預けていたランフレッドは、ガバッと上半身を起こし前のめり気味で問う。

 「実は……俺を策に嵌めるのに失敗したザイダさんが逃げたんだけど、その時に隠し扉に逃げ込んで、地下におりちゃったみたい……」

 「はぁ! あれ、そのままだったのかよ!」

 ランフレッドもそれの存在を知っていた。一週間で戻ってくる予定だったので、そのままだったのだろう。

 「ちょっと待て! それも含め俺、何も報告受けてないぞ」

 ランフレッドは、大きなため息をつく。

 ティモシーは、ザイダが話した事をランフレッドに話した。段々と彼の顔は険しくなっていく。

 「悪い、俺。陛下に報告に行ってくるわ」

 話を聞き終えたランフレッドは、立ち上がると「寝てていいから」と言い残し、部屋を出て行った。



     ☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆



 「ティモシーさん」

 何故か語尾が上がって呼ばれたような気がして目を開ける。

 エイブが機嫌がよさそうに声を掛けていた。

 「……エイブさん」

 「今日も元気ないね? って、ここどうしたの?」

 エイブは、自分の首をちょんこんと指差した。ティモシーは、自分の首に手を持っていき、ハッとする。

 包帯は巻かれていない。直接傷口に触れるも痛くもないし、勿論出血も止まっている。

 「………」

 「言いたくないら別にいいけど」

 ティモシーは、ジッとエイブを見つめた。エイブに関係する事だが、どちらかと言うとティモシーには、トンマーゾに非があると思っている。

 「あのさ。……トンマーゾさんってどんな人?」

 「トンマーゾさん? もしかして、彼が……」

 ティモシーは、彼がやったのと同じ事だと思うも首を横に振る。

 「まあ、いいや。彼は俺から見ると、ずる賢いというか、せこいというか……。あ、そうそう。お金にがめついがしっくりくるかな?」

 ティモシーは、あぁ、なるほどと頷く。エール草を栽培していたので納得したのである。

 「ところでなんでまた彼の話なんか……。君と接点あるように思えないけど……」

 「え? あぁ……。うーん……」

 「言えないならいいよ」

 エイブは、それ以上聞こうとはしなかった。

 「ねえ、俺も質問あるけどいいかな?」

 「えっと、何?」

 「ブラッドリーさんって、君が魔術師だって事知ってるの?」

 「え?」

 ティモシーは、なぜ彼が自分が魔術師だと知っているのかと驚く。

 「あ、この姿になったから、君の魔力の量で気づいたんだ。魔術を使っていなかったとしても、量が多いからね」

 エイブは、ティモシーが驚いている訳に気づき説明をすると、質問の答えを促すようにティモシーを見つめる。

 「えっと。どうだろう? 多分、知らないと思う……」

 「だよね?」

 「え?」

 エイブの相槌に、ティモシーは、どういう事なんだろうかと驚く。

 「彼は、俺の事も嵌めたけど、君の事も嵌めたと思うよ」

 「どういう意味?」

 ティモシーは、心臓がドクンドクンと脈打つのがわかった。

 「俺の仕事を手伝っていたのが、ブラッドリーさんだったって事。自分が手伝えないとなれば、誰か手伝わせるだろう? もし君を指定しなかったとしても、あの場合、君をあてがうのは自然だよね?」

 エイブの言葉に、ティモシーは茫然とする。動きを見せない彼を嵌めるのにちょうどいい自分がいた。だから利用した?

 (もしかして今回も……)

 ブラッドリーが、ランフレッド達にさえ報告を入れなかった事を思い出す。何か意図があったのではないか。そう思い当たる。

 「もしかして、何かあった?」

 ティモシーは無意識に、首の傷に手を持って行った。

 「自分の事棚に上げるようだけど、君を魔術師だと知らない魔術師は、信用しない方がいいよ。基本、普通の人達に虐げられた事あるはずだから。何とも思わず利用すると思うよ」

 ティモシーはそれを聞いて、目を見開く。

 ブラッドリーではなく、トンマーゾの事を思い浮かべる。彼は、ザイダを利用した。彼女に指示など出していない。だが、エイブを誰がこんな目に合せたか教えれば、彼女は勝手に動く。それをわかっていて教えている。

 エイブの言う通りだ。トンマーゾの事をあてはめ、そう納得した。

 「ブラッドリーさんには気を付けて!」

 ティモシーは、頷いた――。 

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