第三十七話
真っ暗闇の中、彼は進んでいた。そこに光を見つける。
「居た。トンマーゾさん!」
「エイブか?」
光はトンマーゾだった。そしてエイブも光だ。
「そうだよ。うーん。やっぱり魔力を刻まないと感覚のみなんだ。それにしても、随分近いね?」
トンマーゾはフンっと鼻を鳴らす。――人の姿ならそう見えただろう。
「隣にいるからな」
「へえ、捕まったんだ」
「……で、何か用か?」
捕まったかどうかは語らないが、否定しないという事は肯定である。
「いや、もう遅いけど、ブラッドリーさんには気を付けてって言おうと思ってね。あの人、魔術師だったから」
「ふん。あいつめ刻印を探していた。お前かなりヘマやっただろう。魔術師の国の王子も乗り込んできていたぞ」
トンマーゾはギロリと睨んだ。
「あぁ。まさか、あそこで乗り込んでくるとは思わなくてさ。ごめんごめん。しかし、魔術師の国と交流があるって噂だったけど本当だったんだ。この国の王って、変わった王だね」
「全くだ。いい土地だったから、エール草で一儲けしようとしたのにな! パァーだ」
「相変わらずせこいね」
トンマーゾの愚痴に、エイブはクスクスと笑う。
「そう言えば、ザイダが牢を覗きに来ていたぞ」
「え? あの人、ここまで来たの? 怖いねぇ」
ちっとも怖がった素振りはない。どちらかと言うと、楽しんでいる様に見える。
「折角だからお前をこんな目に合せたのが、ブラッドリーだと教えてやった。魔術師だともな」
トンマーゾは、後からよく考えれば、エイブが事を起こした時にはまだレオナールがこの国にいなかった事に気が付いた。ならば、彼しかいないと判断したのだ。
「へえ、どんな反応示してた?」
「うん? 楽しい事になりそうな、顔つきだった」
「彼女のしつこさも役に立ちそうだね」
二人は笑い合う。
「さて、俺は起きるかな。しかしお前、結界外でよく動けるな」
「精神のみだからね。トンマーゾさんもやってみたら?」
「……いや、遠慮しておく」
「そ。結構楽しいのに」
「じゃな」
目の前の光は、スッと消えた。
「……ヘマはお互いさまだろう? でも、ティモシーさんから話を聞くのが楽しみだ」
エイブは、ボソッと呟く。
彼は、ただのエール草の密造が自分と結びつくワケがない。トンマーゾが魔術師だとバレたのだと感づいていた。勿論ティモシーが聞いてきた一言がきっかけである――。
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次の朝、ティモシーは起こされずに自分で目を覚ます。
隣のベットには、ランフレッドが寝ていた。今日は午後からだと聞いていたので、起こさないように身支度をする。
「今日は自分で起きたんだな」
「え? あ、おはよう」
後はダグを待つだけとなったティモシーに、目を覚ましたランフレッドがベットの中から声を掛けて来た。
「おはよう。体調はどうだ?」
「うん。大丈夫」
ドアがノックされ、ティモシーは「いってきます」と通路に出た。予想通りザイダも居る。
「おはようございます」
「おはよう」
「あら、元気そうね。おはよう」
ティモシーが挨拶すると、二人は挨拶を返して来た。三人は調合室に歩き出す。誰も話さず、黙々と歩くだけだった。
調合室に着くと、アリックとベネットはもう来ていた。
「あ、おはよう!」
アリックは、二人に会えて嬉しそうに挨拶をする。怪我の方はだいぶよさそうだ。
「おはよう」
ベネットもティモシーが元気そうで安堵の顔を見せる。
今日の午前中は、数種類の簡単な調合をこなす。
そしてお昼に行く前に、ベネットが午後の予定を告げる。
「ダグは、今日も第一倉庫の手伝いをお願いします。ティモシーは、第八調合室のお手伝いを……」
「「え!」」
ティモシーとダグがハモった。
「それ、俺と交代できないか?」
アリックとベネットは、二人が同じ反応を示した事に驚いたが、ダグがそう提案した事に凄く驚いた。彼はあまり、そういう事には口を出さなかったからだ。
「何かあったの? 向こうもティモシーを指定してきたし。女性がいるから大丈夫だと思ったんだけど……」
「え! いや、別に……」
ティモシーは、エイブの件が絡んでいるし、知れれば心配されると濁す。
「その女が問題なんだ。エイブさんにぞっこんだったみたいで、ティモシーに逆恨みしている」
「何で言うの!」
だが隠した事をダグに言われ、ティモシーは抗議した。
「運よくなんて、そう続かないんだぞ!」
ダグは、またタイミングよく助かる事はないと言っているのだ。
「そ、そうだけど……」
「別に俺の方は、どっちでも大丈夫だから倉庫に行け」
決めるのはベネットだが、ダグはティモシーにそう命じた。
「そうね。今の感じだとそれがよさそうね。じゃ、ダグが第八調合室で、ティモシーが第一倉庫の手伝いをお願いね」
「はい……」
「アリックは、私と第二調合室に」
「はい」
アリックは頷いて返事を返した。
こうしてそれぞれ、午後の仕事についた。
ティモシーは、メジドルクと一緒に仕事をこなし、無事終了する。
「お疲れ。今更だが怪我大丈夫なのか?」
「……終わってから聞くのかよ」
メジドルクの台詞につい、ティモシーはそう漏らす。
「あははは。悪い悪い。結構元気だったからさ」
「うん。ちょっと肩が痛いだけだから……」
トントントン。
「うん? 誰だ?」
メジドルクが「あいよ」と言って、ドアを開けに行く。
(あ、ダグかな? 迎えに来てくれたのか……え?)
ティモシーは、そう思いドアが開くのを見ていると、ザイダが入って来た。そしてティモシーの左肩を掴んで壁に押し付けた!
「いった!」
「おい! 一体何を!」
驚いたメジドルクが言うも、ザイダが懐から出したナイフを見て更に驚いた。それを彼女は、ティモシーの首に押し付ける。
「ブラッドリーを呼んできて!」
(え? なんでブラッドリーさん?)
メジドルクは青い顔をして、彼女をなだめながら頷き、ブラッドリーを呼びに走った。
「ザイダさん……やめて! 何でこんな事!」
「エイブさんが何をしたって言うの? あなた、男なんでしょ? なんで、エイブさんがあいつにあんな大怪我負わされているのよ!」
目の前で怒鳴るザイダをティモシーは、目を見開いて見つめた。
(あの時、もしかして地下に行ったのか?)
「あれ? ちょっと待って。なんで怪我させたのが、ブラッドリーさんだって……」
「……トンマーゾさんが言っていた事は本当なんだ!」
彼女は、ギラギラとした目をしていた!
(しまった! 余計な事言った……)
ザイダは、問い詰めた所で言わないだろうと、トンマーゾが言った事が本当かカマを掛けたのだ。
「驚いたわ。地下に行ってみたらトンマーゾさんが居て、隣に大怪我をしたエイブさんも居て……。ブラッドリーが魔術師で、それを知ったが為にエイブさんは半殺しの目に遭ったってね」
「え……」
(魔術師だって事も言ったのかよ!)
ザイダはキッとティモシーを睨む。
「あなたも脅されて、従わされているんでしょ? 彼、言っていたわよ。ブラッドリーに命令されて、エール草の栽培をしていたら王子にバレて捕まったって。自分一人のせいにされたって!」
「え?! それ、信じたのかよ!」
「事実だったからね! あったのよ! エール草が! あなたも協力しなさいよ! 一矢報いるのよ!」
彼女は、トンマーゾに言いくるめられていた。嘘に事実を混ぜる事で、上手く騙していたのである。
(どうしたらいいんだ!)
ブラッドリーがエイブをあんな目に合せたのは事実である。エイブも魔術師で、自分を拉致しよとしたと、本当の事を言った所で信じないだろう。っとティモシーは思い困惑する。
「何をしている! ティモシーを離しなさい!」
話を聞いたブラッドリーが姿を現した。
「いやよ!」
グッとナイフを首に押し付けた。ジワリと血が滲み出る。
「何が目的だ?」
「あなたが魔術師だと公表しなさいよ!」
自分が呼ばれたのだから何か目的があるのだろうと問うと、意外な言葉にブラッドリーはチラッとティモシーを見た。勿論ティモシーは、言ったのは自分ではないと、軽く首を横に振った。
「やっぱり、ティモシーもあなたが魔術師だと知っているみたいね!」
今の行動でハッキリしたと、ザイダはブラッドリーを睨む。
「そんな事をしたところで、誰も信じない。やめろ!」
ブラッドリーもザイダを睨み返す。
(やばい。このままだと魔術を使ってくるかもしれない!)
攻撃を使わずとも眠らせる事も出来るが、それをすれば見に来た野次馬にバレるだろう。
ブラッドリーを呼びに行ったメジドルクは、その足で兵士にも言いに行ったのである。それが騒ぎを大きくし、人が集まって来ていた。
ダグやアリックの姿もある。
(仕方がない……)
「ザイダさん、協力するから、首から少しナイフを離して」
ティモシーはそっと、彼女に耳打ちした。チラッと見た後、三センチほどナイフを離した。その手をティモシーは、ひねり上げる。
「え? いた!」
そのまま後ろに回り込み、ナイフを叩き落とした。ザイダはティモシーを睨み付けた。
「ザイダさんは、騙されているんだ。エール草を密造していたのはトンマーゾさんで、ブラッドリーさんに擦り付けただけだよ。俺、その時いたから。って、言うか見つけたの俺だから……」
その耳打ちに、ザイダは目を見開く。
「嘘よ! だったら何故エイブさんがあんな目に!」
「噂通りだよ……」
ティモシーは、目を伏せて答えた。
ザイダは兵士に取り押さえられ、この事件はエイブの事で逆恨みしたザイダがティモシーを襲ったと噂が流れた……。




