第三十六話
目を覚ますと、ランフレッドがティモシーを揺り起こしていた。
「朝だ。起きろって。お! やっと起きたか。おはよう」
「おはよう」
ティモシーは、上半身を起こす。
「昨日戻ってきたらもうお前寝ていたけど。どこか体調悪かったりするのか?」
「ううん。眠かっただけ」
ティモシーは首を横に振り答えた。
「それならいいけど。休み今日までだし、体調悪かったら寝てろよ。じゃ、行ってくるわ」
「うん。いってらっしゃい」
今日もランフレッドは、元気よくルーファスの元に向かっていった。
(なんか、今日もエイブさんが夢に出て来たような気がする……)
取りあえず今日は大人しく、レオナールの部屋に行くことにし、支度を終えると部屋を出た。
「おはよう」
部屋を出た所で声を掛けられビックリし、相手を見て更に驚いた。
ザイダだった。
「なんで、ここに?」
「私も王宮に泊まる事にしたのよ。それより昨日はごめんなさいね」
突然ザイダはそう言うと、頭を下げた。
「え? あの、えーと」
突然の事にティモシーは、狼狽える。
「あなた、男だったんですってね。変な事いっぱい言ってごめんね。調子がいいかもしれないけど、王宮内に泊まってるし仲良くしましょう」
ザイダは右手を出して来た。握手を求めているのだとティモシーは思うも、あまりの豹変に戸惑う。『しつこいから気を付けて』とも聞いていた……。
(あれ? 誰に聞いたんだっけ?)
「ちょっと無視?」
「あ、ごめんなさい」
ムッとした言葉に、ティモシーはハッとして、握手を交わした。
「調合室行くのよね? 一緒に行きましょう」
「え! あ、えっと寄る所あるから……」
調合室ではなく、レオナールの部屋に行くとは言えない。咄嗟にそう言うも……
「あら、どこに寄るの?」
そう聞かれ、ティモシーは戸惑う。
「ブラッドリーさんに用事があって、五階に!」
「ふーん。そう。あの人に取り入ってるんだ……」
ギロリと睨まれ、ティモシーは一歩下がった。
(仲良くする気なんてないだろう……)
「じゃ、今日は一人で行くわ」
「え!」
驚いてボー然とするティモシーは、ザイダの背中を見送った。
ティモシーはレオナールの部屋に入ってから、もう二ケタのため息をついていた。
「絶対嫌がらせだよな……」
ザイダは『今日は』と言って調合室に行った。明日も迎えに来る気なんだろう。明日からは調合が始まる。こうなったらダグに言って、三人で調合室に向かうしかない。そういう結論になるも、ダグも巻き込んでしまうと悩む。
ティモシーは、今日は全然読むのが進まなかった。
結局そのまま夕方になりタグが来た。
「今日は調子どうだ? ……悪いのか?」
「あ、いや……。あのお願いが……」
結局ティモシーは、ダグに一緒に行ってもらう様にお願いする事にした。勿論男だったという所は言ってはない。別に言ってもいいが、今それを言って一緒に行くのを断られたら困るのである。彼はそんな事をしないと思うが、絶対とは言えない。
話を聞いたダグは眉を顰める。
「ザイダさんってエイブさんにかなり気があったんだろうな。本当の事も言えないし。まあ、同じ並びなんだし、送り迎えぐらいしてやるって。それにこれから泊まるやつ増えてくるだろうし」
「増えるって。どうして?」
「仕事が滞っていて、送り迎えが間に合わないから王宮に泊まらせるって事さ」
なるほどとティモシーは頷く。
「お前、絶対にランフレッドさん以外の奴が訪ねて来ても、ドア開けるなよ! 絶対だぞ!」
「え? うん。わかった」
頷いて答えるも、ダグは溜息をつく。わかってないだろうと。
「じゃ、今日はもう送って行くか。明日、七時五十分に迎えに行くから、部屋の中で待ってろよ!」
「うん。ありがとう」
話はまとまり安堵して、ティモシーは自分の部屋に戻った。ダグは、一つ開けて、右隣だった。
☆~~~~~☆~~~~~☆~~~~~☆
「ティモシーさん」
「……誰?」
「俺だよ。エイブだよ」
ティモシーは目を開ける。目の前にエイブがいた。
「なんか今日も疲れているね? 仕事大変なの?」
「いや、今日まで休んでいたから……」
エイブは、少し不思議そうな顔をする。自分が原因ならこんなに打ち解けていないだろうと察した彼は、ジッと見つめながらティモシーに優しく語り掛ける。
「何かあったの?」
ティモシーは、ハッとする。
三人に襲われた事を思い出したのである。
「何かあったのって! 白々しい!」
突然雰囲気が変わり、エイブはしまったという顔を一瞬するも、困り顔で聞く。
「そう言われても、外の事は君から聞かないとわからないから。取りあえず、教えてくれないかな? ね?」
「………」
(本当に知らないのか? それともエイブさんが倒れた後に決まったことだからなのか?)
ティモシーは、考えた挙句頷いた。もしかしたら組織の事を聞けるかもれないと思ったのである。だが、目を覚ませば忘れている事をティモシーは気づいていない。
「三人組の男に襲われたんだ。目的は俺達を拉致する事。エイブさんと同じだよ。それでも関係ないって言うの?」
「なるほどね。でも、それだけじゃ、わからないな」
ティモシーは、疑いの眼差しでエイブを見た。
「嘘だ! エイブさんも組織の仲間なんでしょ? だったらこの三人ともつながってるよね!」
エイブはにっこりほほ笑んだ。
「そっか。組織の事教えてもらったんだ。でもね、その三人組は知らないよ。多分、俺が君をターゲットにした事を知らなかったんだろうね。取り逃がした相手をもう一度狙うなんてリスクが高いからね」
ティモシーは何故か項垂れる。
「エイブさんは何故組織なんかに入ったの?」
「君はなぜ知って入ろうと思わなかったの?」
エイブは、ティモシーの問いに問いで返して来た。
「何故って! あんな事する組織になんて入る訳ないだろう!」
「でもよく考えてごらんよ。俺達が魔術師だと知ったら、それだけで殺そうとしてくるんだよ? おかしくない?」
ティモシーは黙り込んだ。ダグから聞いた村を追われた話を思い出す。そして、自分が魔術師だという前提で話が進んでいる事に気が付いていない。
「だからって……」
「あ、一つ言っておくね。組織に所属しているのは色々メリットがあるからで、俺一人で動いているから。だから、他の人の事は把握していないんだ。結構そういう人もいるよ。ただ、想いは一つ。魔術師の世界の復活だよ」
それは、自分の意思であり、命令されてやっているわけではないという事になる。ティモシーは、何故かショックを受けた。それを察したエイブは少し眉を顰め聞く。
「君ってもしかして、魔術師であることをあんなに隠しているのに、痛い目にあった事ないの?」
「え?」
「あのペンダントは、魔術師からもばれないようにだよね? 凄い気合の入れようじゃない? なのに君、お人好しだし。だからまさか魔術師だと思わなかったよ」
エイブは、ティモシーが魔術師だと知った時、昔ひどい目にあったからこそ、魔術師からもわからないように隠しているのだと思っていた。連鎖的に魔術師だとばれない様にしているのだと。でも違う。そう感じた。
「俺は魔術に興味なかったからバレてない。でも、母さんが薬師になるならって造ってくれて……。でも、バレたら大変なのは聞いている」
自分が魔術師だと相手が言っているのにも関わらず、ティモシーはそれを自然と受け入れていた。
「そう、でもね。使わなくても他の人からすれば、君も魔術師なんだよ? まあ、一度もそういう目に遭っていないんじゃ言ってもわからないか……。じゃ、この話はもう終わり! 君、さっき俺達って言ったよね?」
「え? あ、うん。あ、そうだ! 相手、黒い石使ってきたけど、エイブさんも使っていたよね? あれはマジックアイテムなのか?」
「あぁ、それね。知りたいのなら教えてあげてもいいけど。その前に、どうやって相手から逃れたのか知りたいなぁ」
エイブはニッコリ微笑んで言った。だが、目は笑ってはいない。
「眠らされてしまったからわからない……」
「それ、俺に通じると思ってる? レジストしたでしょう? 見ていたはずだよ?」
「………」
(レオナール王子と同じ事言ってるし……)
ティモシーは、ダグの事は教えたくなかった。魔術師だと知れば、何らかの方法で接触しそうだからである。それは、ティモシーでもわかった。
「ふーん。そう。じゃ、君は何かした?」
ティモシーは首を横に振った。エイブは、それを見て頷いた。
「そっか。黒い石の事だったね。あれは一応マジックアイテムだよ。と言っても刻印を刻んであるだけだけどね」
「え? だけって?」
ティモシーは問うもエイブは首を傾げる。
「君も全て教えてくれないし、ここまでだよ。じゃないと、フェアじゃないよね?」
「う。……じゃ、仲間は? 例えば、倉庫の人とか……」
「うん? 仲間? それって組織のって事かな?」
ティモシーは頷く。
「さあ? さっきも言ったけど、俺一人で動いてるって言ったよね? さてと今日はここまで……」
「待って!」
ティモシーは何故か、エイブは消えてしまうと思い、まだ聞きたい事があると呼び止めた。
「大丈夫。また、明日も会えるから。ね」
その言葉を残し、エイブはの姿はスッと消えてしまう。
「明日も……?」
ティモシーは、毎日会っているような気がした、そして今更ながら、何故自分が魔術師だと知っていたのだろうと思うのであった――。




