第三十五話
倉庫に着くとザイダは、ドアをノックし返事も聞かず開けた。
「連れて来たわよ」
そう言ったかと思うと、ティモシーの左手を取ると、倉庫に投げ入れるように引っ張った!
「いた!」
ティモシーは、両膝を突き、右手で左肩を擦る。
バンッと聞こえたあと、ガチャリという音も聞こえドアを振り向く。鍵を掛けたのはザイダだった。
ハッとして、中にいる人物を見ると先ほどザイダと一緒に居た二人だった。
ティモシーは、辺りを見渡す。道具が入れられた棚があるが扉などない。衝撃を与えれば、道具は落ちて来るだろう。つまりは、棚にぶつかれば道具は壊れる事になる。
(まずい。ここでは暴れられない)
別に相手が何もしてこなければそんな必要がないが、放り込まれたのだからそのつもりだろう。彼女はもしかしたら、復讐のつもりなのかもしれない。
「待って! 俺、こう見えても男だから!」
近づいて来る男たちにそう言って、先手を打ったつもりだったが、大笑いするだけだった。
(信じてないし……)
ティモシーはドアをチラッと見た。別に鍵を掛けられたとしても、内側からは開けられる。通路に出れば何とかなるどろうと立ち上がった。
ところが後ろに回り込んでいた男がティモシーを羽交い絞めにする。左肩に激痛が走った。
「痛いって! 降ろせよ!」
ティモシーは、背丈の関係上持ち上げられつま先立ちである。
「ナイス! ミゲル」
「暴れるなって! おい、ギルシュ、早く……」
ガチャッと突然鍵が開けられる音がして、ドアが開いた。三人は驚いてそちらを見ると、ブラッドリーが立っていた。
(え? ブラッドリーさん?)
「ここで何をしている? 立ち入る許可は出していないが?」
この倉庫もブラッドリーの管轄だった。普段ここは誰も立ち入らない場所だ。
男たちは言い訳を考えているのか黙っているとブラッドリーは言う。
「ミゲルさん、ティモシーを離してもらってもいいか?」
「え? はい……」
言われた通りミゲルは、ティモシーを開放する。
ブラッドリーは倉庫の中に入って来た。
ティモシーは左肩を擦る。その時ドアの方で微かに音がした。フッと見ると、ドアの際にカギを置くザイダと目が合う。彼女は慌てて逃げ出した!
(逃がすかよ!)
ティモシーは、ザイダを追いかける為、倉庫を飛び出した。
「ティモシー!」
ブラッドリーの驚いた声が聞こえたが、そのままザイダを追いかける。結構離れているが、全速力で追いかけた。
先は行き止まり。もう少しで追いつけると思っていたら、急に右に曲がった。行き止まりではなく、T字だった。
(行き止まりじゃなかったのかよ!)
ティモシーもすぐに曲がったが、驚いて止まった。いや、止まるしかなかった。それこそ行き止まりだったのである。
曲がってすぐに右手にドアがある。だがティモシーは、ドアが開閉する音を聞いていない。急いでいるのに音を立てずに開け閉めなどしないだろう。それに逃げ込むとしたらここだけなのだから、音を立てずに部屋に入る意味がない。
一応ドアが開くか確認するも鍵が掛かっていた。ドアに耳を当て部屋の様子を伺うも、人の気配はしない。
(どうなってるんだ? 多分、ここには入ってないよな?)
壁に沿って見てみるが、やはりドアが一か所あるだけだった。
「マジか……。まさか魔術師じゃないよな?」
不安が過るも、魔力は感じていない。訳が分からなかった。
仕方なくブラッドリーの元へ戻る事にする。まだ三人は倉庫の中にいた。
「どうした?」
戻って来たティモシーにブラッドリーは一言聞いた。
「ザイダさんを追いかけたら行き止まりで消えた……」
困惑した顔でティモシーは答えた。
「ザイダか……。嘘は言ってないようだな」
ティモシーがザイダを追いかけている間に、二人に話を聞いていたのだった。彼らは正直に話したようだ。
二人を開放した後、ティモシーはブラッドリーと一緒に、レオナールの部屋に向かった。
部屋の中でブラッドリーは、ティモシーの左肩を診た。
「しばらくは左腕は、あまり動かさない様に」
そう言われ、ティモシーは頷く。
「さっきの二人だが、もうあなたを襲う事はないだろう。男だと教えてやった」
「え! 信じたんですか?」
ブラッドリは、頷いた。
(俺が言っても信じなかったのに!)
ブラッドリーが嘘を言う理由がないので、相手も信じたのである。
「そう言えば、ブラッドリーさん何しに来たんだ? 偶然?」
あまりにもタイミングよく来たので、不思議に思い聞いたのだ。
「あの場所には関知する結界が張ってある。あそこには普段は人は立ち入らないからな。人がずっといるようだから見に行ってみたら、あなた達が居たというわけだ」
あの場所には普段は人の出入りはない。何かを隠すのには最適な為、用心していたのである。
「それとザイダだが……おそらくは、隠し通路に出たのだろう」
ブラッドリーは、あの行き止まりの壁に、隠し通路に続くドアがあると言いだした。そこは、三階と五階を繋ぐ通路で、レオナールが行き来するのに使っていたモノで、驚く事に地下にも繋がっていた。そこは牢屋があった。兵士は置いていない。今、牢の中にいるのは、魔術師だからである。
「私は様子を見て来るが、あなたは大人しくここにいるように!」
「はい……」
ブラッドリーにまでそう言われ、ため息をしつつ返事を返した。
ティモシーは彼が部屋から出て行くと考える。
ザイダは秘密のドアを知っていただろうか? 偶然見つけるにしても時間が無さすぎる。知っていたとしても使ってはいなかっただろう。というよりは、使う事がない。五階に行くことも地下に行くこともないからである。
「じゃ、俺があの場所を離れた後、出て来たかもな。あるいは五階に逃げたか……」
自分から逃げる為に使ったのだとしたら、地下にはいかないだろうとティモシーは思った。
夕方、ダグが部屋に来た。
「あぁ、疲れた」
「えっと。お疲れ様です」
ドカッとダグは、ティモシーの横に座った。
「そう言えば、あの事どうなった?」
「あの事って?」
ダグはティモシーを見て眉を寄せる。
「ビン壊しちゃった事だよ」
「あぁ、オーギュストさんに伝えた。名前はザイダさんだって。調合は、今日の分は間に合うって言っていた」
「そうか」
ダグには、今日あった出来事は言わないでおいた。色々あって疲れていて説明が面倒だったし、これ以上迷惑も掛けられない。ティモシーも少しは成長したのである。
「もし辛かったら、部屋に戻って休んでもいいんだぜ。お前、休養中なんだし」
ティモシーは、無意識に左肩を擦っていた。
「あ、うん。そうするかな……」
「大丈夫か? 部屋まで送ろうか?」
思ったより元気がなさそうに見え、ダグはそう声を掛ける。
「え? あ、大丈夫! 三階に降りるだけだし」
「そうか。じゃ、また明日な」
「うん。また明日」
そう返しティモシーは、部屋に戻った。
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「ティモシーさん」
そう呼ばれてティモシーは、目を覚ました。目を開けるとエイブが顔を覗き込んでいた。
「え!」
驚くも体は動かない。そして、覗き込んでいたと思ったエイブと立って向き合っていた。周りは暗闇だ。なのになぜか彼の姿はちゃんと見えていた。
「こんばんは。今日はなんか体調悪そうだね?」
「………」
(なんだろう? これ前にもあった? ……あ、これ夢か……)
ボーっとする頭でそう考える。
「今日は何していたの?」
ふと、ザイダの事を思い出す。エイブは彼女を知っているのだろうか? ティモシーはそう思うと口にしていた。
「ザイダさんに会った。エイブさんを知っている感じだったけど……」
「ザイダさん? あぁ、あの人……気が強かっただろう? 俺はあまり好きなタイプじゃないな。ティモシーさんはどう?」
そんな質問を振られると思っていなかったティモシーは、慌ててしまい本音をこぼす。
「え? いや、あの人とはもう関わりたくないというか……」
「だよね? でもあの人、しつこいから気を付けて」
エイブは心配そうにそう声を掛けて来た。つい、ティモシーは頷いた。
「でもどうやって知り合ったの? あ、調合室近いか……」
エイブは、右手を顎に持っていき考えるしぐさをする。
「あ、ぶつかってビン壊しちゃって……」
「あらら。怪我しなかったかい?」
「あ、それは大丈夫。でも、調合薬無駄にしちゃった」
ため息をしつつティモシーは答えた。いつの間にか警戒心を解いて話していた。
「ところで君、家には帰ってる?」
「家? なんで?」
「何となくね」
ジッとエイブはティモシーを見つめる。答えなくてはいけない気がしてティモシーは口を開く。
「今、王宮に泊まってるんだ」
「そう。だからずっと近くにいる感じがしてたんだ……」
「え?」
『ティモシー……』
誰かの声が聞こえティモシーは辺りを見渡すも誰もいない。そして、エイブの姿も消えていた――。




