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魔術師なのはヒミツで薬師になりました  作者: すみ 小桜
第六章 真実と魔術師組織

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第三十話

 ダグは、俯いたまま話し出す。それは、身の上話から始まった――。



 そこはエクランド国の端の村の自然豊かでそして何もない村だった。ダグはこの時五歳、色々やりたってみたい時期。親には止められたが、こっそりと魔術を使って遊んでいた。

 ダグの両親は二人共魔術師だったが、魔術を使ったところは見たことがなかったのでダグは独学だ。

 木の実を採るのに風の刃で枝を切り、落ちてくる実をフワフワと浮かせて手に取る。そんな事をして遊んでいた。普通の子ならば、木に登ってその実を採っていただろう。

 そしてその行為は、見つかった! 瞬く間に村中に知れ渡り、両親はダグを連れ慌てて村を出た。いや、逃げ出した。

 今の世の中は、魔術師に対し怯えるか、自分の身を守ると言う体裁の元襲って来るかのどちらかが普通で、受け入れてくれる者は珍しい。

 この村の者は後者だった。逃げ出すしかなかった。ダグはこの時やっと、親が言っていた意味を理解したのである。しかしもう遅い。違う場所へ移って生活するしかなかった。

 たどり着いた村は、ニ十人程の小さな村で薬師の村だった。薬草を栽培しそれを売ったり、調合して薬を売ったりして細々と暮らす、エクランド国では一般的な村。

 お金も無くなり、お願いをしてその村に住まわせてもらえる事になった。両親は薬師ではなかったので、村の人が作った薬草や薬を運搬する仕事をする事になり、ダグも小さいながらお手伝いをした。

 村人はあまりよそ者をよしとしなかったが、ダグには優しかった。薬師の事を教えてくれて、才能があると試験を受けるよう勧められ十八歳の時に取得し、村でそのまま薬師として過ごしていた。絶対マイスターになれるから、まずは王宮専属薬師を受けてみろと村人に言われるも、ダグは別にこの村でまったりでもいいと思って過ごしていた。

 そんなある日、両親が商品を持って村を出るのを見送って村に戻ると、入り口に荷馬車が止まっていた。滅多に来ない、いや初めてだった。何が運ばれてきたのかと村に入るも人影ない。

 何となくいつもと違うと感じつつ、村長の家へ向かう。誰が来たのか気になったので見に行こうとしたのである。近づくとドアが開いていて、中から声が聞こえて来た。

 「エドアル、これはどういう事だ!」

 村長の怒鳴り声だ。

 エドアルは薬師ではない。村の巡警兵だった。村などの集落は、村人からなる巡警兵が村人を守っていた。国から依頼という形になっているので、国から給料が支給されている職業である。

 その相手に村長は、怒鳴っていた。どういう事態だと中を覗くと、エドアルが何かブツブツと言っていた。

 「……ノナミイモナスイ……」

 一瞬ダグは、何故彼が外国語を話しているのかと思ったが、突然村長に向かって黒い石を投げつけた! それは粉々砕けたと思うと村長は膝を折り、そしてそのままうつ伏せに倒れ込んだ!

 「村長!」

 驚いたダグが叫ぶと、エドアルは振り向いた。その顔はいつもの凛々しく優し気な顔ではなかった。

 「そいつがダグか?」

 「あぁ。この村で一番の腕の薬師だ」

 その時、見知らぬ男が一人いた事に気が付いた。何かやばい! と感じ取ったダグは、翻しその場を逃げ出した。

 二人はダグを追いかけて来た。村の出入り口に戻るのはまずい気がして、森に逃げ込む事にし向かうが見知らぬ男が魔術を使ってきた。

 魔術師だったのかと混乱する中、なんとかレジストして進む。そして、森の中を全速力で走り抜ける。ふと目の前が開けたと思うと同時に、出した足が地面を踏みしめていなかった!

 ダグは、ここには崖があったと思うも遅い。そのまま崖下へ転落した!

 「っち! 落ちたか。術を外さなければな……」

 「仕方がない。ダグは、あきらめるか」

 そんな声が崖の上から聞こえた。二人の気配が消え、ダグは横になったまま目を開けた。何とか、叩きつけられる前に魔術で浮遊でき、一瞬落下が止まったお蔭でダグは、生き延びたのである。

 だがしばらく、ボーっと空を眺めていた。何が起きたのか考える。

 村人はいなかった。エドアルが魔術師と結託して村人を――薬師を連れ去ったのではないか? 村人は全員、拉致されたのではないか。そう考えつく。自分は、運よく助かったが、生きていると知れれば襲われるかもしれない。

 ガバッとダグは起き上がると、旅だった両親と合流しようと歩き出す。

 半日かけ両親と合流したダグは、出来事を話しトラスに逃げる事にした。

 もし村を今日の様に襲っているのなら、違う村に逃げ込んでも安全ではない。むしろそれを恐れて暮らさなくてはならない。

 だがトラスに行くも仕事はなかった。特に両親は薬師ではないので、全く仕事がない。

 トラスに着いたのは、試験の三日前だった。王宮専属薬師に就く事をダグは決心する。村長から気が変わったら使いなさいと渡されていた、後見人の証明書を手に試験を受けた。

 筆記試験はパスできた。実技も隣に並ぶ二人と劣ってはいないと思うも、絶対に受からなければならない。このトラスで生活しなければいけないからである。その思いが、魔術を使わせた。ほんの少しだけ効力を高める魔術を使った。初めて使ったので効果があったがわからないが、一位で合格出来た。

 安堵するも後ろめたさもあった。

 不正をしたのもそうだが、本来なら村であった出来事を話さなければならない。だがそうなると、自分達が魔術師だとバレてしまう。そうすれば、ここにも居られない。

 ダグはずっと、葛藤していたのである。そして今、話す最初で最後のチャンスかもしれない。心の荷を下ろしたい。その思いで話したのである。――ダグの懺悔だった。



 話し終えたダグは立ち上がり、グスターファスに深々と頭を下げる。

 「申し訳ありません」

 ダグのその謝罪の言葉が静まり返った部屋に大きく響いた。

 (あの時、不正したのって、こんな理由が……)

 ティモシーは、ダグの気持ちが少しはわかった。魔術師だとバレて村を追われた事はないが、母親には絶対に知られてはダメ! と言われていた。ティモシーはダグとは違い、魔術に興味を持たなかった。だから運よく誰にも知られずに過ごしていられた。

 「頭を上げよ。ダグ」

 グスターファスは、静かに言った。おずおずと頭を上げたが、ダグは俯いたままだ。

 「すまない。この国でもそこまで事が起きているとは思わず、警戒を怠っていた」

 「え?」

 意味がわからずダグは、グスターファスを見た。

 「だが、不正の件は別の問題でもある。どうするかは、今は置いておく」

 罵りの言葉を浴びせられると思っていたダグは、驚きで言葉が出ない。

 「ルーファス、私は色々手配しなくてはならなくなった。後の事は任せる。話を聞いておいてほしい」

 「はい。わかりました。父上」

 「レオナール殿。すまながいが私は席を外す。ルーファスの手助けをお願いしても宜しいか?」

 「お任せ下さい。陛下」

 ルーファスとレオナールが立ち上がり軽くグスターファスに頭を下げると、グスターファスは、ではと席を立ち部屋を後にした。

 ティモシーは勿論、ダグも慌ただしく去って行ったグスターファスをボー然と見送った。ダグにお咎めなしだったどころか、彼に対し謝ったのだ。自体が飲み込めなかった。

 「あなたは運がいいですね」

 レオナールはそう言って、ダグにほほ笑んだ。

 「では、私の部屋に移動して続きを話しましょう」

 その一言で、応接室からレオナールの部屋に場所を移す事になった。

 指揮を取るのは、変わらずレオナールのようだった――。

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