第二十九話
レオナールの巧妙さで答えを引き出さたダグは、ため息をつき項垂れるが、レオナールは手を抜かず更に問いかける。
「なぜ、そのような方法を取ろうとしたのでしょうか? あまり考えつかない方法だと思いますが?」
「それは……。トンマーゾさんの様に俺より強い魔術師にも有効な手段だからです。それに、魔力が一気になくなれば、相手は昏倒します。逃げるチャンスが出来るからです」
「え? 昏倒? 殺そうとしたんじゃなくて、気絶させようとしたの?!」
つい、ティモシーは驚いて叫んでしまった。
ティモシー達を襲ってきた三人の内、一人は生きている。今の話が本当ならば、その方法で気絶させられた事になる。
「じゃ、失敗して二人を殺したって事か?」
ニヤッとして、トンマーゾは隣のダグにそう言った。
「そんな訳あるか! あいつらは途中で苦しみだしたんだ! 俺は、殺してない!」
「なるほど。あの三人にも同じ方法を行った訳ですね。あなた一人で三人を相手にしたという事で宜しいですか?」
ダグは、ハッとする。つい、トンマーゾの言葉に反応して返してしまったのである。
「あぁ、そうだよ! あの大穴を開けたのは、あいつらの魔術だ! 魔力を吸い取るのに失敗したって、相手は死なない! 信じてくれ!」
結局、ダグは昨日の事も白状させられたのである。
「そうですね。その件は後で別に伺いましょう」
何故かレオナールは、大人しく引き下がった。逆にそれがダグには怖かった。何かを企んでいるのではないかと思ったからである。
勿論、トンマーゾもそう思った。
「では、次の質問です」
まだ、あるのかと二人は驚く。昨日の件は、後にした。エール草の件はもうそんなに聞く事もないだろう。一体今度は何を聞く気なのだろうかと、二人は身構える。
「まず、トンマーゾ。あなたはエイブと仲間ですか?」
「……別に。話した事がある程度だが?」
トンマーゾは、素直に受け答えをした。
「そうですか。ダグ。あなたはどうです?」
「どうですって……。話した事さえない……です」
ティモシーをチラッと見てダグは答えた。レオナールの隣には、被害にあった当事者がいるのに、なぜいきなりエイブの事などという顔である。
「では、あの三人とエイブは仲間だと思いますか?」
「仲間?」
ティモシーを襲ったのは一緒だが目的が違う。しかも三人組は、他国の者で魔術師である。彼と接点があるように思えない。なぜ、こんな質問をするのだとダグは思った。
「ふん。俺はその三人を見てないし、わからないな。まあ、エイブも俺と同じで、運が悪かったな。ブラッドリーさんの研究を手伝っているだけで、おかしいとは思っていたが、まさかあんたがあの魔術師の国の王子で、たまたまお忍びきている時に事を起こすなんてな」
トンマーゾは、ワザとらしく、あぁ騙されたという仕草をして言った。
彼の言う通りレオナールは身分を隠し、王宮専属薬師の試験を得てその地位を手に入れていた。だが、他の者と違いブラッドリーの元で仕事をしていた。いや、そう思われていた。マイスターの者が研究する部屋は五階で、あまり目につかない。その為、レオナールが王宮に来ていなかったとしても怪しまれなかったのである。
レオナールが王子と聞いて、その事にトンマーゾが気づいたからこそ言った言葉だった。
レオナールが突然、クスクスと笑い出した。
「あなた、抜けていますね」
「俺だけじゃない。皆、あんたらに騙されていた!」
ムッとした顔でトンマーゾは、レオナールにそう返した。
「いえ。そちらの事ではありませんよ」
フッと真面目な顔でレオナールは言った。トンマーゾは、眉間に皺をつくる。何が言いたいという顔だ。
「ダグ、彼の今回の噂をどう聞いていますか?」
「え?」
彼と言うのは、エイブの事だろう。被害にあった本人の前で言えと言うのかと、チラッとティモシーをダグは見た。ダグには何をしたいのかわからなかった。
「俺がボコボコにした事になってるはずなんだがなぁ。レオナール王子は、そもそも関わっていない」
ランフレッドがそう、ダグの代わりに答えた。そこで、皆、ハッとした。
この噂だと、どう考えてもレオナールが引き合いに出される事はない。あるとすれば、エイブが魔術師だと知っているか、目的が拉致だと知っていないと思い浮かばない。
「どういう事だ?」
ダグだけは、困惑していた。エイブが魔術師だという事も、ティモシーを最終的に拉致しようとした事も知らないからである。ただ、『ランフレッドがボコボコにした事になっている』と本人から聞いて、噂自体が違うのだということだけはわかったのである。
「トンマーゾ。あなたには色々聞く事があります。覚悟しておく事ですね」
レオナールを睨むだけで、トンマーゾは黙り込んだ。
「ブラッドリー。彼はもう宜しいです」
「っは」
ブラッドリーは、トンマーゾを立たせると部屋から連れ出した。
「さて、次はあなたですね」
その言葉に、ダグはゾッとする。
「あなたが王宮専属魔術師になった理由をお聞かせ下さい」
「理由って……。他の人と同じです! 別に変な目的があった訳じゃない! 魔術師だと隠していたのは、バレると厄介だからです!」
トンマーゾの様に、何か目的があって王宮専属薬師になったと思われているとダグは焦って答えた。
「そうですか。では、昨日の事を隠していたのは、魔術師だと知られるのを避ける為という事で宜しいですか?」
レオナールにそう問われ、ダグは頷く。
「ではもう、知れてしまったのですから何があったのかお話頂けますね?」
ダグは、大きなため息をつき頷いだ。そして、観念し話し出した――。
三人が現れ、聞いた事のない言葉を話し石の様な物を投げつけて来た。それは、粉々に砕け、眠りの魔術を発動した。ダグがハッとするも二人は眠ってしまう。
そして、反撃のチャンスを伺っていた所、また石を投げつけて来た。今度は攻撃で、石が砕けると同時に爆発した。ダグは結界を張り難を逃れるも、二人は土砂に埋まってしまう。
慌てるも相手はもう石が無いようで、一人がこっちに向かってきた。よくわからないが、石が無いと魔術は使えないと判断したダグは、三人に動きを封じる魔術を掛ける。それは成功し、自分に向かってきた男の首に手を掛け、トンマーゾにしようとしたように魔力を吸い取った。そして、男は昏倒し倒れる。
今度は二人の首に手を掛け、同じようにしようとした所、二人は苦しみだしたので、術を解くも二人は意識を失った。
そこに兵士が来たので慌てて倒れたフリをするが、到着した兵士に二人は死んでいると言われダグは驚く。なぜそうなったのかわからなかった――。
話を聞き終えたレオナールは頷いた。
「矛盾はなさそうですね」
それを聞いたダグは、驚いた顔をする。まるで知っていたようだからである。
「確認なのですが、聞いた事がない言葉に、心当たりは本当にありませんか? また、彼らが投げたとされる石についても。いかがです?」
ダグは、嘘をついても見透かされそうで正直に話す事にする。
「もしかしたらですが、呪文なのではないかと思います。あの石の様な物を使うのに必要だったのではないかと……」
「なるほど」
レオナールは頷くが、ティモシーは違った。
エイブは石を使っていた。だが、呪文の様な言葉は発してなかった。
(同じ物ではなかったのか? 使い方が色々あるとかなのか?)
考えたところでティモシーにはわからなかった。
「ダグ。呪文と申しましたが、なぜそう思ったのでしょう? 呪文は言い伝えの中での存在。アリックも他国の言葉だと思ったと言っていましたよね? もしかして、見聞きした事がおありなのではありませんか?」
「まさか! ち、違います!」
「違いますか? 石が投げつけられるまで、その者が石を持っていたのを知らなかったのですよね? 普通ならアリックの様に他国の人間なのだから他国の言葉だと思うと思うのですが?」
「………」
レオナールの言葉に、ダグはごくんと生唾を飲み込んだ。
ダグが、呪文かと言ったタイミングをティモシーから聞いているレオナールは、手を緩めない。ジッと、彼を見つめる。
「どうしても、答えたくありませんか?」
先ほどから投げかけの様に問われるが、確定事項の確認のようだとダグは思った。
「……一度見たことがありました」
ダグは、とうとう観念してボソッと呟いた。




