第三十一話
レオナールの部屋に入ると座るように言われ、ランフレッド以外はソファーに座った。
奥側の三人掛けのソファーにレオナール、その左横にルーファスが座り、後ろにランフレッドが立つ。レオナールの向かい側にはダグが、その横にティモシーが座った。
「あの、俺はお咎めなしなのでしょうか?」
ダグは聞きたい事を座ってすぐに質問した。村の人達が拉致された事を今まで黙っていた事に対し、何も言われていなく彼としては凄く疑問に思ったのである。
「不正を行った事については、私が関知するところではありませんので、後程陛下から述べられるでしょう。村が襲われた事については、魔術師もおり一人ではどうにもならなかったと思われます。今になってと思うところがありますが、あなたが魔術師だと考慮すると、それも致し方ないかと……。残念な事ですが、魔術師に対し世間は冷たいですからね。陛下もそこを考慮し寛大なお心遣いをして下さったと思います」
ダグはルーファスに聞いたのだが、答えたのはレオナールだった。だが聞きたい答えが聞けたので、礼を言って頭を下げた。
「さて、ここからは私の提案なのですが、ダグ、あなたのその力、私に貸して下さいませんか? ご両親共々、身の安全は保障致します。いかがでしょう?」
「力ですか……?」
レオナールに突然そう言われ、タグは驚く。その力とは、魔術師の力の事だろうと思うも何をさせる気なのかと、すぐには答えられない。
「あなたの村を襲った相手は、おそらく魔術師の組織です。あなた方が見つかれば、狙われる恐れがあります。もしよろしければ、あなたのご両親は我が国で保護しましょう。入国するのには、こちらが用意したアイテムが必要で、それは不正出来ません。そして、身体検査も行っております。国の中に居れば安全です」
ダグもそうだが、ティモシーも驚いた。魔術師の国と言われるだけあって、警戒態勢が凄い。容易には忍び込めず、魔術師だとしても難しそうに思われる。
「どうしてそこまで……」
「そんなに警戒しなくても宜しいですよ。魔術師だと知れれば、この世界では生きづらい。私は自身を魔術師だと明かし、行き場のなくなった魔術師達を保護しようと考えました。まあ、そんな事をしていれば、驚異の国なのは確かですが……。いかがでしょう?」
確かに身の安全は保障される、だがそれは、両親を人質に取られたのと同じで、裏切る事は許されない。えらく頭が回る人物だが、悪い人物ではない。と、ダグはレオナールの事を分析した。
どちらにしても自分が生きていると知れれば狙われる。せめて両親だけでも安全な場所に居られるのであればと、考えはまとまった。
「わかりました。宜しくお願いします」
ダグは立ち上がり、レオナールに頭を下げた。
「宜しくお願いします。ダグ」
レオナールもそう言ってほほ笑んだ。ダグは座り直す。
「話はまとまったか。では、このままダグは在籍させるよう父上に言っておこう。その方がこちらも都合がいいからな」
「え?」
また、ダグが驚いた。
「出来上がったモノも素晴らしかったが、我々は工程も見ていた。魔術を使わずとも一番ではなかっただろうが選ばれていただろう。まあ、何もお咎めなしとはいかないだろうが、父上もそのつもりだろう」
「ありがとうございます」
ルーファスの言葉に、ダグは素直に嬉しかった。薬師の腕も認められていた。そしてダグは、恩を返さなければと心の中でそっと誓う。
「では、今の状況をお話ししておきましょう」
「あの、ティモシーも話を聞くのですか?」
レオナールが話し出そうとすると、ダグはそう言った。さきほどまでは聴取だったが、これからの話は違う。ダグは、ティモシーの事が忘れられて、そのままここにいると思っていた。
(そう言えば、別に俺はここにいる必要ないよな)
そう思いティモシーは、レオナールを見ると、彼はにっこりと微笑んで頷いた。
「ティモシーは、当事者ですので、このまま聞いて頂こうと思います」
「当事者?」
不思議そうにダグは、ティモシーを見る。
「話を聞いて行けばわかります。ティモシーもそれで宜しいですね?」
問われているが、決定事項であるのは承知しているティモシーは頷いた。
レオナールは、今知りえている情報を話始める――。
近年、各国で薬師が拉致される事件が勃発していた。その事件には、魔術師の組織が関係していると、各国での一致の意見だった。
勿論、魔術師の国と言われるハルフォード国は、監視対象国だ。レオナールとしては、自ら動きその組織を捕らえ、事実無根だと証明したいところだが、自分の国は被害に遭っていなく動けないでいた。
そこにエクランド国から協力の依頼があった。十年程前から交流を深めた唯一の国でもある。断る理由などない。
二国協力の元、調べて行くと手がかりはあった。刻印を使って人を動かしている事がわかった。刻印を刻まれた者は自我があり、事が起きるまで組織の仲間だとは気づかない事が多く、大抵な場合は命を握られ仕方なく従っていた。
ある兵士に会った時、兵士は死を覚悟しレオナールに言ったのだ。『チミキナスナ……』意味不明な言葉だったが、やっとわかった。組織の名前だ。ただ、名前を付ける時には、普通それなりに意味がある。どこかの国の単語なのかもしれないと、今現在調べ中である。
それと、兵士はあるからくりも残してくれた。それが刻印である。今まで目に出来なかった原因が、彼のお蔭でわかった。刻印が刻まれた者が死亡すれば、刻印も消滅する。この事実がわかっただけでも進展があった。
魔術師組織チミキナスナは、資金集めとして薬師を拉致していると思われるが、それだけでもないだろうとレオナールは推測する。
魔術師の組織が薬師を拉致している事はふせられている。何故ならば、それが知れ渡れば、薬師を目指す者は減るからである。魔術師は脅威。わざわざその者達に狙われる職業に就こうと思う者もいない。
エクランド国にとっては、死活問題になる。この国は薬師達で成り立っている。
それと、黒い石のような物は、マジックアイテムではないかと推測されるが、使われる所を見た事がある者がいるが、それを手にした事がなかった。刻印を刻まれた者が一つか二つ持たされているようではあるが、どういう仕組みのアイテムかまではわかってはいない。
このままだと混沌とした世界になる。確立された薬師は衰退し、魔術師達が猛威を振るう時代が、遠くない未来に訪れる!
各国は、それだけは避けたい。それが一致した国々の考えで、エクランド国がハルフォード国と手を組んだ事を黙認している訳でもあった――。
ティモシーは、ランフレッドから少し話を聞いていたが、思っていたよりずっとスケールが大きい話だった。
そしてそれは、その魔術師組織が存在する限り、ティモシーには平穏な日常はないと言われたのと同じだった。
(これを聞かせたって事は、俺にも組織を潰すのに協力すれって事だよな)
マイスターになるより先に、こちらを何とかしなくてはいけない件だった。
ふとティモシーが横を見ると、ダグがジッと見ていた。
「な、なんだよ……」
「まさかと思うけど、刻印……」
ダグは察しがよかった。エイブに襲われたのは、事実ではないと先ほど聞いていたのもあり、当事者と聞いていたので、もしや刻印を刻まれたのでは? と、気づいたのだ。
「その通りです。エイブはティモシーに刻印を施し拉致しようと致しました。ですが、ブラッドリーがそれを阻止し、今彼は捕らえられています」
レオナールの言葉にダグは目を丸くする。エイブもまた魔術師で、今の話からすると魔術師組織の仲間のようだからである。
思っていたよりずっと身近な話だった……。




