33【豊饒祭1】密かなる攻防
拙作にお立ち寄りいただきまして、ありがとうございます(*^人^*)
フェイン視点です。豊饒祭は、視点の切り替わりが多めになりますm(_ _)m
午前の目玉である選抜徒競走を走り終えて。次の競技の準備をされている様子を横目に 競技場から離れる。俺は獣人だから身体強化は禁止されているが、それでも魔法や魔法具なんかで身体強化した人族たちに簡単に負けたりはしてやらない。
少し水でも飲みたくて、競技場の近くに設置された水場に向かえば、見慣れた淡い紫の髪が見えた。
「よう、アーシャ」
救護所の手伝いなのか 水場で使用後の薬瓶や小壺を洗っていたらしい彼女は、振り向いてこちらを見ると 少しだけ表情を緩めた……と、思う。いや、ほとんど 表情が変わらないんだよ。少しは見分けがつくようになったけどさ。
「ここからでも見えた。すごく速かった。……お水」
俺が走る所を見ていたらしい。頑張っておいて良かった。そして、彼女は瓶や小壺と一緒に洗っていたらしい キレイになったカップに水を注いで差し出してくれる。こういった気遣いが、なんとなく嬉しいな。喉が渇いたなんて言えば、水場に放り込みにかかる獣人族の女どもの中にはいないタイプだ。
「おう、ありがとな」
一気に飲み干し、もう1杯飲んでからカップを返すと、また それをキレイに洗って 黙々と洗浄の続きをするアーシャの側で 少しだけ休憩する。
この間の礼から始まり、他愛無い事を話しかけて、ぼそりと返される返事。繰り返していると、最初より幾らか返される言葉が増えていることに気づいた。
『ぃつっ……畜生、あの貴族ども……』
俺が獣人族だからと、何かと絡んでくる阿呆共。身体能力が違いすぎるし、俺は加減が苦手だから、下手に反撃したら大怪我をさせてこちらが処罰されてしまう。悔しいが重要な部分だけ守りながら適当に相手をしているのだが、細かい傷を幾つも付けられた。
カサ。
草を踏む誰かの足音に 木陰で休んでいた体に力を入れて すぐに立ち上がれるようにしながら、音のした方を見る。
そこにいたのは、訓練棟にはあまり縁の無さそうな 細くて小さな女の子だった。彼女はこちらを無表情で じっと見ていて、手に持った草花の入った籠を置き、腕に掛けていた小さな手提げから見たことのあるような小壺を取り出した。
『ん』
『な、なんだよ……』
ずいっと差し出されたそれに、少し面食らう。たぶん 軟膏なんだろうが、同じ学校の生徒とはいえ ほぼ初対面の獣人族に謎の小壺を差し出す彼女の意図を掴みかねて警戒していると。
『ぅわっ?! ちょ……』
『動かない』
小壺の蓋を外して、中身を塗り始めた。匂いですぐにコルフルイの軟膏だと判ったけれど、まさか手当てをされるとは思わず動揺したし、すぐ側まで近づいて来て 慎重な手つきで ちょんちょんと軟膏を塗る指先は、痛いというより少しこそばゆい。
不思議な気分で見下ろした顔には あまり表情らしきものは見当たらないが、微かに眉が寄っていた。
(嫌ならこんなことしなきゃ良いのに)
一応、人族の者たちは他種族との友好を謳ってはいるが、ちょっとした偏見や差別は今でも存在する。嫌いならば、俺の事など放って置けば良いだろうにといつも思う。そのせいか、善意であろう行動をしている彼女にも 微妙に棘のある言い方をしてしまった。
『なんでこんな事すんだよ? 放って置けば良いだろ』
けれど。彼女は、俺が少し叩けば壊れてしまいそうな 華奢な体躯の割に怯えた風もなく、ぽつっと言う。
『痛いのは嫌……』
『……』
その言葉で、彼女は“俺”が嫌で眉をしかめていたのではなく“痛々しい怪我”が嫌で眉をしかめていたのだと理解した。ついでに、かなり変わった人族だとも。
『これでいい。使って』
『あ。おい……』
軟膏を塗り終えて。まだ中身の残る軟膏を俺の手に持たせて、彼女はさっさと何処かへ立ち去った。俺は、上の兄貴達が前に話していた、女の子に“グッと来る”というのは こんな感じなのかもしれない……と ぼんやり考えながら、その後ろ姿を見送った。
後になってから。礼も言わず 名前を聞くのも忘れていた事に気づいて、怪我をする度にまた同じ場所に行き、少しずつ話しかけて なんとか名前やクラスを聞き出したのだが……それには2週間も掛かった。
(あの頃は ほとんど単語か “ん”しか言わなかったもんな……)
それを思うと、少しだけ感慨深い。もっと話していたかったが、ヤツが来てしまった。
「アーシャ、こんなところにいた! そろそろ玉入れだよ、出る予定でしょ?」
「ん。今行く」
俺をさらっと無視して、アーシャを連れて行こうとする 腹黒小型犬。いつも いつも、彼女と話していると どこからともなく現れる邪魔なヤツだ。
アーシャの前では可愛らしく振る舞っているが、彼女に嫌がらせをしようとしたり、ちょっかいを掛けようとして秘密裏に蹴散らされた男女は片手じゃ足りないのを知っている。
「重いだろ、持ってやるよ」
「……ありがとう」
だが、俺は気にせず アーシャが重そうに持ち上げようとした籠を ひょいと取り上げる。ちょっと 遠慮した風だったが、微かに口元を緩めて礼を言ってくる。少し悔しげなヤツを 得意な気分で見下ろせば……。
「じゃあ、急ごっか」
「ん」
(あ……野郎っ)
裏のある笑顔でこちらを見やり、空いたアーシャの手を取って小走りに来た道を戻る。
俺は臍を噛む気分で その後を追った。
大きいワンコ:頼り甲斐アピールの攻撃。
小さいワンコ:無邪気さ(?)でのカウンター。
大きいワンコ:中ダメージ。だが倒れない。
癒しの妖精:???……攻防にすら気づいていない。
大小ワンコ:大ダメージ。
すみません、↑ちょっぴり 魔が差しましたm(_ _)m
[たぶん本編で全く見えない設定]
《研究員・研究助手》
豊饒祭の手伝いに来てくれる大人の方々は、準備・片づけ・審判など 完全なる裏方さんです。涙ぐましい頑張りをしてくれています。その代わり、3~4日目の模擬店の無料券を貰えたり豊饒祭最終日にある後夜祭ではっちゃけたりします。




