19【試験期間】小さな悪意とちっぽけな矜持
拙作にお立ち寄りいただきまして、ありがとうございます(* ̄人 ̄*)
後半、出番の少ないシリアスさんが張り切りますm(_ _)m
「では、始め!」
一斉に裏面から表面へと捲られる紙の音。
そして 紙の上を勢いよく走るペンの音。人によっては鈍足みたいだけど。
学科試験はそんな音から始まった。
言語学は あちらの世界でのアルファベットのようなものを覚えて、簡単な読み書きができれば良いので問題無かった。基礎魔法学も似たようなもので、基礎属性の記号と簡単な魔法原語の単語の意味や10級魔法陣の基本形を覚えていれば大丈夫な感じ。後で実技もやるそうだけど。
基礎薬学や魔法工学なんかは実技がメインらしくて、材料とか器具の名前当てクイズみたいだった。
社会学は いつの間にかウォルセンとティタリアに神話の本を解説してもらう形になっていた勉強会のおかげで、なんとか乗り切った。……神様の名前がうろ覚えだったのは仕方ないと思う。
そして、今は算数……こちらでは計数学と呼ぶものである。
(まだ算数レベルだから、なんとかなる)
そう自分に言い聞かせてみるけど、数学の域に入ってくると、正直なところ自信が全く無い。
数学知識を持ち込んだらしい あちらの人達 と、それを魔法式と共に発展させてきた先人たちをちょっぴり恨めしく思いながら、私は憂鬱な気持ちで 簡単な足し算や引き算を解いてゆく。魂(?)に一度染み付いた苦手意識はなかなか強敵である。
~*~*~*~
2日間の学科試験を終えれば、続いては3日間に渡る実技試験である。人数が多いから試験官の先生方も大変そうだ。
基礎魔法学は幻想小説でお馴染みの 的に向かって魔法を放つもので、うきうき気分で詠唱しようと思ったら……試験前の説明にて 配られた水・土・風・火の4属性の10級魔法陣を、それぞれ指定された1節の呪文で発動させるとのことだった。安全対策が万全すぎてつらい。
魔法工学は子供向けのキット制作っぽい組み立て作業でできた小さな風車に、弱い風の魔法を封入するだけだった。前世は もの作りが結構好きだったから、正直 楽勝でした。
そんな感じで実技試験も進んでいたのだけれど。
沢山 練習したから、ほんの少しだけ自信があって楽しみにしていた基礎薬学の試験で、私は足を掬われた。
「あの……」
試験の助手として各調薬台に薬草を配付していた若い女性に、薬草が傷んでいることを申し出ようと思ったら、その人は少しだけ振り返って、唇の端の片方を一瞬 吊り上げた。そして つん と前を向き、次の調薬台へ薬草を配りにゆく。どうやら私は、どこかで彼女の恨みを買ってしまっていたらしい。どこに売っていたのだろう?
(仕方ない。完全にダメになってはいないから、コレでなんとか作ろう)
幸い、この薬草は 傷むと毒性を持つものではなく……腐ったら流石に毒だけど、徐々に薬効が薄くなってゆくものだ。よく煮詰めれば、薬効自体は保てるだろう。
(規定量不足の減点は諦めよう)
そうして。なるべく薬効が落ちないように、できる限り丁寧に調薬を開始した。
~*~*~*~
「試験番号1番、前に来なさい」
(やっぱりダメだったかな)
なんとか課題のせき止めの水薬を仕上げて提出したけれど、その場でルイン先生に呼ばれてしまった。
調薬台型の教卓に並べられた小瓶の中、1つだけ明らかに少ない 1番のラベルが貼られた水薬を手前に置き、やや険しい顔のルイン先生が口を開く。
「これは貴女でしたか。貴女はこの水薬の正しい濃度を理解していると思いましたが、ここまで濃く煮詰めたことに何か理由はありますか?」
「……薬草が、少しだけ傷んでた」
件の女性の方は見ない。勝ち誇った顔でもされていたら悔しいし、誰かのせいにしていると思われるのも ちっぽけながら存在する矜持が許さない。
「では、薬効を保つために敢えて濃縮を?」
無言で頷く。ダメならやり直しなり、減点なりしてくれれば良い。これ以上 注目を集めての問答はしたくない。
「わかりました、その点を考慮して採点しましょう。もう戻って構いません。……他の子たちも 次の試験へ向かってください」
そんな出来事に見舞われながら、学期末の試験は過ぎて行った。
ハイ。色恋が絡む小説でお馴染みの“お姉さんからの嫌がらせ”入りまーす!
何処で恨みを買ったかって?
ほら、見目だけは良いどこぞの変態な人、意外と人気者らしいですよ∥壁∥q ̄д ̄)))
……というわけで、とある噂のせいで 一部の女性の恨みが まとめ買い特価のバーゲンセールでした。
[言われてみれば納得 な設定]
《試験番号》
試験の際、不正や採点ミスを防ぐために試験の順番や席順を固定する番号。この時ばかりは どこぞの殿下も隣には座れない。ちなみに名前の順なので、出席番号と同じである。だからアーシャは注射も一番乗り(´;ω;`) ……いや、この世界 注射無いけどね。




