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08 地獄の始まり



――時は遡り。



「で、カミールちゃん的には今回の守護者ガーディアンはどう? 強い?」


フィソラス350層。治安の間。


 守護者の間と巨大な魔結晶の扉を一枚隔てたその場所で、“守護者対策本部本部長”と書かれた机に足を乗せる茶髪の男が、目の前の金髪の女性にそんな事を問う。


「ストラス隊長殿。私はもう貴方の直属の部下ではないと何度言わせれば――」

「細かい女の子は太るよって。それにこれは隊長同士の対等な情報交換、だろ?」

「……もし微塵でも対等だと思っているのなら、貴方はその足を下ろし、跪いた上でこれまでの行いについて詫びるべきだろうな」


 ニコリともしないカミールに、ストラスは思わず片眉を上げてみせる。


「あらら、冷たいねえ。出会った当初はあんなに純情で可愛かったのになぁという訳でどうだい? 俺ともう一度、一から始めてみる気はないか?」

「……貴方と何かが始まった記憶はつゆほどもないし今後もない。そもそも私達は始まる前から終わっているだろう」

「かー。我が人生最初にして最大のアタックだったんだけどな。……割とマジで」

 

そんな事を嘯く第一紅蓮隊隊長ストラス=スカレルを見て。

第二紅蓮隊隊長カミール=サンクティスは鬱陶しそうにため息を吐いた。


「――対象の種族は前層、前々層に引き続き悪魔で、堕落悪魔フォールデーモンに当たる個体。特徴としては他のそれと変わらず物理攻撃が主、魔法耐性が高く魔法障壁の使用は確認できず。対処法も通常のそれと大差ない…………が」


渋っていた割に饒舌なカミールは、指で小さく紙切れを叩き。


「今回の個体は腕が二対で三本。計六本ある」

「よし。それで攻略難度は?」

「大したことは無いだろう。腕以外にこれと言った特徴もなし。脅威判定としては前層どころか、150層守護者と同等、もしくはそれ以下。おおよそ雑魚だ」


やっぱりか、とストラス=スカレルは喜ぶどころか溜め息を吐く。

それはそれは、心底うんざりした様子で。


「……それで、本題の攻略予想時間は?」

「まあ、2日と掛からないかとは思うが」

「あー。だよねー。アイツ一目見た時に薄々感づいては居たんだ。はあああ」


 とまあそんなストラスのため息には理由がある。


 一度述べたが、この守護者攻略戦に参加する『ギルド』はその攻略の権利を彼ら白刻騎士団から“買って”いる。そして通常、この時の経費は後の時間帯になるに連れて安くなるのが普通だ。


 これは、もしも予定よりも早く攻略が終わってしまった場合。それ以降のギルドに対し当然『攻略の権利』分の代金は返却するが、今回の攻略戦で出た『利益』の分配は一切行わないからである。


 そして。

 平均攻略日数が三日であるのに対し、隊長二人による予測日数は2日以下。


「半分ちょいかぁもう最悪だ。中小ギルドの奴ら、()()の二百九十層の時なんて自宅に卵投げつけて来やがったんだぜ? 別に俺個人が得してるわけじゃないんだから白刻本部に投げつけろっての掃除するのも俺一人なんだから!」

「…………まあ、その辺は素直に同情しようか。攻略戦の『顔』殿?」


 カミールがそう言うと、ストラスは心底面倒そうにため息を吐く。


「……あーもう野郎。嫌な仕事ばっか押し付けやがって。あのチビクソが」

「団長の悪口とは聞き捨てならないな。報告しても?」

「ご自由に。その程度で怒って頂けるなら後腐れなくここを辞められるし」


 言って、ストラスは机の上で左右の足を組み替える。


 攻略戦の枠は幾つもあるが、当然ギルドの財政によっては買い占めることも可能であり、この国の事実的な支配者として君臨する白刻が行う『それなりの数の枠の確保』に対して不信感を抱くものも多い。


 そして、攻略が早々に終わってしまえば、当然攻略戦の中後半の枠しか買えなかった中小ギルドは白刻を筆頭に強者たち、兼ねては今回のフィソラス攻略戦の代表であるストラス個人に対して反感を持つだろう。


 渋々とはいえ、彼はそういった面での鎮静剤的役割を担っていたりするのだ。

 と言うよりはどうぞ叩いて下さいのデコイであるが。


「かみーるちゃん。変わってくんねえ?」

「喜んで、お断りしよう」


 見事に上がって下がるストラスの表情に、カミールはほんの一瞬だけ笑みを零し、即座に顔をそむけてほんのりと赤くなる。それをみてストラスも小さく笑い。


「でも今回に限っては、もっと楽に終わっちゃう気がするんだよなー。おえ」


そう言って彼は、何処か焦らすような目でカミールを見る。

それを受けて、カミールはため息を吐き。


「何故? 今回の指揮は貴方ではないというのに」

「だからこそってね。エルナのやる気が最近半端ないんだ。本当にあれはヤバイ」

「彼女は今回『聖剣』を持っていないけれど」


そんな事を言う部下に、ストラスはちっちと首を振ってみせる。


「彼女、炎の御加護(フェルティオ)の扱いが異常に上手くなっててさ。それも数日の間にだぜ? 正直、隊長格、少なくとも俺なんかよりは削って帰ってくると思う。あーもう俺の代わりに隊長やってくれねえかな」

「……あの歳でそれは流石に酷だろうさ」


 だよなー、と再びストラスは大きな大きなため息を吐いて、机に置かれたマグを手に取り茶をすする。作戦が攻略開始の時点で纏まった以上、まあ正直言って彼は暇であるのだが、後々の苦労を思うと久々の暇を楽しむことも出来なかった。


「手を抜けって言うわけにもいかないしなあ、って。……ん?」


 彼は微かに眼を細める。ほんの僅か、あともう少しでも気を抜いていたら見逃してしまうような微かな魔力。更にごくごく一瞬間の間に、地面を何かの光が駆け抜けたことを感じ取り――。


「隊長」

「ああ、今何か――」


その瞬間、地響きが辺りに響き渡る。

そして、その発生源は治安の間と守護者の間を繋ぐ――、一枚の扉。


『な、なんだ!? 扉が――ッ!!』

「――ッッ!!」


 状況を把握し、即座に対策本部から飛び出したカミールは叫ぶ。


「何をボサッとしてる!! 具象化系を噛ませて扉を止めろッッ!!」


 その怒号により、一瞬で扉の前にたむろしていた者達の硬直が解ける。そして皆が一斉に詠唱を唱え始め、同じくカミールも流れる動作で印を紡ぐ。するとまたたく間に岩石系統を表す褐色の魔法陣が――。


「で、ない――ッッ!?」

「糞ッ、こっちも駄目です隊長ッ!! 起動印が発動しません!!」


 起動員が出ない。そんな不可解な現象にカミールは絶句し立ち尽くす。普通に考えてこれだけの人数が一斉に詠唱を失敗するとは考え辛いし、自分の詠唱に関しては完璧だった自身がある。


 どうして、と呟いて。カミールは今にも泣き出しそうな表情で、今も扉が閉まりかけているその中で戦っているはずの赤髪の後輩を思い浮かべ――「どいて」と。ストラスに肩を叩かれる。




「――靡けよ疾歩(ウィングル)





 途端、一瞬間でストラスの体が凄まじい速度まで加速する。

 彼は微かな人の間を縫うように、数人を薙ぎ倒しながら扉へと突撃し。


 その身を中へ捩じ込もうとして。


「――ッッッ」


 凄まじい轟音が辺りに鳴り響く。


 それはこの場の誰もが振り返るような爆音で、地鳴りとも掌打とも取れるような不思議な余韻を周囲に残し――やがては消え去った。


「………………くそ」


 残るのは。

 ぽたりぽたりと額から血を流す一人の男の悪態で。




 ◆◆◆




「――なあ。ラシャーナ。大体どれくらい経った?」

「私だって知りたいですわよ、レオ。生憎と時詠結晶は持ち合わせて居ませんの」


 外部へ繋がる唯一の扉が閉じた。


 その事実はまたたく間に守護者の間の攻略者達を恐怖のどん底へと叩き落とし、この場は先までの雰囲気とは一転、阿鼻叫喚な凄惨たる地獄絵図とかした――かといえば、案外そうでもなかった。


 確かに扉が閉じたその瞬間は動揺を隠せずに取り乱す者も居たが、二十名程度の白刻の見事な支持と誘導により、混乱は即座に収まったのだ。その立役者はやはり《炎神》エルナバード=エルゼベルデ。いっぱしの大人がまだ年端も行かぬ娘に叱咤されればそれは落ち着かざる負えないという理屈である。


 それに今が攻略序盤だったという事も幸いした。相手の出方を伺うこの期間は比較的攻略者を多く投入する時期であり、現在この守護者の間には白刻を含め約五十名程度もの攻略者が居たのだ。


「つっても、人数は限られてんだし。俺達も手伝った方が良くねえか!?」


そんな事を言うレオに、ラシャーナは首を振ってみせる。


「彼らは緻密に訓練した攻略者ですのよ? 緻密な打ち合わせもしているでしょうし、突然のトラブルに対する対処だって私達よりは数段上手のはず。ド素人の私達が出しゃばった所で、精々彼らの邪魔をする程度が関の山ですわ」


 その言葉に俺は小さく片眉を上げる。彼女の言っていることはどうしようもなく正しいが、この猪突猛進縦ロールのことだから、よしきたと即座に飛び出して勇者面でもするのかと思っていたのだが。


「……それ、完全にこっちのセリフですわよ」

「まだ台詞にすらしてねえぞ」


 そう言って微かに笑う俺達を見て、今度はレオじゃなくスロトが口を開く。


「でも、確実にじゃまにならない手伝いなら出来るんじゃないのかな? 例えば傷ついた人のヒールとか、簡単なバフとか、あの扉を壊す手伝いとか」


 それもまたごもっともな意見だが、俺は小さく肩を竦めて。


「ほら、炎神の顔見てみろよ。丁度いいタイミングで俺達の心中察してやがんな」

「うわー。全力で『ステイ』って言ってるね。眼力だけで」

「んな。クソ怖ええな」

「な、私は怖くありませんよギル様!」


 そんな阿呆の頭を撫ぜるように押さえつけ、俺は息を吐いてみせる。


俺達が今座っているこの場所は、最上位の結界が張られた、言わば簡易の安全地帯である。そしてご覧の通り、例の副隊長様様とやらは俺達がこの中から一歩でも出ることを許してはくれないらしい。


「そもそも、仮に奴らの役に立てたとしても後から『邪魔した』ってイチャモン付けられて退学になる可能性だって無くはねえだろ? うんうんあの胸糞赤髪女なら十分やりかねないね俺には分かる」

「そうか? ギル。俺にはんなことするような女には見えねえけど――なぶっっ」

「ギル様に反論とは何様ですかレボリューションズ気取りですかこのデカブツ!」

「…………はーあ」


何故なのだろう。

ここは戦場だと言うのに、赤いテープの内側は酷く平和だった。


(――つっても。地味どころか派手に不味いよなこの状況は)


本来は三日間。それも超大人数を交代させながらの攻略。

然し現在は退路を塞がれ人員も固定。補給もなければ魔力も有限。


俺は呟く。


「さーて。どうする気だよ、炎神様?」







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