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 ドアを開けると、ベルの綺麗な音がする。

 この音を、毎日のように鳴らしていた。


「いらっしゃい」


「……………………違和感、全開。違和感仕事しろ」


「意味不明だが、いい加減に慣れてくれ」


 無理かもしれない。

 ドアを潜ったその先に、違和感がわたしを出迎える。彼が微かに微笑んで、『いらっしゃい』と言うのだから。

 表情より、ちゃんと仕事している姿に、だ。

 慣れないのはきっと、見た目も含まれた。


「で、今日は何にする?」


「気分はレモンかコーヒーだけど、やっぱりミルクティー」


「……どんな気分だ」


「ほんわかしたい」


 そんな気まぐれな注文でも、彼は応えてくれる。

 入れてくれる紅茶もコーヒーも美味しい。

 実の所、何でもよかった。

 彼の入れる飲み物は、種類関係なく心が落ち着くからだから、飲みたい種類は気まぐれ。


「あ……」


「何だ?」


「や、えーっと……」


 仕事をしている彼を見て、思わず戸惑う。

 やっぱり大人なんだな――って。三十代後半だから仕方ないけど。


「時間はある。まだ歩き出したばかりだからな」


「え?」


「聞きたいことや話したいことは、オレもありすぎる。

 どれから話そうか。

 どれから聞こうか。

 言葉が一度に出そうだから困る。どれもみんな一番に聞きたいこと、言いたいことばかりだからな」


 だから、ふと浮かんだ時でいいと。そのタイミングが、一番話しやすいし、聞きやすいだろう。

 時間は進み、早く感じる人も居るだろう。

 わたしと彼との時間は、まだ進み始めたばかり。

 ゆっくり、ゆっくりと。

 聞きたいこと、話したいことを満たすには十分すぎるほど。

 焦る必要は、どこにもなかった。

 ――彼の年齢を考えなければ、の話。


「しかし、いざとなるとまあ……少し気恥ずかしい気もするが」


 ふっ、と考え込んだのは一瞬。

 彼の中で、何か決まったらしい。 


「今、思ったことを話そうと思う。少し……いや、死ぬほど恥ずかしいが」


「なに何?」


 詰め寄ってみる。

 彼の頬が少し、赤くなっているように見えた。


「……晴夏から遙に続く、紡いだ想い――とか」


「それってどの辺り?」


「ちょうどキミが消えたあの日から、だな」


 それは、彼の優しさと悲しさの物語。

 目を閉じて。




 遙かに続く明日へ、ここから一つずつ、想いを紡ぎ行く。




 ゆっくりと、二人で。







   終


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