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――と、そんな夢を見た。
「うあ~……」
恥ずかしさでどうにかなりそうだ。
少しずつ思い出すならまだ良かった。何も一気に思い出させなくてもいいじゃないか。
うあ~っと、布団の上でゴロゴロしてみたけど、疲れるので三秒で止める。
とりあえず、起きることにした。
「おはよ~」
と、声をかけても誰も居ない。
リビングのホワイトボードを確認すると、母さんは急な出勤になったらしい。看護師だから仕方ないかな。
父さんは仕事で引きこもり中。どうやら夕方まで缶詰しているそうだ。
……しかし、思い出してから父さんと呼ぶことに恥ずかしいと言うか、違和感を覚えてしまう。かと言って、兄さんとも呼べないし、困ったものだ。
キッチンに行くと、『昼食は外で済ませてね』と、メモと一緒にお金が置かれている。外に行ったついでに、買い物もさせようという魂胆だ。
仕方なしに着替え、財布と携帯を手に出かけることにした。
一歩外に出て、まず一回は言わなければならない。
父さんは売れっ子ライター。母さんは看護師。
車庫があった場所は改築され、今は内装工事が行われている。
【喫茶店 近日オープン】
誰がやるの?
親戚関係がやるとも聞いていないし、敷地を売ったとか、貸したとかも聞いていない。
全く意図の分からない喫茶店。
ここに喫茶店ができることは、立てかけている工事の看板と塀に張られたチラシのみ。
なのに、広がる話。
口コミの影響の大きさを思い知った一面。
「こうやって、本人ですら知らない話が広がられても、困るんだけど」
誰にでもなく呟く。
「――って、何言っているんだろ」
彼に聞いて欲しい。
探したいけど、どこを探せばいいのだろう。
あれから十六……もうすぐ十七年になる。もっと早くに思い出せたら良かったのに。
「――」
唇が、言葉を紡ぐ。
音にはならないその言葉は、確かに名前を紡いでいた。
『紡』と。
「つ、むぐ…………紡に会いたいよ」
会いたくて、会いたくて。
前世と今と、これほどまでに会いたいと思う人間は一人しか居ない。
物語では、都合よく現れてくれるけど、現実は甘くない。どちらかと言えば、壁を用意する方だ。
高い、高い壁。
見上げてわたしは、ため息一つ。
わたしは歩き出す。
探すと言ったからには、絶対に探し出してやるんだという意気込みを抱えて。




