表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
8/15

第8話 死んだと思った。

最後まで読んでくださると嬉しいです!

死んだ、と思った。

けれど、どれだけの時間が経っただろうか。次に感覚が戻ってきた時、僕の肌を叩いていたのは冷たい雨ではなく、容赦なく照りつける生暖かい太陽の光だった。


魔物は、しばらく動かなくなった僕を「死体」だと判断したのだろうか。それとも単に、これ以上貪る価値もないと見限ったのか。気配を探るまでもなく、周囲にはもうあの獣の息遣いはなかった。何処かへと去っていったのだ。


「……は、はは……」

指先一つ動かすのにも、激痛が走る。


自分の弱さを知った。いや、知っていたはずなのに、ファンタジーの景色に少しだけ浮かれて、改めて残酷なまでに思い知らされただけだ。僕は特別な主人公なんかじゃない。ただの、無力な佐藤蓮だ。


体は、引き千切られた肉と泥で血まみれだった。

傷口がズキズキと脈打つたびに、意識は今にも飛びそうになる。


遠くで、ガラガラと何かが地面を引く音が聞こえた気がしたけれど、それを確かめる前に、僕の視界は再び真っ暗になった。


「――おい! しっかりしろ! 死んでるのか!?」


頬をパチパチと叩かれる感覚と、強い焦燥を含んだ声で、僕は薄気味悪い覚醒を迎えた。

気がつくと、僕は、荷馬車の荷台の上に寝かされていた。


すぐ横には、大量の荷物を積み上げた馬車を引き連れていた、一人の青年がこちらを覗き込んでいる。身なりからして、街から街へと移動する行商の若者だろう。


「あ……が、は……」

「喋るな、傷が開く。おいおい、なんて無茶な格好でこんな街道を歩いてたんだ。魔物に食い荒らされて骨になるところだったぞ」


青年は手際よく、僕の傷口に気休め程度の薬草をすり込み、包帯を巻いてくれていた。

痛みに顔を歪める僕を見て、青年は呆れたように大きなため息をついた。


「君、冒険者カードは持ってるか? ……あ、これか。ポケットから落ちかかってたぞ。どれどれ……レン、銅級……って、スキルも加護もなし!? 嘘だろ、こんな能力で一人でエストの外縁を歩いてたのか!?」


この世界の〇級とは、冒険者の総合的なランクを評価するときに使うものである。

銅級どうきゅうとは、Eランク。

銀級ぎんきゅうとは、Dランク、Cランク。

金級きんきゅうとは、Bランク、Aランク、Sランクのことを指す。


つまり僕は、この世界において「最底辺の素人」でしかなかった。


「す、みません……」

「僕に謝られても困るよ! 僕はこれから、グランベル商会エスト支部にぶっとばされて、今行く途中です。こんな大怪我人を見捨てていくわけにもいかないし……まったく、なにやってるんですかほんとうに!」


青年の正論が、傷口よりも深く僕の心に突き刺さる。


本当に、何をやっているんだろう。逃げ出したくて旅に出たのに、最初に出会った魔物に手も足も出ずに敗北して、結局はまた、誰かに迷惑をかけて助けられている。


荷馬車が揺れるたびに、即席の包帯にじわりと血が押し出され、鋭い痛みが全身を駆け巡る。

上を見上げれば、ただ抜けるように青い空が広がっていた。数日前、アルに送られてこの街を出た時のワクワクした気持ちが、今の僕にはひどく滑稽で、恥ずかしくてたまらない。


「おい、死にそうなら声を上げろよ? 気を失うなよ!」

青年は御者台から時折後ろを振り返り、僕にぶっきらぼうな声をかけてくる。


「……名前、は……?」

掠れた声で尋ねると、青年は手綱を握り直しながら「リカルドです。」と短く答えた。

「リカルド……ありがとう、助けてくれて……」

「まったく…結構こっちもびっくりしましたからね。」


リカルドのいうことは正しい。だって、馬車を引いていたら、道のど真ん中に、血と泥だらけの自分より少し下か、同じくらいの人間が、倒れてたらそりゃあ、ほおっておけるわけはないよね。


彼の馬車には、薬や中身は、わからないがいくつかの箱が積みあがっていた。商売の邪魔をしてしまっているという罪悪感が、僕の胸をさらに重く沈ませた。


馬車はガタゴトと音を立てて、来た道を正確に引き返していく。

遠ざかるはずだった、あのさびれた景色が、再び視界の奥に見え始めていた。


小さな集落を越え、

川を越え、

薄暗い森を越え、

もう一度川を越え、

切り立った谷を越え、

そして、僕があの日「これから新しい人生が始まるんだ」と決意を固めて見下ろした、あの険しい山を越えていった。


景色が巻き戻っていく。僕のちっぽけな決意も、歩いた足跡も、すべてが無かったことにされるように。


やがて、見覚えのある灰色の石壁が見えてきた。

結果また、僕はエスト町の中心街へと戻ることに、なってしまった。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

別の作品や次の話も是非見てみてください!

面白かったらブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ