第4話 優しさと果てしない道
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もらった革袋を開けてみて、僕は思わずその場に立ち尽くしてしまった。
中に入っていたのは、少しのお金だけじゃなかった。
丁寧に折りたたまれた手製の地図。そして、この世界の地理や歴史が、子供でも読めるように分かりやすく書かれた教科書のような分厚い本。さらに、一枚の手紙と、使い込まれてところどころ凹みのある古い水筒が添えられていた。
手紙を開くと、そこにはアルの、少し癖のある力強い文字が並んでいた。
『旅に出るならこれくらいの装備は持っておけ、俺の私物を詰めといた。少し古いけど役に立つはずだ。それと水筒、旅の基本は水だからな。無茶すんなよ』
「……あいつ、本当に」
じわっと、胸の奥が熱くなる。
出会ったばかりの、しかも何の才能もない僕に、どうしてここまでしてくれるんだろう。前の世界では、他人の優しさに触れるたびに「裏があるんじゃないか」と疑ってばかりいた。けれど、アルのこの不器用な贈り物には、純粋な温かさしかなかった。
人との関わりを断ち切るために逃げてきたはずなのに、異世界で最初に僕を救ってくれたのは、やっぱり人の優しさだった。
「ありがとな、アル」
誰もいない一本道で、小さく呟く。
水筒を肩から下げ、本と地図をしっかり鞄にしまい込んで、僕はまた歩き始めた。
目指す場所はない。道に沿って、ただ宛てもなく、一歩一歩。
ふと気になって、ポケットから鉄色のギルド登録カードを取り出してみる。
西日にかざしてみても、そこに刻まれた【スキル:なし】【加護:なし】の文字が変わることはない。
「……はは、やっぱりダメダメじゃないか、僕」
自嘲気味に、フッと乾いた笑いが漏れた。
ネット小説の主人公なら、ここで隠された神の加護が見つかったり、実は規格外の魔力を持っていたりするはずなのに。現実はどこまでもシビアだ。僕はやっぱり、ただの佐藤蓮のままだ。
でも、不思議とさっきほどの絶望はなかった。
だって、このダメダメな僕を、アルは一人の人間として応援してくれたから。
顔を上げると、視界の先には圧倒的な光景が広がっていた。
見渡す限りの緑の大地。遠くには、天を突くようにそびえ立つ、雪を冠した巨大な山脈。空を流れる雲は驚くほど白く、その隙間から差し込む光の梯子が、草原をまだらに照らしている。
それは、昔遊んだRPGのパッケージに描かれていたような、あるいはファンタジー小説の挿絵で憧れた、そのものの風景だった。
空気が美味しい。風が、僕の髪を揺らして通り抜けていく。
「本当に……来ちゃったんだな、異世界に」
頼れる魔法も、最強の剣技もないけれど。
僕はアルからもらった地図を広げ、これから進むであろう、世界の果てへと続く道をじっと見つめた。
ゆっくりと足を前に出し進んでいく。
山を越え始める。ふと後ろを振り返るとエストの町が、四方を山に囲われた町であることに気が付く。
(あの町は、盆地だったんだな)
盆地とは、周囲を山や丘に囲まれた、中央が低く平らな土地のことである。
特徴としては、気温の年較差や日較差が大きいこと、盆地は平坦で水が集まりやすいため、農業に適した土地であること、防御に適した土地であること、が特徴である。
元の世界での盆地の例は、山梨県の甲府盆地や京都府の京都盆地、奈良県の奈良盆地など案外、探してみると盆地は見つかる。
(もし、大きな戦いがおきたとき、きっとこの町は、備えがあれば、生き残れることであろう。まぁそんな大きな戦いなんて、こんな平和な異世界で起こるわけ、ないんだけどね。)
山を越え、谷を越え、川を越えて、この道は続いている。
行くあてなんて、ないけれどもきっと僕はこの道の続く限り、歩き続けるだろう。
どんな困難があっても。
この時、僕には、湧きどころ不明の自信に満ちていた。きっと異世界らしい景色を見て、ひとりで旅に出かけて、自分が小説の中やアニメの中でしか、あり得なかったはずなのに、いまその景色の一つとなれていることに嬉しさがきっとあったのだろう。
まだ道は続いている。舗装もされていない、土の道。この先どうなることやら。
まだまだ歩く、日が暮れるまで。
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