第30話 始まりの季節、青空の下で
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あの大規模な要塞化と街道の整備事業が始まってから、早いもので約1年が経った。
暑い夏は過ぎ去り、厳しかった冬の寒さは遠ざかり、新緑の季節を通り抜けて、エストの町には「いつしか夏」が訪れていた。じりじりと照りつける太陽、どこか懐かしい草の匂い、そして遠くから聞こえてくる海辺の村の波の音。僕がこの世界に落ちてきたあの日のような、眩しい季節が再び巡ってきたのだ。
そして、ついにその日がやってきた。
「よし……これにて、全ての整備事業、完全終了だ!!」
中央広場に集まった町の人々、そして村の人々に向けて、リカルドさんが高らかに宣言した。その瞬間、広場を埋め尽くした民たちから、地鳴りのような大歓声と拍手が巻き起こる。
「やった、やったぞ……!」
「俺たちの町を守りきれる、本物の城ができたんだ!」
半年前、王都の戦争の噂に怯えていた人々の顔には、今や一片の陰りもなかった。
みんなで汗を流して完成させたのは、ただの防衛施設ではない。自分たちの手で未来を掴み取ったという、絶対の自信だった。
地下回廊には、数ヶ月分の食料と物資が整然と保管され、トビーの手によって完璧に管理されている。山々の迎撃陣地は、ダーカーの緻密な魔導計算によっていつでも再起動できる状態だ。そして何より、海辺の村やミルン村へと続くあのボロボロだった悪路は、今や荷車がスムーズに行き交う立派な街道へと生まれ変わり、この夏の強い日差しの下でまっすぐに伸びていた。
「ククク……我が闇の結界(水堀)も、太陽の光を浴びて神々しく輝いておるわ。これぞ不落の理想郷の完成だな、副会長」
ダークネスが汗を拭いながら、満足げにマントを翻す。
「ダークネスの怪力には助けられましたね。これでようやく、私たちも本来の『商人』としての仕事に戻れます」
ダーカーも珍しく、少しだけ満足そうな笑みを浮かべていた。
これにて、僕たちエスト商会の記念すべき「一つ目の仕事」は、最高の形で幕を閉じた。
お金がない、船が沈んだ、そんな最悪のスタートから始まった僕たちの悪あがきは、この完璧な町エストを、誰も傷つけることのできない絶対の聖域へと変えてみせたのだ。
「みんな、本当にお疲れ様! 今日はエスト商会主催の、大完成祝いの祭りだ! ルノア村から届いた美味い魚と、ミルン村の美味い酒を、腹いっぱい楽しんでくれ!」
リカルドさんの言葉で、町中に賑やかな音楽と笑い声が響き渡る。
僕たちが歩き、走り、繋いできたこの道の上で、誰もが夏の始まりを笑顔で祝福していた。
「レン君、本当にありがとう。君の計画のおかげさ」
リカルドさんが、冷えた果実水が入ったコップを僕に差し出し、優しく微笑んだ。
「いえ、僕だけの力じゃありません。みんながこの町を、大好きだからできたんです」
コップをカチンと合わせ、喉を鳴らして飲み干す。冷たい甘さが、半年間の疲れを一瞬で吹き飛ばしていくようだった。
僕たちの、エスト商会の最初の挑戦は終わった。けれど、僕たちの旅はここからが本当の始まりだ。この青く輝く夏の空の下、僕たちは次なる未来へ向かって、また新しい一歩を踏み出していく。
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