↓ ↑ページトップへ
表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
PR
29/37

第29話 鳴り響く槌音、そして不落の胎動

最後まで読んでくださると嬉しいです!

「よし、一、二、の、三……それッ!」

ずしりと重い、何百年も放置されていたであろう地下回廊の防魔石の扉が、男たちの太い腕によってゆっくりと押し開けられた。


ゴゴゴ、と地響きを立てて開いた暗闇の奥から、冷たく、どこか厳かな空気が吹き抜けてくる。

「うわぁ……本当に、こんな広い場所が隠されていたんだな……」


松明(たいまつ)の明かりを掲げた町の人々が、息を呑んでその光景を見つめていた。

そこは、馬車が3台同時にすれ違えるほど広大で、等間隔に美しい石柱が並ぶ地下の大回廊だった。かつて大昔の勇者が、もしもの時のためにエストの地下へ張り巡らせた絶対の防衛線。その全貌を目の当たりにした民たちの顔から、王都への恐怖の影が消え、代わりに「これなら本当に守りきれるかもしれない」

という確かな希望の光が灯り始めた。


「さあみんな、感心している暇はないよ! 王都の奴らが動き出す前に、ここを僕たちの『家』であり『城』にするんだ。まずは大掃除から始めるよ!」

リカルドさんの快活な号令が地下に反響する。


その言葉を合図に、エストの町、ミルン村、そしてルノア村から集まった総勢数百人の大クリーン作戦が始まった。


地下での作業は、驚くほどシステマチックに進んでいった。

何しろ、僕たちには王都の最大手商会をクビになって転がり込んできた、最強の(けれど頭の痛い)天才二人がいる。

「フッ……我が右脳の魔導回路が弾き出した、最も効率的な『塵芥(じんかい)滅却陣形』です。1班は西の排気路の煤払いを、2班は地下水路の土砂の撤去を。私の計算に従えば、魔素の乱れもなく3日で完了します」


ダーカーがフードの隙間から冷静に指示を出す。彼女が指示する人員配置は驚くほど完璧で、通路に溜まっていた数百年の埃や瓦礫は、信じられないスピードで運び出されていった。

一方のダークネスはといえば、長い黒マントをバサバサと翻しながら、地下回廊の壁に刻まれた古代の文様を熱心に調べていた。


「ククク……血の契約を交わし、眠れる大地の精霊よ目覚めよ……。これほど強固な結界術式が刻まれていようとはな。この『封印されし左目』には、古代の防壁が再び輝きを取り戻す未来が見えるぞ、副会長!」

「あ、はい、ダークネスさん、かっこいいです! じゃあそのかっこいい闇の力で、あっちの重い瓦礫の山を荷車まで運んでもらえますか?」

「ふははは! 我が底知れぬ暗黒の剛力、今こそ解き放たん!」


中二病の扱いにも、僕はすっかり慣れてきていた。ダークネスは「ふんぬっ!」と声を上げながら、金級の実力に違わぬ凄まじい怪力で、大人が3人がかりで動かすような巨石を一人で軽々と持ち上げて運んでいく。精神的にはかなり痛いけれど、現場の作業効率としてはこれ以上ないほど頼もしい。

トビーも負けじと、町の子どもたちや老人たちをまとめて、地下に運び込まれる生活物資や食料の備蓄リストを器用に作成してくれていた。


「レンさん! ミルン村から乾燥野菜がさらに30箱、海辺の村から塩漬けの魚が詰まった樽が50個届きました! 地下第3倉庫への格納、完了です!」

「ありがとう、トビー! 本当に助かるよ!」


僕はノートを片手に、各エリアを走り回っていた。

かつて元の世界で引きこもりの一歩手前だった僕が、今は数百人の大人たちに指示を出し、一つの大きな計画を動かしている。足の筋肉痛なんてとっくに忘れていた。ただ、この町を、この温かい人たちを守りたいという一念が、僕の体を突き動かしていた。


地上での動きも、地下に負けないほど熱を帯びていた。

僕が提案した「悪路の整備」は、ミルン村とルノア村の農家や漁師たちが中心となって、爆発的な勢いで進められていた。

「おう、若頭(レン)! 見てくれよ、ここのぬかるみ、全部砂利を敷き詰めて踏み固めてやったぞ! これで雨が降っても、荷車が止まることはねぇ!」


前回の行商で僕を見違えたと言ってくれた、あのおじさんが、クワを担いで白い歯を見せて笑った。

かつて僕が一度死にかけ、泥まみれになって這いずり回ったあのボロボロの街道が、村人たちの手によって、見る見るうちに立派な石畳の『舗装道路』へと生まれ変わっていく。


道を整えるということは、単に軍事的な移動速度を上げるだけではない。


整備された綺麗な道を通り、ミルン村の新鮮な野菜が中心街へ届き、海辺の村の魚がその日のうちに皆の食卓に並ぶ。要塞化のためのインフラ整備が、そのままエストの町全体の暮らしを劇的に豊かにしていくという最高の循環(シナジー)が生まれていた。

さらに、あの川と繋がる大きな『堀』の整備も最終段階を迎えていた。

リカルドさんと数人の職人たちが、城門の裏深くに埋もれていた巨大な鉄製のレバーに、錆止めのアブラを注ぎ込む。


「いくぞ、みんな! 勇者の遺産、お目覚めの時間だ!」

リカルドさんが叫び、男たちが一斉にレバーを押し下げる。

ガガガガガ、と何百年も眠っていた歯車が悲鳴のような音を立てて噛み合い、街の外周で地響きが鳴った。


次の瞬間、地下の水路を通じて、あの大きめの川から清らかな水が、凄まじい勢いで街の周囲の深い溝へと流れ込み始めたのだ。

乾いていた堀が、あっという間に満々と水を湛えた「難攻不落の水堀」へと姿を変えていく。太陽の光を浴びてキラキラと輝くその水面は、王国のいかなる侵略をも阻む、美しくも冷徹な絶対の盾だった。

「……できた。本当に、僕たちの手でやり遂げたんだ……」

夕暮れ時、新しく整備された城壁の上に立ち、僕は完成しつつあるエストの全貌を見つめていた。

地下には広大な避難所と、数ヶ月は籠城できる物資。

地上には、川と繋がった鉄壁の水堀と、村々を繋ぐ美しい街道。


そして、山々にはダーカーの手によって魔力を再充填されつつある迎撃陣地。

「よくやったね、レン君。最高の計画書だったよ」

いつの間にか隣に立っていたリカルドさんが、僕の肩を優しく抱きすくめた。その横顔には、かつて戦場で全てを失った男の寂しさはなく、新しい未来を見据える本物のリーダーの誇りがあった。

「何もないと言われたこの町だけど、今や王都のどんな城よりも強固だ。僕たちのエストは、もう誰にも踏みにじらせない」

「はい……!」


僕は拳を強く握りしめた。

槌音(つちおと)が響き渡るエストの空には、不落の決意を祝福するかのように、どこまでも美しい茜色の夕焼けが広がっていた。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

別の作品や次の話も是非見てみてください!

面白かったらブックマーク・評価で応援いただけると嬉しいです!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。