第25話 忘れられた勇者の遺産
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――ここで一度、僕たち『エスト商会』の現在のメンバーを紹介しておこう。
まずは会長のリカルドさん。元王国の兵士で、ぶっきらぼうだけど誰よりもこの町を愛し、不条理な王国を見返そうとしている僕の恩人だ。
次に僕、レン。加護もスキルもない役立たずとして元の世界からこの異世界へ放り出され、今はなぜかこの商会の『副会長』をやらせてもらっている。
そして、健気で働き者の事務員、平社員のトビー。
最後に、数日前に王都のグランベルク商会をクビになって転がり込んできた、自称『深淵を見つめし者』ことダークネスと、『理を破壊せし天才』ことダーカー。この新入社員の二人は、壊滅的に頭の中身が中二病で痛々しいけれど、魔法も剣技も超一流という最高峰の『金級』の実力者だ。
総勢5人。大財政難で泥船一歩手前の弱小商会だけど、僕たちは今、王都が目論む大戦争からこの町を守るため、地形の利を活かした『エスト不落要塞化計画』を極秘裏にスタートさせていた。
「リカルドさん。要塞化の計画を練る上で、物資の備蓄場所や、敵の目を欺くための隠し通路が必要になると思うんです。……そもそも、地下がある建物ってこの町にあるんですか?」
事務所の机に地図を広げながら僕が尋ねると、リカルドさんは腕を組んでうーんと唸った。
「地下ねぇ……。普通の民家にはまずないし、うちの事務所にもないな。いや、僕が知らないだけであるのかな。……よし、知らないなら、あのじいさんに聞きに行くか!」
「じいさん?」
「あぁ、この町の町長のことだよ。ちょっとボケてて変な人だけど、昔からこの町に住んでる生き字引みたいな人さ」
「町長さん……いるんですね、この町にも」
王国の隅っこで、実質的にリカルドさんが中心街を引っ張っているような印象だったから、ちゃんと町長がいると聞いて少し驚いた。
「おう、気さくで優しい、ちょっと物知りな爺さんがね。よし、善は急げだ。行こう、レン君!」
リカルドさんに連れられて中心街の奥へと歩き、少し立派な、けれど随所にガタがきている木造の屋敷へと向かった。リカルドさんはノックもそこそこに、勢いよく扉を開ける。
「じいさん、来たぞ~~!」
「おぉ、ルカルドか! 久しぶりじゃな!」
奥の部屋から、白い髭をたくわえた小柄なおじいさんが、よぼよぼとした足取りで嬉しそうに現れた。
「……リカルドだよ、じいさん。一文字も合ってないからね」
「そうか、ルカルド。今日も元気そうで何よりじゃ」
「はぁ……もういいや」
リカルドさんは早くも諦めたようにため息をつくと、僕の背中をぽん、と押した。
「で、じいさん。紹介するよ、こちらが新しくうちのエスト商会の副会長になった、レンくんだ」
「おぉ、ルンくんか! 初めましてじゃな。若者が商会を支えるとは、頼もしい限りじゃ」
「あ、はい……初めまして、レンです。よろしくお願いします、町長さん」
『ルンくん』と呼ばれて一瞬戸惑ったけれど、町長さんの悪気のない優しい笑顔に、自然とこちらの緊張もほぐれていく。
挨拶もそこそこに、リカルドさんが本題を切り出した。
「で、本題なんだけどさ、じいさん。この町に、地下がある建物とか、地下室の隠し場所とかってどこかにある?」
その質問を聞いた瞬間、それまで好々爺のようだった町長さんの目が、一瞬だけ鋭く光ったような気がした。
「?! おぉ……とうとう、そのことに興味を持ったか、ルカルドよ」
「だからリカルドだって。……え、何その思わせぶりな態度は」
町長さんはフハハと低く笑い、壁にかけられた古びたエストの絵図を見つめた。
「この町はな、ただのさびれた辺境の土地ではない。大昔……伝説の『勇者』が作った町なんじゃよ。だから、もちろん何でもあるぞ。家々の地下室、隠し通路、二重の防壁、隠された水路、果ては巨大な防衛兵器までな」
「へぇ……。要塞の跡があるのは知ってたけど、そんな隠し要素まであったんだ。なんか昔、親父から聞いた気がするなぁ」
リカルドさんが顎をさする。一方で、僕は『勇者』というそのファンタジーすぎる単語に、思わずじっと耳を傾けていた。元の世界のアニメやゲームの存在だと思っていたものが、この世界では歴史として語られている。
「勇者、ですか……」
「そうじゃ、勇者は実在するんじゃよ、ルンくん。王都の奴らはあの大戦の後、勇者の存在やその遺産を歴史から消し去ろうとしたが……この町の地下には、確かにその息吹が眠っておる」
町長さんはそう言うと、部屋の奥の頑丈な木箱から、埃を被った分厚い一冊の古い書物を取り出してきた。それを、僕の手へと厳かに手渡す。
「まぁいい、お前さんたちがこの町を守り、動かそうというのなら、この『伝説の書物(設計図)』をやる。これを見て、この町についてよく調べてくるといい。また何か分からないことがあったら、いつでも来いよ。今度はお茶でも出すからの、ルカルド、ルン」
「……リカルドとレンだよ、じいさん。最後まで一文字も覚えなかったね」
リカルドさんがツッコミを入れると、町長さんは大きなあくびを一つ漏らした。
「そうかそうか、じゃあな。わしはこれから、大事な睡眠をとらなければならない。さらばじゃ、若者たちよ」
そう言うと、町長さんはこちらの返事も待たずに、そそくさと奥の寝室へと消えていってしまった。本当に気さくで、そしてマイペースな嵐のようなおじいさんだった。
「……まぁ、名前はボロボロだったけど、とんでもない収穫だな、レン君」
手渡された書物を抱え、僕とリカルドさんは屋敷を後にした。
事務所に戻り、ダークネスとダーカー、トビーも集めて、さっそくその『伝説の書物』を机の上に広げてみる。
「ククク……これは、古代の英知が刻まれし闇の黙示録……!」
「いえダークネス、これはただの非常に精密な建築用魔導設計図です。……ですが、素晴らしい。現在のエストの街並みの地下に、これほど完璧な回廊が張り巡らされているとは。私の右脳が狂喜乱舞しています」
中二病の二人が、珍しく目を輝かせて設計図に食いついている。
ページをめくるたびに、僕たちの目の前には、今のエストの町からは想像もつかないほど強固で、機能的な『古代要塞都市』の全貌が明らかになっていった。隠し地下室、物資搬送用の地下水路、山に仕込まれた迎撃設備。
「これなら……いける」
僕は確信を込めて呟いた。
お金がなくても、船が沈んでも関係ない。僕たちの足元には、大昔の勇者が遺してくれた、この町そのものが最強の盾となる遺産が眠っていたんだ。
新しく加わった頼もしい (けど痛い)仲間たちと共に、僕たちの『エスト不落要塞化計画』は、一気に現実味を帯びて加速し始めた。
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