第22話 王都の冷徹、あるいは大戦の足音
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手作りの船が沈み、エストの町で僕たちが泥臭く笑い合っていたその頃――。
華やかな王都グランベルクの、重厚な石造りの一室では、まったく異なる空気が流れていた。
高級な絨毯が敷かれた円卓の上に、広大な大陸の地図が広げられている。その前に立つのは、仕立ての良い官服に身を包んだ、王都の上層部にあたる役人たちだった。
「ふむ。近隣の二つの帝国、ガルバルド帝国、ギルガニア帝国。および国境を接する数個の小国、以前の戦争で我が国が負けてしまった、リステル王国、レムリア公国、ブネストリア共和国……これらに対し、同時に攻勢を仕掛ける…それにより中央大陸の覇権を手に入れる」
一人の役人が、冷徹な声音で地図のあちこちに黒い駒を置いていく。隣国一つとの戦争でさえ、かつてリカルドたちの親友を奪い、多くの傷跡を残したというのに、彼らが目論んでいるのは、中央大陸全土を巻き込むような未曾有の大戦争だった。
「同時に仕掛けるなど、正気の沙汰とは思えんが?」
「いや、今や我が国の魔法技術は全盛期を迎えている。新たに開発された広域攻撃魔法を最前線に投入すれば、敵の防衛線など一瞬で瓦解するさ」
役人は、手元の書類をトントンと揃えながら薄笑いを浮かべた。
「さらに、地方の村々から兵をかき集めればいい。加護なき者や平民どもを最前線に並べる人海戦術だ。魔法による破壊と、圧倒的な兵の数……これさえあれば、複数の国を同時に相手取ることなど造作もない」
彼らにとって、前線に送られる兵士たちの一人ひとりに人生があり、家族があることなど、考慮の対象にすら入っていないのだ。ただの都合の良い『駒』であり、数としてしか見ていない。
「しかし、それほどの規模の戦争ともなれば、我が国の財政や民の負担も……」
「何を言う。戦争は、我が王都にとって利点しかないのだよ」
役人は遮るように、くすくすと低く笑った。
「勝利すれば莫大な領土と資源が手に入る。仮に長引いたとしても、軍需物資の流通で王都の特権商人たちは大儲けだ。職を失った民には兵としての『仕事』を与えてやれる。それに……前線で地方の余剰人口が減れば、王都の食糧事情も改善する。そして、占領地を手に入れればより本国が豊かになる。これのどこにデメリットがある?」
地図の上に置かれた黒い駒が、夕暮れの赤い光に照らされて、まるで血に染まっているかのように見えた。
彼らにとって、戦争とは悲劇ではなく、ただの『効率の良い事業』に過ぎない。自分たちは安全な王都の奥深くに身を置き、ワインを片手に、他人の命の価値を天秤にかけて笑っている。
「決まりだな。すぐに兵の徴集と、魔法兵団の編成に取りかかれ、実行は、ねんみつな準備を図って実行するため、1年後に行う。」
王都の役人が放ったその冷酷な一言により、まだ何も知らないエストの町、そして世界全体を巻き込む「大戦争」の歯車が、最悪の形で静かに回り始めようとしていた。
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