第20話 韋駄天の帰路と、水上のひらめき
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翌朝、ルナア村の澄んだ空気の中で、僕たちの初仕事はクライマックスを迎えた。
朝早くから広場に荷車を止め、村の人々に生活必需品を「売り」、代わりに新鮮な魚や塩などの特産品を「買う」。リカルドさんの鮮やかな交渉術と、僕の不器用ながらも一生懸命な手伝いで、荷車はあっという間に新しい商品でいっぱいになった。
「よし、仕入れは完璧だ! レン君、帰るよ!」
「はい! ……えっと、帰りもまたあの長い道のりを歩くんですか?」
すでに足が筋肉痛の僕は戦々恐々としながら尋ねた。すると、リカルドさんは不敵な笑みを浮かべ、海岸線から続く一本の大きな川を指差した。
「いや、今回は走って帰る!」
「……はい?」
「この川をたどれば、迷わずまっすぐエストの中心街まで帰れるんだ。結構大きめの川だからね。あんまり長くかかると、留守番のトビーに心配されるだろ? だから、ダッシュだ!」
「っ、体育会系だな……!!」
思わずツッコミが漏れた。大財政難のエスト商会、まさかの帰路は強行軍のランニングである。
「いくよ、副会長! 遅れないでね!」と荷車を引いて駆け出すリカルドさんの後ろを、僕は「待ってくださいー!」と悲鳴を上げながら必死に走って追いかけた。川の流れに沿って、泥を跳ね上げ、息を切らし、ただひたすらに走り続ける。
(でも……不思議と、あの日一人で絶望して逃げ走っていた時みたいな、嫌な息苦しさはなかった)
そして、驚異的なスピードでエストの中心街へと帰還した僕たちは、休む間もなくその日の夜、仕入れたばかりの新鮮な魚を広場に並べた。
「さあさあ! ルナア村から直送、獲れたてピチピチの美味い魚だよ!」
夜のエストの町に、僕たちの威勢のいい声が響く。山に囲まれた中心街では、新鮮な海の魚はめったにお目にかかれないご馳走だ。町の人々は「お、魚じゃないか!」「美味そうだねぇ!」「今夜は、魚にしようかしら」と次々に集まり、魚は飛ぶように売りさばかれていった。
留守番を頑張ってくれたトビーも、「すごいです、リカルドさん、レンさん!」と目を輝かせて大喜びしている。
大盛況の余韻の中、僕は片付けをしながら、帰る時に必死で眺めていたあの「大きめの川」のことを思い出していた。
「リカルドさん、ちょっと気になったんですけど……」
「ん? どうしたんだい、レン君」
「僕たち、今日はあの川沿いを走って帰ってきましたよね。あの川、結構幅も広くて流れも穏やかでした。……だったら、荷車を引いて走るんじゃなくて、川を使って船で物資を運ぶ『水運』を使えば、もっと楽に、大量の魚や野菜を運べるんじゃないですか?」
僕は、自分の元居た世界で、山梨県の甲府盆地から、身延を流れ、富士へ至る富士川でかつて行われていた水運について、少し前に読んだ本を思い出しながら提案した。
僕のその提案に、リカルドさんとトビーはハッと目を見開いた。
「水運……!?」
「そうすれば、馬車がなくても、僕たちが汗だくで走らなくても、海辺の村とミルン村、そしてこの中心街を一気に繋げます。何もないって言われてるこの町だけど、あの川は最高の『道』になると思うんです」
リカルドさんはしばらく呆然とした後、顔をくしゃりと歪めて、僕の肩を壊れそうなほど強く叩いた。
「天才かよ、うちの副会長は……!!」
「痛っ、痛いですリカルドさん!」
「よし、トビー! 明日からは水運の計画だ! 船の調達とルートの確認をするぞ!」
「はいっ!!」
スキルも加護もない僕の、現代からのちょっとしたひらめき。それが、何もないと言われたエストの町に、新しい未来の風を吹き込もうとしていた。僕たちの小さな商会は、ここから本当の意味で、この町を生まれ変わらせていくことになる。
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