第19話 海辺の夜とふかふかの特等席
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「着いた……! 本当に着いたんだ……!」
波の音がすぐ間近に聞こえる中、僕たちはついにエスト最後の集落、ルノア村へとたどり着いた。時刻はすっかり夜遅く。満天の星空の下、潮風に揺れるランタンの明かりが、静まり返った村の家々をほのかに照らしている。
「お疲れ様、レン君。さあ、今夜の宿はあそこだよ」
リカルドさんが指差したのは、海岸沿いにぽつんと佇む、少し年季の入った木造の建物だった。潮風にさらされて壁の塗装は剥げかけ、お世辞にも立派とは言えない、ちょっとボロい外観の宿屋だ。
けれど、ギィ…と重い木の扉を開けて一歩中に入ると、そんな印象は一瞬で吹き飛んだ。
「いらっしゃい。おや、リカルドじゃないか、久しいね。こんな夜遅くに珍しいね」
奥から出てきた優しそうなおばあさんが、僕たちの濡れた上着や泥のついた靴を見て、すぐに暖炉の火を強めてくれた。パチパチと薪が爆ぜる音とともに、旅で冷え切った体に心地よい暖かさがじんわりと広がっていく。
「こんばんは、おばあさん。エスト商会なんてものを作ってね、そこの副会長になったレン君を連れて、行商に来たんだ。……お腹がペコペコなんだけど、何か食べるものはあるかい?」
「はいはい、すぐ用意するよ。若いもんがそんなに泥だらけになって頑張ったんだ、特製のご馳走をあげるからね」
そう言って出されたのは、目の前の海で獲れたばかりの新鮮な魚をたっぷり使った地元のスープと、香ばしく焼かれた丸ごとの焼き魚、そしてふっくらとした温かいパンだった。
「う、うまい……!」
一口食べた瞬間、口の中に魚の旨味がじゅわっと広がった。王都の高級料理のような華やかさはないけれど、素材の味がこれでもかと生きた、体に染み渡るような最高の美味しさだ。僕とリカルドさんは、競い合うようにして一気に平らげてしまった。
お腹もいっぱいになり、最高の暖かさに包まれて僕がウトウトし始めていると、おばあさんが呆れたように、でも愛おしそうに微笑んだ。
「ふふ、もう限界のようだね。リカルド、その子が新しい副会長さんかい? 体は小さいけれど、いい目をしてる。エスト商会を助けてくれたお礼に、今日の宿泊代は、安くしとくよ」
「本当かい!? 助かるよ、何しろ大財政難だからね」
リカルドさんが嬉しそうに頭を下げる。
案内された部屋に入ると、そこには清潔なシーツが敷かれたベッドが並んでいた。
雨上がりでぬかるんだ道を歩いたせいか、泥まみれになった服を着替えて、吸い込まれるように横たわる。
「……っ、ふかふかだ……」
一人で旅をしていた頃の、あの硬くて冷たい洞窟の地面とは比べものにならない。お日様の匂いがするふかふかのベッドが、僕のボロボロになった体を優しく包み込んでくれる。
「よく頑張ったね、レン君。おやすみ」
「はい……リカルドさん、おやすみなさい……」
ザーザーザザーーーザー
目を閉じると、心地よい波の音が子守唄のように遠くで響いていた。
何もない、世界の隅っこのボロい宿。だけど、ここには間違いなく、僕たちが歩いて見つけた「最高に温かくて、美味しい日常」があった。幸せな余韻に包まれながら、僕は深い、深い眠りへと落ちていった。
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