第14話 火を囲み、語られる過去
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ゴーゴーと外で鳴り響く激しい雨の音を聴きながら、リカルドさんは慣れた手つきで洞窟の奥から乾いた薪を集め、小さな火を起こしてくれた。
パチパチと爆ぜるオレンジ色の炎が、濡れた僕たちの体をじんわりと温めていく。
「ふぅ……生き返るね。レン君、寒くないかい?」
「はい、大丈夫です。……リカルドさん、手際がいいんですね」
僕がそう言うと、リカルドさんは火を見つめたまま、ふっと寂しげに目を細めた。
「まあね。昔、嫌というほどこういう生活をさせられた時期があってさ。……レン君、僕が王都から厄介払いされたって話、したよね」
「はい。仕事でミスをしたからって……」
「あれはね、半分は本当で、半分は方便さ」
リカルドさんは膝を抱え、静かに語り始めた。
「数年前、このグランベルク王国が隣国に仕掛けた戦争があったんだ。大義名分なんて建前だけの、ただの侵略戦争さ。それにね、僕たちエストの若者も大勢、無理やり兵士として駆り出されたんだよ。僕と、アル君と……そして、もう一人の親友の3人でね」
「アルさんと、リカルドさんに、もう一人……」
「そう。僕たちはここで生まれ育った、本当に仲の良い3人組だった。戦場でも、3人で支え合って生きて帰ろうって約束したんだ。アル君は当時から圧倒的な天才だったし、僕も頭を絞って必死に作戦を考えた。だけど……」
リカルドさんの拳が、ぎゅっと強く握り締められる。炎の光に照らされたその横顔には、普段の軽快な笑顔からは想像もつかないほど深い怒りと悲しみが刻まれていた。
「王都の無能な上層部の命令のせいで、僕たちはまともな補給も与えられないまま、敵の伏兵がいる最前線に放り込まれた。アル君の奮闘も虚しく……もう一人の親友は、僕たちの目の前で命を落としたんだ」
洞窟の中に、重い沈黙が流れた。雨の音だけが虚しく響く。
「あいつの遺体さえまともに回収させてもらえなかった。それなのに王都の奴らは、自分たちの失敗を隠すために戦争を途中で切り上げて、何事もなかったかのように平穏を貪っている。僕はね、レン君。自分の利益のために若者を…辺境の人々を…使い捨てにする、この王国がどうしても許せないんだ。激しく抗議したら、案の定『王都の本店』から、この何もないエストの隅っこへ厄介払いされた。そしてそのエストの支部は、経営分離された…この僕が、グランベルク王国の商会にいることが、それだけ嫌だったって話だ。」
リカルドさんはそこまで言うと、自嘲気味に笑って僕を見た。
「天才のアル君は、あいつの分まで強くなって誰も死なせないために、今も戦い続けている。そして僕は、王国に頼らずに、このエストの人たちが自立して生きていけるだけの経済の基盤を作ろうとしている。……これが、僕がエスト商会を絶対に潰したくない本当の理由さ。暗い話を話しちゃってごめんね」
「ううん……」
僕は首を振った。
ただのさびれた町だと思っていたエスト。そこに生きる人たちの胸の奥には、僕の想像もしえなかった重い過去と、世界に対する強い覚悟が眠っていた。
(僕だけだ。何も背負わず、ただ逃げてきたのは……)
リカルドさんの強い横顔を見つめながら、僕は自分の胸の中にある小さな甘えを恥じるように、パチパチ
と燃える炎をじっと見つめ返していた。
(僕に…なにができるのだろうか…)
そう考えながら、洞窟の外で降りやまない雨を見た。
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