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第15話 これは…夢の中?

最後まで読んでくださると嬉しいです!

「さて、寝るか。明日はね、レン君が死にかけてたところの近くの集落まで行くよ。体力を使うから、今日はもう寝とこ」


リカルドさんはそう言って、パチパチと爆ぜる焚き火に最後の薪をくべると、荷車から取り出した薄手の毛布を僕に投げてよこした。


「おやすみ、我が商会の副会長。明日からは本当の正念場だからね」

「……はい、おやすみなさい、リカルドさん」

リカルドさんは壁に背を預け、手際よく眠りについた。


静かになった洞窟の中で、僕は毛布にくるまりながら、改めて岩肌のゴツゴツとした質感や、奥から吹き込んでくるひんやりとした風の通り道をじっと見つめていた。


(あ……ここ、見覚えがある……)


暗闇に目が慣れてくるにつれて、心臓がトクンと跳ねる。

そうだ。ここは、僕がこの世界に突然やってきて、わけも分からずただ一人でエストの街を飛び出し、あてもなく彷徨っていた時に、恐怖に震えながら夜を明かしたあの洞窟だ。


あの夜の僕は、スキルのない自分の無力さに絶望し、元の世界で僕を哀れんでいたあの子の顔を思い出しては、ただ膝を抱えて泣いていた。外から聞こえる魔物の遠吠えに怯え、明日の命さえ分からないまま、孤独な暗闇の中で凍えていたんだ。


けれど、今は違う。


すぐ近くでは、僕を『仲間』と呼び、『副会長』なんて名ばかりかもしれないが、役職まで押し付けてくれた信頼できるリカルドさんが静かな寝息を立てている。

明日行くのは、僕が一度死にかけ、そしてリカルドさんに命を救われたあの場所の近く。

今度はただ逃げ回るだけの迷子じゃない。『エスト商会』の一員として、自分の足で未来を掴むための、初めての行商の旅なんだ。


「……元気に、やっていくか」


あの深夜のコンビニの前で、一人きりで呟いたはずの言葉が、なぜか今、未来の記憶のように頭の奥で優しく響いた気がした。

外の激しい雨音は、いつの間にか静かな夜の音へと変わっていた。僕は胸のエスト商会のバッジをそっと握り締め、かつてあれほど怖かった異世界の暗闇の中で、今度は不思議と温かい安心感に包まれながら、深く静かな眠りへと落ちていった。



夜中、ふと肌寒さを覚えて目が覚めた。

(やっぱり、雨の日に野宿というのは、寒いな)


焚き火の火は小さく揺らめき、洞窟の壁に長い影を落としている。そっと視線を動かすと、寝ていると思っていたリカルドさんが、炎の微かな光の中で膝を抱え、ひどく悲しそうな目で虚空を見つめていた。

その横顔は、昼間の快活な彼とはまるで別人だった。


リカルドさんの意識は今、ここではないどこか――あの冷たい雨が降る、凄惨な戦場へと戻っているようだった。どこか、魂がさまよっているような様子だった。


数年前。まだ僕たちが、エストのありふれた若者だった頃。

その日は、今日みたいに朝からひどい雨が降っていた。

『リカルド、聞いたか。……王国が、隣国と戦争を始めたらしい』

息を切らせて集落に駆け込んできたアルの顔は、かつてないほど強張っていた。


我が、グランベルク王国の隣の国、リステル王国に攻め込んだ。好漁場と広い平野のある、リステルの地を攻めた。


その言葉を皮切りに、エストの平穏は一瞬で崩れ去った。まず、僕たちの父親世代の男たちが「お国のため」という大義名分のもとに次々と徴兵され、戦場へと駆り出されていった。

そして、戦況が悪化の一途をたどる中、ついに僕たちの番がきた。

泥濘ぬかるみのなか、ろくな訓練も受けないまま、僕と、アルと、そしてもう一人の幼馴染の3人は、雨の日に戦地へと出兵させられた。


『大丈夫だ、二人の背中は俺が守る。……行くぞ』


若くして圧倒的な才能を持っていたアルが、僕たち3人だけの小さな分隊の分隊長になった。

けれど、王都の上層部が立てた作戦は、最初から破綻していた。僕たちの分隊は、敵のど真ん中の最前線に置き去りにされ、本隊からの補給が届くまでの「絶望的な持久戦」を強いられることになったんだ。


『リカルド! 伏せろ――っ!!』


激しい雨音と、耳をツンと突き刺す金属音。

直後、凄まじい衝撃波が泥を跳ね上げた。王都の無能な上層部が「まだ味方はいないはずだ」と言い張っていた座標に、容赦なく敵の砲弾が着弾した。

爆煙が晴れたとき、僕たちのすぐ横で、もう一人の幼馴染が血の海の中に倒れていた。

砲弾に直撃し、息を吸うことすらできないまま、あいつは僕たちの目の前で、あっけなく命を落とした。


『嘘だろ……おい、目を開けろよ! 嘘だって言えよ!!』


僕とアルは、泥まみれになりながら、大粒の涙を流してあいつの体に縋り付いた。

激しい怒りと深い悲しみが、僕たちの理性を消し去った。アルは叫びながら剣を抜き、僕は狂ったように作戦を組み立てた。二人で、泣きながら、襲いかかってくる敵兵を文字通り「殲滅」した。

でも、どれだけ敵を倒したって、あいつはもう動かない。


『なんでだよ……! なんでこんな、作戦とも言えない作戦のために、あいつが死ななきゃならないんだよ!』

王都の上層部のバカさ加減のせいで、前線の若者がただ使い捨てられた。

その後、戦争はあっけなく名ばかりの「停戦」を迎えた。王都に戻った僕たちに与えられたのは、あいつの命とは到底釣り合わない、安っぽい名ばかりの『勲章』だけだった。

すべてが嫌になった。


戦後、生きる目的を失いかけた僕たちは、それぞれの道を選んだ。


もう二度と誰も死なせないために、最強の戦士の道を歩み続けることを決めたアル。


そして僕は、こんな不条理な王国に頼らず、エストの人間が自立して生きていくための力をつけるために、商会の道を選んだんだ――。


「……おっと…レン君、起こしちゃったかな」

ふいにリカルドさんが声を詰まらせながら、僕の方を振り向いた。いつの間にか、彼の目からは一筋の涙が頬を伝って流れ落ちていた。


「ううん、大丈夫です。……リカルドさん」

「ごめんね、また格好悪いところを見せちゃった。……さぁ、明日も早い。今度こそ本当に寝ようか」

リカルドさんは、涙を手で拭い、無理に笑顔を作ると、今度は本当に目を閉じた。

悲しい過去を背負いながらも、前を向いて必死に生きようとしている彼の背中が、暗闇の中で少しだけ小さく見えた。


僕は自分の拳を強く握りしめる。


何も持たない僕だけど、この人の力になりたい。不器用な僕たちの旅の、本当の動機が、静かに僕の心に灯った夜だった。

最後まで読んでくださりありがとうございました!

別の作品や次の話も是非見てみてください!

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