記録22 認めぬ者共
一夜が明けた。
「…」
体に残っていた痛みは消え、その疲労も此度の休息により取り除かれた。傷は疾うに癒えており、ゼノフレアの体は漸く完全回復を終えた。
世界最大の国家、シルヴィリオン。その城下町たるエグゾル。その町は、例え夜が明けて然程経っていない今でもその活気を絶やすことはない。人々が行き交い、町に命を宿している。
「…さて」
フェラスロートとの協力を仰ぐ現場にいなかったゼノフレアは、その結果を知らない。ディア達と合流するのか最善だろうが、シルヴィリオンにおける大罪人として知られているゼノフレアが1人で城内に入るのは些か憚られる。無論、昨日の件がある以上入ること自体は問題では無いだろうが、無駄な問題や騒ぎは起こしたくはない。それに、ゼノフレアとて居心地も悪い。
「……」
音を立てずに窓を開け、そこから屋根へと登る。別に立ち入りを禁止されている訳でもなく大罪人として知れ渡っているとは言え今やその罪も拭われた現在、こうして人目を気にする必要も実際はないのだがそれでも周囲の目は気になってしょうがないのも事実だ。
…それに、何やら平和的ではない気配が先程から感じられる。仕掛けてくるのは構わないがカイリを巻き込む訳にも、宿屋に迷惑をかけるわけにも行かない。
(着いてきて…いるな)
屋根を伝い、城下町の門を上から飛び越え外へと出る。
気配から察するに、恐らくは英霊。それも2人だ。シルヴィリオンに仕える者だろう。真実を知らない者達からすればゼノフレアはシルヴィリオンにとって憎むべき存在であり、そんな彼が王家と手を組むのが面白くない連中もいるのだろう。もっとも、ゼノフレアはその協力に対する結果を知らないわけなのだが。
しかしこうして追って来ている以上、ディア達は上手くやってくれたのだろう。シルヴィリオンの関係者―況してや自身の娘ともなれば協力を断る理由もないだろうが、それでも国王という立場があるからにはそう易々と首を縦に振るうわけにもいかないのも理解できる。それらをわかっているからこそ、ゼノフレアはどういう結果であれ何も口を出すつもりはなかった。
「…そろそろ出てきたらどうだ」
城下町から少し離れた平原にて、ゼノフレアはその足を止めた。
「…」
そして現れる、2人の英霊。片方は男で、もう片方は女だ。身につけている鎧はシルヴィリオンのものであり、2人とも剣をその腰に帯びている。魔力量自体は大したことないものの、その殺気は確かなものだ。
(英霊の中ではまぁまぁといったところか)
「貴様の足ならそのまま逃げ切れたものを。何故わざわざ俺達の相手をする?」
「逃げるのは性に合わないんでね。それに、こちとら連れがいるんだ。勝手に離れる訳にも行かないんだよ」
「あら、このまま帰れるとでも思ってるの?」
「…どうやらシルヴィリオンにも穏やかじゃない連中は多いようだな」
「お前以外の者であれば構わない。だが、大罪人として知られているお前と王家が手を結ぶなど、あってはならない」
「国王に歯向かうとしてもか」
「っ、黙れ!貴様に何が分かる!!」
腰の剣を抜き放ち、真っ直ぐゼノフレア目掛けて突っ込んでくる。無論そんな単純な攻撃が当たるわけもなく、ゼノフレアは最小限の動きで男の斬撃を躱す。その後を狙うように女も又、間合いを詰める。しかし抜剣する暇さえ与えず、ゼノフレアの斬撃が閃く。
「っ!?」
だが、その手応えは妙なものであった。確かにゼノフレアの斬撃は、相手の隙を突いた的確なものだった筈だ。刃を向けてくる以上、容赦するつもりもなく死なない程度に剣を振るった。
しかし、手に伝わってきた感触は重い一撃を打ち込んだものではなかった。まるで何かに弾かれたような衝撃を感じ、そして肝心の英霊には大した傷も見えない。剣の命中した場所に僅かな掠り傷が見えるだけだ。
(今のは―)
違和感に若干意識を奪われつつも、背後から迫る男の連撃を躱す。いくら英霊とは言え、2人がかりともなれば油断は出来ない。能力も分からぬ以上、下手な行動は悪手だ。
(見て呉れといい、やはりこいつらは何かしら関係がある2人だな。兄妹か…?)
人工生命体である英霊や式神に、生物学的な家族などは当然存在しない。彼らにおける親とは自身を生み出した存在のことを指し、そして兄弟や姉妹などは、同じ"親"によって造られた英霊達を指す。
そういった関係のある英霊や式神は、大抵能力等がに通っている。傍から見れば大きく違うものでも、その本質は大抵が通ずるところにある。そして、造られた時期が近ければ近い程、それが顕著になる。
この2人は、明らかに見た目や戦闘方法が酷似している。性別の違いはあれど、その肉体や間合い等はそう違わない。そうともなれば、やはり兄妹という線が濃厚だろう。どちらが上なのかは知らないが、そうともなれば2人の能力は似たものだというのが分かる。
(似てるとはいえやはりその能力には差異がある。英霊を複数相手にするのが恐れられてる所以だ)
完全に能力が同じ英霊というのは原則として存在しない。"親"が違えば、いくら酷似した能力も根本は違っている。
炎に関する能力にしても炎を生成する能力と対象を炎上する能力とでは、効能や対策も変わってくる。属性が同じであっても、その作用や使い方は大きく変わってくるのだ。加えて、その能力の制限や代償も勿論違う。その点で、完全一致の能力を造るのはそもそも不可能に近い。英霊の能力は、造り出した者が様々な知恵や技術を以てして生み出されるものなのだ。
ならば、同じ"親"であれば同じ英霊を造る事は可能なのか───結論から言えば可能である。それが、'原則'と言われている理由だ。…しかし、同じ能力を持つ英霊を造る者はいない。
1体で十分だからだ。ゼノフレアや名憑き、シルヴィリオンの英霊の数等のせいで忘れられているかも知れないが本来、英霊とは単体で国家1つを揺るがす程の強さと影響力を持つ。加えて、人間より遥かに優れた生命力と寿命を持ち、即ち同世代に完全一致の能力を持つ英霊を造ったところで意味が無いのだ。それに、数を増やせばそれだけ対策もされやすくなる。況してや万が一その英霊の情報が漏れた場合、同じ力を持つ全ての英霊が一気に無能に成り下がる。いくら強力と言えど、英霊同士で言えばそれは平均的な強さ。小さな性能の差、それ以上に能力の強さや相性が勝敗を分かつ。
英霊や式神は情報の塊。故に敵にその情報を与えぬように対策をされているのが大抵ではあるが、それでも完璧とまではいかない。質より量とは言うが、英霊ともなればその限りでは無い。1体の質を高めつつ、多種多様な能力を持つ個体を生み出さなければならない。シルヴィリオンの強大さがより分かる事実だ。
「どうした、よく回るのは舌だけか」
正面から迫る2人。その斬撃は確かに素早いが、ゼノフレアからしてみれば大したことは無い。それに最近は名憑きやゲンブやら、やたらと強い者ばかりを相手にしている。感覚も以前よりか研ぎ澄まされており、その実力は過去のものに近しくなりつつある。どれだけ研鑽を怠ることがなかろうと、全力を出さなければ体は鈍る。
縦横無尽に舞う斬撃。最小限の動きでそれを捌き、再びゼノフレアの一撃が炸裂する。
「ちっ!」
重い一撃を受けた男は大きく退き、防いだ反動で更に動きが止まる。
(今のは、効いてるらしいな。一体、どういうカラクリだ?)
先程の女に対する攻撃は、まるで効いている素振りを見せなかった。確かに傷は負っていたものの、その傷はあの斬撃の威力には見合わない。間違いなく、彼らの能力が絡んでいる。
「考え事とは、随分余裕のようね」
「まぁ、余裕と言えば余裕だな」
「減らず口を…!」
少し煽ればすぐに乗ってくる。誘導しやすいことこの上ない。
感情任せの安直な攻撃。避けることは容易く、再びゼノフレアの斬撃がその身に襲い掛かる。…だが、
「無駄よ」
防ぐ素振りすら見せない英霊。だが、彼女の言う通りやはりその手応えは違和感があり、その一撃はとても効いている様子ではなかった。
「…」
手元に残る違和感から、相手の能力を考察する。だが当然戦いの最中で悠長に考えている暇はなく、吹き飛ばした男が再び迫り来る。
(魔法の腕前はまともだな。俺の動きについてくるか)
本来であれば、英霊とてゼノフレアの動きには着いて来れない。2人とも身体強化魔法を常に発動しており、故にゼノフレアの高速にも食らいついて来ている。
(魔力が切れるまで待てば自ずと終わるが、流石に時間が掛かりすぎるな)
ゼノフレアやディアの魔力量が多すぎるだけであって、英霊の持つ平均的な魔力量は並の人間とは比にならない。そんな輩を2人も相手にしつつ、双方の魔力切れを待つのは流石に無謀である。待っている間にも魔力は回復する上、身体強化魔法は戦いにおいて重要なピースである故に魔力効率は非常に良く作られている為、尚更待つのは無謀だ。長時間戦い続ければ、単騎であるこちらの戦況は徐々に悪くなる。それらの点から、その戦法は得策ではない。
疎らであった2人の攻撃が、徐々に連携を見せてくる。お互いの隙を庇うように剣を振るい、間合いの外であれば魔法で仕掛けてくる。近接戦闘を最も得意とするゼノフレアからすれば剣撃自体は大した脅威ではないものの、それでも対複数は不利というのが常識だ。況してや相手が英霊、しかも能力の分かっていない者ともなれば更にその状況は悪い。
"無限斬奈"
神速の5連撃―その圧倒的攻撃性により連携を妨害するものの、それも一瞬の時間稼ぎに過ぎない。関係値が近いからこそ、その連携は並のものよりよく出来ている。そして遂に、音の一撃がゼノフレアに命中した。
「…っ!?」
いくら隙を突いた攻撃だろうと、彼の反射神経ならすれば防ぐことは容易い。実際、確実に防いだ筈である。
だが、その一撃はとても防いだとは思えぬ程の重さと威力だった。防いだ腕に伝う衝撃は非常に大きく、威力の分からぬ一撃を防ぐという保険でかけていた魔力の保護も意味を成していない。だが、あの程度の攻撃でここまでの威力を出しているのは明らかにおかしい。間違いなく、奴の能力が関係している。
「どうした、防げない攻撃は初めてか?」
伝う衝撃は確かに強く、一瞬だがゼノフレアの動きを止めた。そこへ2人の追撃が迫る。
「防げないとは、随分な評価だな」
すぐさま体勢を整え、迫り来る斬撃を紙一重で躱す。防げないというのが誇張表現であるのは百も承知だが、能力の詳細が分からぬ以上確かに防いだり相殺したりするのは得策とは言えない。体力の消耗も考え、最小限の動きで2人の英霊の猛攻を捌く。
頬を掠める切っ先。その先端を超人な反射神経で掴み取り、そのまま馬鹿力で重心を奪い取る。
「なっ…」
予想外の出来事に動きを止めた女の脇腹に回し蹴りを叩き込む。当然、ゼノフレアの放つそれはとても体術とは思えない破壊力を誇る。
(…まぁ、効かないだろうな)
ゼノフレアの予想通り、彼女は蹌踉めく素振りすら見せずゼノフレアの腕を払う。先程よりも力を込めた故に多少はダメージを負ったようだが、それでも動きを止めることなく襲い掛かってくる。
腕を振り払った彼女に合わせ、男も又、仕掛けてくる。背後から感じる魔力の蠢き。魔法発動の予兆だ。
"地縛 "
大地に陣が描かれ、そこから無数の魔力の鎖が現れる。当然、喰らえば動きを捕えられる。だが、
「遅いな」
魔法の発動までに時間を掛けすぎている。発動した時には既にゼノフレアは男の背後へ回り込んでおり、発動後の硬直により無防備な背面へ強烈な一撃を見舞う。無論、死にはしない程度に手加減している。男の方には攻撃は通用している故、加減は必要だろう。
「ぐっ…」
宙を舞う男。だが僅かな抵抗か、空中にて先程発動した鎖を使役しゼノフレアを捕らえんとする。
合わせて迫る、もう1人の英霊。ゼノフレアへと伸びる鎖の間を掻い潜り、その懐へ入り込もうとする。しかし、その程度ではまだ届かない。
"無限斬奈"
今一度炸裂する、神速の5連撃。迫り来る魔力の鎖を破壊しつつ、振りかざされた彼女の斬撃を往なす。
「っ、この……」
振り下ろされた斬撃を剣で受け止め、そのまま鍔迫り合いの形になる。
一見すれば互角のように見えるその様も、両手でしっかりと剣を握り尚且つ身体強化魔法を使っている彼女に対し、ゼノフレアは魔力による肉体の保護はしていても強化及び強化魔法は使っておらず、加えて片手でその一撃を受け止めている。力の差が、ここにしっかりと現れている。
力だけでそのまま女を後方へ吹き飛ばし、その背後から迫る男の突きを躱す。眼前を通り過ぎるその一撃を対応し、空中にて無防備な姿を晒している男に峰打ちがヒットする。
「っ、貴様…!!」
男の方は受けたダメージをそのまま負う。手加減してやらねば最悪殺しかねない。
ゼノフレアの一撃を受け、地面に転がり倒れる男。あまりの衝撃に動きが止まる。それでも立ち上がろうと地面に剣を突き刺すも、これ程の隙を見逃すゼノフレアではない。
「寝てろ」
一瞬にして間合いを詰め背後に回り込んだゼノフレアの手刀が、既に意識が朦朧としていた男の首元へ命中する。あのギルノドゥアですら意識を失った代物だ。当然、彼らが耐えられるような威力ではない。
万が一に意識を取り戻されては再び多対一になりかねない。その可能性を考え、その身をすぐさま魔法にて拘束する。
「っ!兄さん!!」
それを阻止しまいと突っ込もうとする、残された英霊。だが先程までの経験から感情任せは通用しないと分かったのか、その思いを踏み止まり様子を探っている。
「成程、お前が後か。道理でお前の剣術が単純なわけだ。まだまだ新米か?」
「黙れ!これ以上私達を愚弄するな!!」
それでも、少し挑発すればすぐさま流される。これも、まだ経験が足りない証拠だ。
戦場において、感情任せに動くのは禁忌である。それが敵の挑発によるものであれば尚更だ。敵はそれを狙っているのだから、感情任せに動けば相手の思うつぼである。
(詳細は分からんが、相手していても相当厄介な能力。加えて魔法の効能自体は上出来だ。場数と感情のコントロールを覚えればかなりの戦力になるだろうな)
ここまでの間常に身体強化魔法を発動しておきながら、それによる疲労や集中力の欠落は見られない。加えて、その効果はゼノフレアの動きに着いてくる程だ。英霊としての性能はかなりのものであるのは確かだろう。問題は、彼女のその精神性と経験の少なさだ。
元は人間であったといえど今や無数の場数を踏んでいるゼノフレアからしてみれば、目の前にいる英霊は赤子も当然である。感情を抑えきれていない時点で三流。能力のその防御性により助かっているものの、それが無ければとっくに決着は着いているだろう。
(さて…)
とは言え、怒りなどといった感情は時に力ともなる。己達の故郷であるシルヴィリオンにおける最大の宿敵、そして今も己達を愚弄した者を相手に英霊の動きは先程よりも速度を増している。
(能力の仕組みさえ分かればまだ何とかなるが、如何せん攻め手じゃない力ともなると予想が付かない。かと言ってあまり悠長にしてては奴が起きかねない。どうするかな…)
攻撃に関する能力は、比較的その力を予想しやすい。正確には違えどその能力の効果は分かるし、そうともなれば対策も出来なくはない。ギルノドゥアの"凍結"の様に、対象そのものに作用する能力だとしても、何かを凍りつかせる力とさえ分かれば食らうのは悪手だと判断も出来る。
だが、今回の様な英霊本人に作用する能力の場合、その予想は非常に大雑把なものになる。彼女の能力だけを見ても、攻撃を無効化する能力なのか威力を弱める力なのか、将又己の肉体を強化する類なのか、可能性が多すぎる。
多少なりとも傷を負っていることから完全に無効化するものではないようだが、それでもあれ程の軽減をされる相手を前に真っ向勝負は流石に無謀である。
「私は、お前を絶対に認めない!!」
涙が滲む程に怒りに歪めた顔で、彼女はその剣を振るう。単純で分かりやすい軌道。避けるのはなんて事ない。
…だが、
「いつまで我儘を言うつもりだ?」
刀身を掌で受け止め、そのまま握る。その怪力に英霊は動きを封じられる。その手を振り払おうと腕に力を込めるもビクともしない。
だがそれ以上に発せられたその言葉の圧に、彼女は思わず動きを止めてしまった。
「そもそも、真実を知らないお前らに何か言われる筋合いはないんだよ。それに、今やイノベーターの行動はかつてない程に活発になってきている。そんな状況で、お前らの感情だけで俺を阻むな。あまり己を評価するのは好きじゃないが、敢えて言おうか。俺はお前らよりよっぽど上だ」
刀身を握る手に力が入り、刃が食い込む。血が流れるも、その剣にはヒビが入っていた。
「弱者は、黙っていろ」
フェラスロートと対峙したあの時の様な、恐怖と怒りがゼノフレアの言葉の端々から伝わる。その温度差に、その恐怖に、彼女は何も言うことは出来なかった。
「何をしておる」
その時、彼らの守るべき存在である―ディアがその場に現れた。いや、正確には先程から近付いているのを、ゼノフレアは感知していた。
「正当防衛?」
「お主にではない。シア、お主に言っておる」
ディアの到着を確認したゼノフレアは、シアと呼ばれた英霊の剣から手を離し、そのまま退く。剣を納め、入れ替わりにディアが彼女の前に立つ。
「昨日、シルヴィリオンの者には伝えた筈じゃが。我々はゼノフレアと手を取る、と」
「…分かっています。ですが―」
「アダクに唆さたか?あやつは過激派じゃからな」
「……いえ、これは自分の意思です。私達は国王の意思に背きました。どのような処分でも―」
「罰するつもりはない。じゃが、今後はこういった事は許さぬぞ」
「……御意」
そうして、シアはアダクと呼ばれた兄に当たる英霊を担ぎ、その場を去ろうとしていた。しかし、その去り際。彼女はディアに問いかけた。
「お嬢様は、宜しいのですか。かつて我々に弓を引いた者を受け入れるなど…」
「……構わぬ。それに、我らはそれ程のことをしでかしたのじゃ」
「はい…?」
「気にするな、帰れ」
「随分と遅かったな」
「仕方あるまい。この街は広いのでな。お主がどこにいるか探るだけでも一苦労じゃ」
「他の2人は」
「それぞれ単独行動中じゃ。今は特段何かある訳でもないのでな」
「そうか。カイリとは会ったか」
「いや」
「そうか、ならいい。朝、そのまま宿に置いてきたからな」
「お主がいなくて焦っておるのではないか?」
「大丈夫だろ。今更どこか行く気もないし、それはあいつも分かってる筈だ」
「そうか」
幾ばくかのやり取りの後、沈黙が流れる。かつてシルヴィリオンに仇をなした者と、その王女。その関係性が、この場の居心地の悪さを生み出している。
「…すまない」
そしてその沈黙の後、ディアは突然謝罪をした。
「アイツらのことか?なら気にするな。ディアに責任はないし、そもそもこうなることはある程度予想していた」
「そうではない。我らシルヴィリオンの"罪"の話じゃ」
「……聞いたのか」
「ああ。父上が話してくれた」
「…今更の話だ。それにその件も、ディアには責任はない」
「いや、妾もシルヴィリオンの者―フェラスロートの娘である以上、無関係ではない」
「だからって、どうしようもないだろ」
「それはそうじゃが、気持ちの問題じゃ」
「そういうもんかね」
「妾とて、耳を塞ぎたくなった。あのような惨劇が、我らによって起こされたなど…」
「………」
それは、かつてシルヴィリオンの犯した、最大の過ち。そして歴史から抹消された──────語られぬ出来事




