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With the Wind!  作者: 肉丸 もりお
葬炎の担い手
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急き立てるもの

 クレアから隠れるように言われ、鴎はその通りにしていた。廊下に置かれてあった長椅子は広間から見えない角度になっていて、その裏に座り込み、戦いの模様を見ていた。

 手に汗握りながらそうしていると、自分はいったい何をしに、何ができると思ってここに来たのかよく分からなくなった。


 その内炎が吹き荒れ、その中から和助が吹き飛ばされたように飛び出てきたと思ったら、ずっと背負っていたバッグをレスラーのパフォーマンスじみた方法で破り、銃を取り出した。


 和助の叫び声はただ叫んでいるとしか理解できなかったが、あれがもしかして和助の“遺産”なのだろうか。

 ”遺産”というその名前の印象と、実際に目にしたことのある結の薙刀から、勝手に古風なものばかりだと思っていたが、銃のフォルムは鴎が映画や漫画で見てきたものと変わらない、近代的なものだった。

 ひょっとして本物の銃かもしれないが、その場合“可能種”と戦う役に立つのかどうか。彼らなら弾丸を避けるくらい簡単にやってのける気がする。


 そんな鴎の思考を銃撃の轟音は一度に吹き飛ばした。それまで攻撃を仕掛ける側だったクレアが少しずつ手繰り寄せようとしていた優勢を、和助は荒々しく引き寄せた。

 

 あっという間に戦局は一変し、クレアは逃げるしかなくなったようだった。駆け込んでいった廊下に銃を向けたものの、和助はそうしただけで引き金を引かず立っていた。


 何のつもりか鴎が(いぶか)しんでいると、いつの間にか和助の姿が消えた。慌てて目を凝らすと、何か細いものが上から二本ぶら下がっているのが見えた。


 鴎が困惑していると、その二本の何かは上の方へ吸い込まれ、次の瞬間には上階から銃撃音が聞こえてきた。


 思わず身を縮こまらせた鴎の耳に、誰かの話す声が聞こえてきた。音の高さからして和助だろう。そしてその場合、クレアは黙って話しているのを聞いていることになるが、どういうつもりなのだろうか。


 ここでこうしているだけでは、戦いの行方が分からない。そう考えた直後、先ほどよりも長い発砲音が耳を打った。和助が攻撃している。では、クレアは。


 鴎は反射的に震えた体を奮い立たせ、二階へと続く階段を慎重に登った。

 二階の壁は道路に面した側がガラス張りになっていて、一階よりは明るい。しかし階段の先の通路からは手すりが邪魔になって、和助が立っているのしか見えなかった。


 天井からポロポロと剥がれ落ちている破片からして、連射を受け止めることになったのはクレアではなかったようだが、ではどうしてその姿がどこにもないのか。


 嫌な想像を振り払い、意を決すると、鴎は円形の手すりから十分に距離を取り、少しずつ和助の方へ回り込んでいった。


 そして鴎を待っていたのは、気を失いかねない惨状だった。クレアは床に寝転ぶように倒れていて、その体は腹の辺りでひどく不安定なつながり方をしていた。床は流れ出る血がそこだけ赤いカーペットでも敷いたようで、転がっている肉片も相まって悪趣味な金持ちの私室(ししつ)を思わせた。


 絶句していると、和助がクレアの右腕を踏みつけた。痛めつけるようにじわじわと、成人男性の体重がかけられ、クレアから耳をふさぎたくなるような声が漏れた。


 そのとき鴎を動かしたのは、ほとんど義務感に近いものだった。網膜に焼き付いていた光景が浮かび上がる。血まみれの少女が目の前にいるのだ。また何もしないことは絶対に許されなかった。


 傍にあったゴミ箱を掴むと、和助に向かって投げつける。プラスチック製のゴミ箱は緩やかに回転しながら和助の頭に直撃し、中身をまき散らしながら地面に落ちた。


 ガコンと激しい音がした後、こちらを向いた目の冷たさに、腹の底で堪えていた恐ろしさが噴き出そうになるが、目を逸らさないことで耐えた。

 似たような経験の記憶と、そのときの後悔に突き動かされただけで、何か考えがあるわけではなかった。


「足をどけろ」


 声が震えなかったことに感謝しつつ、周囲の遮蔽物(しゃへいぶつ)を今更ながらに確認する。


 自分に銃口が向けられるまでのごく短い間にそこへ隠れる。それでクレアが回復する時間が稼げるとも思えなかったが、そもそも“遺産”の銃なのだ。柱ごと自分の体が貫かれたっておかしくはない。一般人の自分が立ち向かうこと自体馬鹿げているのだから、それで勘弁してほしかった。


 何とかして和助の標的にならなければ。口喧嘩で上手く喋れた試しなどないが、そんなことも言っていられない。


「足をどけて僕を撃ってみろ!腰抜け!」


 和助の顔を(にら)みつつ、銃の動きに細心の注意を払う。こいつならいきなり撃ってきてもおかしくない。


 呼吸の間隔に反比例して伸びていく一秒の中、鴎は和助が鼻を鳴らすのを見た。鴎の浅はかな考えなどすべて見透かした目をして、和助はライフルをクレアに向けた。


 無造作な動きに、鴎の体は動けもしなかった。まずい、という一語だけが頭を駆け抜ける。


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