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With the Wind!  作者: 肉丸 もりお
葬炎の担い手
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気持ち


 立ち疲れた鴎が路地裏で座りこんでいると、突然背中に触れられ、驚きながら振り返る。闇夜の中でも輝く黄金の髪の少女がこちらを見ていた。


「クレア…」

「何してんの?」


 かなりきつめの視線に、鴎は少したじろぎながら答える。


「夜って何時か分かんなかったから、出てくるまで待ってようと思って」

「そんなこと聞いてると思う?何で来てるか聞いてるんだけど」


 険しさは変わらず、もはや軽蔑していそうなほどに冷ややかだ。


「え、その…」

「死ぬ思いしたばっかりなのに、なんでまたこんな危ない真似してんの?」

「危ないのはクレアだって同じ…」

「同じじゃない」


 ぴしゃりと言い切ると、クレアは目を細めた。


「あんた、私が負けると思ってるでしょ。ムカつくー…!」

「い、いや、そんな」

「それに、その辛気臭い顔からして、勝手に話して、断られたんでしょ」


 いきなり言い当てられ、鴎は黙るしかなくなった。結たちの助力は得られず、一度帰って悶々(もんもん)としていたが、夕焼けが訪れたことに気づいたとき、体が動いていた。

《》

「許さないって言ったのに」

「…ごめん」

 クレアは黙って鴎を睨んでいたが、クルリと背中を向けた。

「あんたには何にもできないんだから、帰ってなさい」 


 その通りだ。昼間腕を捻られて涙を流していた身では、その事実に抗弁できない。

 しかし、それは鴎が繰り返し考えていたことで、答えも既に出ていた。


「何にも出来ないからって、何にもしない訳にはいかないよ…」

「…」

「それに、クレアが勝ってくれないと、僕も安心できない」

「…ふん」


 苦し紛れに用意した建前に、クレアは鼻を鳴らすと歩き出した。


「どうなっても私は知らない。勝手にすれば」


 出会ったときと同じように、鴎も黙ってその後を追う。歩幅はあのときと違っていて、二人は終始歩く速度から変わらなかった。


「あの、クレア」

「何」


 不機嫌そうなのは変わらなかったが、答えてはくれる。


「あいつが言ってたビルの場所は、分かってるの?」

「あの後下見に行ってる」

「じゃあ、罠とかは?」

「見た感じはなかったけど、本当にそうかは分からない。そもそもこっちだけ“命題”を知られてる時点で不利なんだから、何があっても今更変わらないから気にしてない」


 絶句する鴎を待つことなく、クレアは歩みを続ける。


 繁華街(はんかがい)の方から、この時間も消えない光が届き、その後ろ姿を薄ぼんやりと照らす。

 それは半ば捨鉢(すてばち)になっていたときの結をそっくりそのまま写したようで、鴎は今更ながらにクレアの孤独さを思い知らされたようだった。


「クレア、やっぱり今からでも、もう一回、今度は二人で結たちに話してみようよ」


 怒りを向けられると分かっていても、言わずにはいられなかった。しかし、クレアは反応を態度に示さず、押し黙っている。


「無茶だよ、こんなの」

「あんたまで私を疑うの!?」


 突然の叫び声にビクつく鴎を、クレアは何か堪えるような瞳で睨みつけた。


「私は一人で勝てるって言ってるのに、あんたは私よりあの子を信じてるんだ!」

「そんな、クレア」

「大体、あんたが頼んでも来なかったんだから、あの子は私なんてどうでもいいんでしょ!」


 そこで、クレアは無理に嘲笑うような顔をした。


「私と話したいって言ってたのも嘘なんじゃないの?あんたに嫌われたくなくて、その場で合わせてただけで。今日言われても来なかったんだから、来たくないっていうのが、あの子の本当の気持ちじゃない!」

「結は、そんなことしないよ」

「だから、じゃあ何で来ないの?」


 答えられず、鴎は口を(つぐ)むしかなかった。鴎から振ったとはいえ、あのとき結が嘘をついていたとは思えない。意識したこともなかったが、六城家では庵の意見がひどく重い意味を持っているのかもしれない。唯一の成人だということを思えば、それも不思議ではないが。


 黙り込んだ鴎に一瞥(いちべつ)をくれると、クレアは足取りを速めた。


 今度こそ沈黙したまま、二人は歩く。着かず離れずの距離が、そのまま二人の気持ちを表しているようだった。大事(だいじ)の前にこれ以上動揺させたくない鴎も、人に思うところを吐き出すのは初めてなクレアも、その隔たりの縮め方が分からない。


 やがて前を歩いていたクレアの、そして鴎の足が止まり、二人は目の前のビルを見上げた。


 長浜ビルは駅の周りに数多くあるビルの一つで、他とそう変わったところもない。四階建てで、同じ構造の廊下と小部屋の集まりが二つ、それらに挟まれるように、上から下まで突き抜ける吹き抜けがある。


 明かりは点いていないが、暗闇になれた目には、一階の奥で誰かが立っているのが見えた。ごくりとつばを飲み込む音が静かな中に響いた。


 立ち止まっていたクレアは、その音に押されるように歩を進める。鴎も、僅かな躊躇いをその足で踏み越える。


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