夜
照明の消してある室内で、クレアはベッドに腰掛けじっとしていた。
見ているものは今目の前にある光景ではなく、そこだけ落ちくぼんだような暗闇が瞳にあった。生まれてから、歳を重ねるにつれて光を失っていったその青い瞳が、一度、その輝きを取り戻していた時期のことを思い返す。結局それはごく短く、不安定なもので、クレアはすぐにまた底の見えない闇の中に放り出されたが。
あまり楽しいとは言えない人生だった。父親には捨てられていたわけだし、母親はおかしくなっている時期の方が長かったし、懐きかけた人には手酷くぶたれたし。
自分でもわかるくらい、クレアはいつも存在が危うかった。生きている理由が“楔”であり、“可能種”をこの世に文字通り繋ぎ止めるわけだが、クレアにとってそれはいつだって探していたもので、与えられたり、見つけられることは無かった。
一人がいいとか、そういう時間も必要だと言う人の気持ちは分からなくもないが、やっぱりずっと一人でいるのはつらいことで、嫌だった。
ただ、この頃は、いいこともあったな、とも思う。
自分に関わることに躊躇いを見せなかった少年。
それに、彼からの又聞きでしかないけれど、あんな出会い方をした自分と、まだ話したいと思ってくれているらしい少女。
彼らのことを考えると、クレアは少しだけ胸に温い熱がやってくるのを感じる。そして同時に、少しも素直になれない自分への、きりきりとした嫌悪感が生まれる。
もう少しだけ、張り巡らした針を収めて、彼女と話していれば、ただ一言歩み寄っていれば。考えても仕方のない後悔ばかりがある。
とっくに日は落ちていて、外は誰がどう見ても夜の領域だった。クレアは短く息を吐き、物思いにケリをつけた。
非常階段を使って、裏口から外に出る。湿気を伴う熱が肌に張り付き、少し不快だった。
夜に入ってすぐに出かけなかったのは、あの和助という男なら、太陽が昇るまではきっと待ち続けているだろうという予感と、それならいっそ待たせてやろうという気持ちが理由だった。
指定されたビルへ向かうために、ホテルの表へ回ると、誰かが隠れている気配がした。
まさか。
ありえない、と断じた直後、その人物以外の候補が浮かばないことにため息をつきたくなる。
足音を立てないよう静かに、気配のする路地の方へ行くと、誰かがしゃがみ込んでいるのが見えた。呆れてものも言えない。
その背中を小突く。びくりと跳ね上がった勢いで、影が振り向いた。出会ったときと同じ、何だか間の抜けた顔がそこにはあった。
「クレア…」




