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With the Wind!  作者: 肉丸 もりお
葬炎の担い手
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ホテル


 店を出ると、また触れる端から体が溶け出しそうな熱気に包まれた。


「じゃあ、もうあんたの用事は終わり?」

「いや、まだ話したい、結のこと」


 口にした瞬間に、こちらを覗き込む青色の瞳に底知れない陰がよぎる。鴎は、とにかく思うところを伝え切ろうと、額に汗をかきながら口を開く。


「聞いてほしいんだ、クレア。あのとき結のこと嫌な奴だって思ったかもしれないけど、あれは結がわざとそうしてたんだよ。クレアに恨まれてても仕方ないからって、不満があるなら引き出して聞こうとしてたんだ。そんなこと抜きだったら、もっとちゃんと話ができてたはずなんだ」


 冷めた目で鴎を見ていたクレアだったが、その頬に汗が浮かんでくる。鴎も、喋っていると背中に汗が伝ってくるのを感じた。


 クレアはしばらくそうして鴎の話を聞いていると、突如耐えきれないという風に組んでいた腕を解いた。


「ホテル!私の泊まってたホテル!」


 それだけ口にして早歩きで動き出した。意図は伝わったので、鴎も同じように歩く。


 人通りの中を縫うようにスラスラと動く背中を必死に追いかけながら、鴎は望み薄なのだろうかと思った。結のことについて話そうとした途端、がらりと人格が変わったようだった。

やはり自分などが軽々しく踏み込んでいいことではないのだろうか。ロビーに着くまでその問いの答えは出なかった。


「はあ」


 ひんやりとした風を浴び、気の抜ける声でソファーに座り込むと、クレアは厳しい目をした。


「それが来た本当の理由?」


 返答次第でそのまま部屋に帰ると告げる瞳を、鴎は真っすぐに見つめ返す。


「二回も裏切るつもりはないよ」


 その言葉を信じたのかは分からないが、クレアは立ち上がることはせず、相変わらず詰問の視線を鴎に注いでいる。


「会って謝りたかったのが、今日来た理由。結のことは、もし許してくれて、話を聞いてくれたら話すつもりだった」


 腹の底をさらけ出す気分で向かい合う数秒が過ぎると、クレアは視線を窓に移した。


 そうして座ったままでいるので、喋ってもいいのだと判断し、鴎はより慎重に言葉を選ぶ。


「さっきも言ったけど、結はクレアが嫌いであんな態度をとってたんじゃないんだ。本当は、クレアと話してみたいって言ってたよ。知らなかったお父さんのことで驚いてたけど、それだってちゃんと話してみたいって」

「嘘」

「嘘じゃないよ!」


身を乗り出しそうな勢いで、鴎はクレアに言葉を尽くす。


「僕は、結ともクレアともそんなに長い付き合いじゃないけど、二人がいい人なのは知ってるし、結があんなことで嘘をつかないのも知ってる」

「…嘘」

「嘘じゃない」


 かぶりを振ったのは、無意識にこちらを向いてほしいと思ったからかもしれない。まだそっぽを向いたままのクレアに、あのときの結から感じた気持ちを何とか伝えたい。


「クレアは、どうして結に会おうとしたの?二人のお父さんのことを話すため?」

「そう」

「それこそ嘘だよ」


 声には拭えない硬さがあった。顔を合わせていなくてもこれほど表に出してしまうのだから、クレアは正直だ。


「結のことを知って会おうとしたんなら、結の事情も知ってたんじゃないの?結もクレアと同じ…」

「鴎」


 先ほどと質の異なる硬さに遮られる。突然冷や水に浸かった気分で、言葉が途切れた。


「喋りすぎ」


  自分が触れていい領域ではなかったのだと察知し、続きをぐっと口中に押し留める。


 言われるがまま黙り込んだ鴎へ、クレアはしばらくピリピリとした雰囲気を醸し出していたが、ようやく上げられた顔にはさほど不満そうな色は無かった。


「そこから先は私とあの子の問題でしょ。あんたが私たちを気に掛けてくれてるのは分かったけど、あんたは当事者じゃない」

「…うん」


 ただ、青い瞳にだけは立ち入りを拒絶する暗さがあった。


「今日はもう帰って」

「…分かった」


 表情を確かめるために上目遣いをしてしまいそうなのが情けない。

クレアはソファーから立ち上がる鴎をドアまで送った。


「熱いんだから、気を付けてよ」


 鴎は頷くと、ドアに近づき、しかし手前で止まった。


「うわ、あつ…」


 自動ドアが開き、もわっとした熱波が室内になだれ込む。もういつもの調子に戻っているクレアの方を向き、鴎は口を開いた。


「クレアはいつまでここにいるの?」

「別に決めてない。決まったら教えてあげる」

「じゃあ、また話しに来ていい?」


 その鴎の言葉を聞いたとき、クレアは、陰に隠れてしまったものを少し覗かせた。しかしそれも一瞬のことで、また爽やかですらある碧眼で構え直した。


「好きにすれば」

 いつでも来いと言われた気がして、鴎はもう一度頷くと手を振ってホテルを出た。


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