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With the Wind!  作者: 肉丸 もりお
葬炎の担い手
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仲直り

 そのままだらけた格好でいると、人込みの中の誰かの姿に頭が反応した。


 センスの欠片もないTシャツに短パン姿がよく見えた。


「何してんだろ」


 座りなおしながら呟く。


 そういえば、彼には随分ひどいことを言った。裏切者だったか。


 目的を伝えていなかったからそうするのも仕方がないという思いと、それでも自分の入れ込み具合を知っていたのだから、教えてほしかったという思いが半々だ。


 その理由だって言っていなかったと冷静な部分に告げられて、クレアはまた息をつくと、少年に目を向け直した。


 自分の手伝いをしてくれて、自分と彼女のどちらとも知り合いで、それを黙っていた彼。偶々見たときに居たわけではないだろう。ひょっとすると朝からずっといたのかもしれない。


「なんで?」


 やはり変なやつだ。日陰になっていない場所にじっと立っている。放っておけばいいのに、わざわざ暑い中来ている。


 額の汗を拭う腕の動きに、これ以上座っていると、自分が嫌いになりそうだと思った。腰を上げたクレアは、着替えを始めた。


 もうずっとろくに胃が満たされていないので、まず腹ごしらえをしなければ。


 そこで、彼の顔を見たときに、彼女の表情が綻んでいた気がしたのを思い出す。クレアは何となく着替える速度を緩めた。


 そろそろ蝉が鳴き出すのではないか。そう遠くない夏の到来を予感させる暑さの土曜日。鴎はクレアの泊っているはずのホテルの前で立っていた。色々考えたが、他に方法が思いつかなったので、朝に着いてから立っている。


 夕方になってもクレアが見つからなければ、ホテルの受け付けに聞きに行ってみるつもりだ。恐らく教えてはくれないだろうが、このまま何もしないでいるのよりはましだった。


「おい兄ちゃん!バツ持ってるか!」

「いえ、ごめんなさい」


 焦点の合っていない目をした中年の女性に話しかけられたが、鴎が穏やかに返事をすると何か呟きながら離れていった。


 朝からこうしていると、日頃目に掛けないような人種の人々を多く目にした。話しかけられるのも三度目だ。


 そういえば剛史が、末端価格は一番低い値段だと思っていたら、逆に一番高い価格なんだと知って驚いたと言っていた。取引を何度も経た上での価格であることから、高額になるらしい。鴎も語感から似たような印象を持っていたので、意外に思ってよく覚えている。


「ねえ」

「ごめんなさい、アイスも何も売ってないんですよ」


 声の方に振り向くと、クレアがこっちを見ていた。


「クレア!?」

「何言ってんの?アイス?」

「あ、えっと…」


 立っていると色んな人に声を掛けられるのだと説明しながら、様子をうかがう。意味不明な反応をした鴎を怪しむ表情だが、怒っているようには見えない。


「それで、また間違われたのかと思って」

「ふーん」


 それきり黙ってしまったクレアに、鴎はおずおずと話しかける。


「クレア」

「ん」

「この間のこと、ごめんなさい」


 水色の瞳からは、なにも読み取れない。そのことがひどく恐ろしくて、鴎はシャツの端を握りしめたくなった。


「クレアがどうして人を探してるのか分からなかったから、黙ってることにしてた。でも、一緒に居たら、すぐに信用していいって思った。それなのに、いまさら言いにくいとも思っちゃって黙ってた。僕が間違ってたよ、もっと早くに二人に相談するべきだった」


 頭を下げる。


「ごめんなさい」

「ん、許す」


 クレアはその一言で済ませると、辺りを見回している。


「お腹すいてるからご飯付き合ってよ」


 そしてもう一度鴎に視線を向け直すと


「え、どうしたの?」

「い、いや、だって」


 思わず呆然としていた鴎は、狼狽えながら答える。


「いいの?ほんとに」

「何?許してほしくないの?」

「そんなことないよっ、けど」


 首をブンブン振り、また何か言いよどむ。


「ほんとにお腹すいてるから、話それからじゃダメ?」

「クレアがそれでいいなら…」


 すると、クレアはまたすたすたと歩きだした。もう何度も体験したタイミング、流石に予想できたので、鴎もすぐに後を追いかける。


 今回は、少し人通りが減った辺りにあったイタリアンの店を選んだ。クレアは席に着くなり、メニューを手に取ると眺め始めた。


 三人前はある量を注文すると、息をつきながら目を閉じる。


「意識してきたらお腹ペコペコ。音が鳴っても聞こえない振りしてね」

「そんなに食べてないの?」

「まあね、一週間くらい」

「一週間!?」


 オウム返しをする鴎の驚きを面白がって笑った後、クレアは目を開いた。


「で、なんであんなとこに突っ立ってたの?」

「それは、クレアに謝るために」

「…それだけ?」


 頷く鴎に呆れ顔をしながら、クレアはきらきらとした髪と一緒に首を振る。


「鴎、あんたはやっぱり変、絶対変」

「あのままお別れだけは嫌だったから」


 鴎が思ったことを口にすると、クレアは僅かに目を細め、「ふうん」と漏らすと黙り込んだ。


 罵られることを覚悟していたのが、クレアは本当に怒っていないようだった。これまでと変わらない口調で話してくれることに内心ホッと息をつきつつ、鴎はついでに結のことに触れていいのだろうか、と考えた。


 運ばれてきた料理を、がつがつと勢い込んではいないが、しかし凄まじい速さで食べ終えると、クレアはまだ食べている最中の鴎に話しかけた。


「私は許したんだから、私があんたに言ったことも許してね」

「ふぇ?」


 ピザを急いで飲み込もうとする鴎から、クレアは目を逸らすと


「口走ったと思うけど、咄嗟に悪口が出てきただけだから」


 どのことか思い当たり、謝られると思っていなかった鴎は


「いや、黙ってた僕も僕だから」

「だよね!だからこの件は終わり!はい!はやく食べて!」


 そう早口にまくしたて、クレアはまた横を向いてしまった。


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