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With the Wind!  作者: 肉丸 もりお
葬炎の担い手
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草むしり

「あとはこっちの草取りだけだ」

「うん」


 水曜日の早朝、学校に訪れた鴎は花壇の水やりと草引きをしていた。所属する環境委員会で割り当てられた仕事で、生徒間の交流を促すとかいった理由で、他のクラスの一年生とペアを組んでいた。


 二組の鴎は、五組の生徒の小佐野達也(おさのたつや)とはほとんど顔を合わせる機会がなかった。そもそも教室とそれに伴う行動範囲が物理的に離れている上に、体育の合同授業のような接点もない。

 

 初めの内こそ気まずくて仕方がなかったが、綺麗好きだという二人の共通点が大きくプラスに働くこの仕事を繰り返すと、かなり砕けた仲になった。


 今も、達也が示した範囲は鴎たちの担当する個所ではなかったが、二人とも自分たちがすることになんの不満も持っていなかった。


 鴎が雑草を引っこ抜き、土を払いながら考えるのはクレアのことだった。


 ショッピングモールでの一悶着の後、連絡手段が思いつかず初めにチェックインしていたホテルに足を運んでみたが、いくらロビーで待っていても目の覚めるような金色がその姿を現すことは無かった。


 それからも平日の夜は鉄塔に向かったが、ここでも鴎を待っていたのは、暗闇にぽつねんと佇む大きな建築物と、蝉だか鈴虫だかわからない生き物の大合唱だけだった。


 結局クレアとはあれから一度も会えていない。鴎の背信行為に怒って、もう会うつもりはなくなったのか、それとも本国に帰ってしまったのか。どちらにしても確かめる手段はない。


 だからといって、しょうがない、諦めよう、とも思えなかった。土まみれのこの草のように、気持ちがすっきりしない。自分のせいで傷つけてしまったのだから、事情を話して謝りたい。一体どうすればもう一度会えるだろうか。


 そうして前かがみになっていると頭に血が上ってきた。一度立ち上がって伸びをすると、目の前が暗くなりふらつく。


「大丈夫か?」

「あー、うん」

「考えごとのしすぎだ」


 驚きながら達也の方を見る。


「なんでわかるの?」

「まず、今自分で認めた。それにお前が草むしりの間黙ってるのは珍しい。最近は女子と仲良くなったって舞い上がってたのに、突然落ち込んでる」


 鴎は近頃、自分は余りに内面がそのまま外に出すぎではないかと思っている。結にも気づかれていたのだろうかと考えると、少し赤くなった。


「…達也って、女の子を怒らせちゃったことある?自分のせいで」

「六城か?」

「ち、ちがうよ!」


 結は、どちらかというとがっかりさせてしまったのだ。


 鴎がまた暗い気分になっていると、達也の「ある」という短い返事が聞こえた。


「結構、ある」

「…へー」


 達也が、女子はおろか他の生徒と話しているのを見たことが無いので、その答えは意外だった。勿論クラスが違うのだから、目にする機会も少ないというだけの話だろうが。


「じゃあ、そんなときどうしたの?」

「そりゃ場合による。間違えてそいつの分のデザートを食べたときと、俺が他の女子と話してたことに嫉妬されたときとじゃ、俺の態度だって変わる」


 後半のろけが入っていたような気もしつつ、それだけ経験豊富なら、今回の自分の場合にも助けになる状況を経験したことがあるかもしれない、と考えた。


「じゃあ、自分が黙ってた秘密がばれたときは?そのことについて、念押しっていうか、触れられたことがある場合」

「それはもう、六城は諦めろ」

「ち、違うってば!」


 鴎は草をばんばん叩きつけながら抗議する。そのアドバイスも勘違いも認められない。

 達也は信じていない顔で草を袋に放り込みながら


「謝るしかないだろ。黙ってごめんなさい、君に隠し事をしていた僕が愚かで間抜けな考えなしでしたって」

「そんなふざけて?」

「別にふざけてるんじゃない。自分が悪いんだったら、思うだけじゃなく、言葉で伝えるべきだ。それをするとしないとじゃ相手の不満も大違いだからな」


 鴎は当を得ている達也の指摘に、自分の無神経さを露わにされたような気がした。

 

 あのとき、自分はどうにかその場を収めようと必死だったが、そんな様子はクレアの目にどう映ったのだろう。それを思うと、裏切者という評価もそう間違っていないと思った。


「ただこれをやると、そのあと引き合いに出されることがあるからな。それに何か(おご)れって言われたりする」

「…うん、仕方ないよ、それくらい」


「なんだ、そんなにひどいことしたのか」

「うん」

「とんでもない人でなしだな。卒業まで口きいてもらえないなんじゃないか?六城に」

「…達也は?そんなことしたことない?」


 今度も返事は「ある」だったが、これ以上触れるなと言わんばかりの沈んだ声だった。

「そっか…」

 それからは二人とも黙って草取りを続けた。



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