表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
With the Wind!  作者: 肉丸 もりお
葬炎の担い手
65/361

葬送


「葬送…」


 馴染みのない響きだったが、口にすると、こちらまで届く熱のせいもあってか、急速に体に浸透していく。


「“可能種”は普通の炎じゃ死なない。私の家は、“可能種”を死に至らしめるだけの炎を編み出すことが“命題”なの」


 つまり、“可能種”を殺すための炎。

 火を恐れる獣としての本能が刺激されたように、鴎はゴクリと生唾を飲み下し、クレアを見つめる。

 照らされた金色は幻想的な色合いで、しかし同時に曇った瞳の奥底を浮かび上がらせた。


 それを嫌ったようにクレアが火球を消すと、光に慣れてしまっていた鴎の目には、奥行きの感じられない闇だけが映る。


「まぁ、私のは完成してないから、一瞬で消し炭にするほどの火力はないけどね」


 殺すことが出来ることは否定していないので、物騒であることは変わらない。そうとも知らず、火の粉が舞う距離まで近づいていたことに青ざめる。


「どこの可能種も閉鎖的で、他のコミュニティと交流なんて取ろうとしないけど、これに関してはどの国でも同じだったはず」


 クレアはそう独り言のように呟き、鴎に向き直る。


「“命題”について追求することが、“可能種”にとってはそれこそ至上命題なのに、それですら伝えられてないなんて。鴎はほんとに何にも知らないんだ…」


 再び向けられた憐憫に、鴎は気まずい顔を逸らす。


「こ、この後どうするの?」


 無理やりな話題の転換に、クレアはなぜだか触れずに鉄塔の柵に近づくと


 「うーん」と唸り声をあげて、体が浮くほどに身を乗り出した。


 丘の近くの茂みや砂地をしばらく確認した後、柵から離れる。


「一晩中打ち上げ続けるわけにはいかないし、誰か来てる気配もないし、今日はもうお開きかな」


 そうして床に足をつけると、鴎に向き直る。


「一日中お疲れ様。ありがとね、鴎。それじゃまた!」


 クレアは鴎にウインクすると、すたすたと梯子まで歩いて行った。


「え?」


 その姿が消えていった穴に顔を突っ込んで覗くと、もう梯子を下り始めているクレアの姿があった。


「ちょっと、クレア!」


 腹ばいになって呼びかける鴎を、クレアが見上げる。


「まだ予定聞いてないよ。明日は?それに来週は?」

「平日も歩き回るつもりだし、わざわざ二日続けてこんなの手伝うことないでしょ。今日一緒にいてくれただけで充分。もう地理は大体わかったから」


 じゃあ、今日でもう終わりということか。


 てっきり見つけるまで手伝うのだと思っていた鴎は、肩透かしを食らった気分だ。

 クレアはそんな鴎に見向きもせず、また梯子を下りはじめ、半分辺りで手を離した。


「ちょっ!?」


 地面に衝突するはずのクレアの体は、しかし頭一つ分の距離でピタリと静止し、ストンと着地した。ぶつかる直前に梯子を掴んで体重を支えていたのだ。


 鴎はほっと胸をなでおろし、ゆっくりとはしごを下り始めた。“可能種”の身体能力を見せつけられたが、これに関しては真似しようという気は起きない。


 汗をかきながら地面にたどり着いた鴎を見ると、クレアはまたフェンスに近寄り始めた。


「ま、待ってよ!」


 膝に手をつき、息も絶え絶えの鴎が絞り出した声に、クレアの足がようやく止まる。


「どうしたの?」


 怪訝そうにこちらを見る顔は、答えなければすぐにどこかへ行ってしまう気がして、鴎はなんとか呼吸を整える。


「迷惑じゃなければ、明日も、手伝うよ。用事はないから」


 そう口にした鴎は、クレアの浮かべる眼差しに厳しさが加わったことに動揺する。疑いを隠さない目で、鴎を正面から見据えている。


「なんで?」

「なんでって…だから、用事がないから」

「それは手伝える理由でしょ。私が聞いてるのは手伝う理由」


 激しさはなくとも問い詰めるような語気、前触れなく一変した様子に、鴎は少したじろいだ。


「一人より、二人の方が探しやすいと思ったから」

「それだけ?」

「う、うん」


 しばらくそうして鴎の顔を見ていたが、次第にクレアの表情から険が取れ、不思議そうにこちらを見つめる瞳だけが残された。


「変だね、鴎」

「なんだよ、いきなり」


「だって変だよ。頼んでるのは私なのにおごらせないし、暇だからってこんなに面倒なことに付き合ったり」 


 出会ったときと同じ素直な色が、暗闇の中に浮かんでいた。


 変なのはそっちだろ、と言い返したい気持ちが少しあったが、素朴な疑問は、丁重に扱うべきデリケートなものに感じられた。


「…今日話してみて」


 釣られて鴎も、思ったままを口にする。


「今日話してみて、クレアのこと手伝いたくなったから。それだけだよ」


 言っていて恥ずかしくなってきたので、最後は早口になった。

 クレアの表情は変わらなかったが、視線を一度地面に落とすと


「じゃあ、明日また駅に10時ね」

「うん」


 そうして先にフェンスをよじ登ろうとする鴎に、クレアは何か言葉をかけようとして口を開きかけたが、結局閉じると鴎の尻を押し出した。


「ちょ、ちょっとクレア!」

「遅いんだもん、鴎」


 クレアに尻を叩かれながら向こう側に降り立った鴎は、もう一度明日の集合場所と時間を確認して、家路についた。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ