命題
黙って話を聞いていた鴎だったが、胸を張りながら話すクレアに、この子は結構楽しんでるんじゃないのか、という疑念が湧いてくる。
「じゃあ、その火かき棒は何なの? それになんであんな火の玉が出せるのさ」
ついとがりそうになる口を抑えて、鴎はまた質問をした。クレアは鴎が尋ねてきたことが嬉しいようで、また笑顔を浮かべながら答える。
「あれはね、日本語だと多分、“命題”って呼ばれてるもの。火かき棒はそれを制御するために出してるだけ」
「命題?」
鴎のオウム返しにクレアは頷きを返す。
「私たちの始祖は、私たちと比べものにならないくらい力のある存在だったのは流石に知ってるでしょ?」
強気に首を縦に振る。
「”万能種”だよ」
珍しく勉強をした生徒の成果を目にしたような笑顔を浮かべ、「そう、万能種!」と言っているクレアを見ると、かつがれたようで恥ずかしくなった。
「もともと万能の存在だった私たちだけど、あるとき昔ほどできることが少なくなったことに気付いた。それは時間がたつほどに激しくなって、このままじゃ自分たちは無力な生き物になってしまうのでは、そう恐れ出した」
そうか。鴎は得心がいった。万能ではなくなってしまったから、可能種なんだ。
「それで、そのころ“可能種”を纏めていた人物が言いだしたの。このままだと、私たちは“可能種”ですらいられなくなる。どうにかしてかつての威光を取り戻さなければ、って。そうして有力者たちに与えられたのが“命題”。“万能種”にはできて、“可能種”にはできなくなったことを、もう一度可能にするために、それぞれの一族が目指す指標。これにたどり着けば、その“可能種”は“万能種”になる、って言われてる」
「うーん……」
鴎は首を捻る。説明を聞いても、何だかよくわからない。
「じゃあ例えば、クレアの“命題”はなんなの?」
その質問に、クレアはまた呆れ顔をする。
「あのね鴎、“命題”について訊ねるのは“可能種”間じゃタブーなの。人間で言うなら、社会人の総資産額を知りたがるようなものなんだから」
「…うーん?」
首がより傾く。それでは、”命題”とやらは結局どういうことなのだろうか。
不満がそのまま顔に出ている鴎に、クレアはもう一度やれやれと首を振った。
「鴎、誰にも教えないって約束できる?」
「うん」
じっとこちらに向けられる視線に、ひるむことなく頷く。これに関していえば引け目は無かった。
そもそも喋るような相手がいない。結たちだって突然知らない相手の資産額を伝えられても戸惑うばかりだろう。
鴎の真剣さに満足したのか、柵に近寄ると話を始めた。
「私は分家の出身だけど、本家の“命題”は消えない炎。そして私の家の“命題”は」
腕を組むクレア、その背中に先刻と同じ六つの燃え盛る火の玉が現れた。一つ一つはバスケットボール大のそれらは、まるでガソリンを注ぎ続けられているように、勢いが衰える気配すらなく浮かんでいる。
「“可能種”の葬送」




