遺産
クレアは鴎が口走った言葉を聞くと少し笑った。
「これは知ってるんだ」
その言葉と共に差し出された手を掴んで立ち上がる。垣間見せた怒りはどこかに引っ込んでしまい、鴎はそれを探すようにクレアの服に視線をやった。
軍服のような、格式ばった印象を与えるものであることは結の身に纏っていたものと同じだが、クレアの方は袖や襟元に金色の装飾が施されているのが目についた。
きれいなものだな、と思っていると
「あんたは着ないの?」
返答に窮し、口に粘土が詰まったようにもごもごと動かす。
「やりかたわかんないんでしょ」
それが責めるというより確認するものだったので、鴎はコクリと首を振った。
クレアは「やっぱりね」という顔をして腕を組む。
「鴎、私たち“可能種”はね、自分の能力に自覚的でないと、それを引き出せないの」
どこかで聞いたことがある気がした。鴎はまたうんうんと頷く。
「だからね、たぶんあんたの先祖は没落したからこっちに逃げてきて、子供達には周りの人間と同じようにふるまわせたかったんじゃないかな。あんたが時々びっくりするくらいモノを知らないのも、“可能種”にしてはあんまりにも非力なのはきっとそのせい」
「…」
微妙に棘のある言い方だが、そうして納得してくれる方がありがたい。鴎は今度も、しかし今度は渋々頷いた。
「きっと苦労したんだろうね…」
そう口にするクレアには明らかにこちらを憐れむ色があるので、先ほどのも善意から出たものだと解釈することにする。
「それで、“威装”に着替えてどうするの?」
「あぁ、それは」
突然鴎の顔を熱波が過ぎた。クレアの背後に六つの火球が出現したのだ。
「こうするの」
クレアは腰のホルスターに取り付けてあった短めの火かき棒を手に持つ。驚きのあまり身動きも取れない鴎の前でそれを頭の上へ振り上げた。
すると棒の先端の動きに連動するように、六つの火球は上空へ飛んで行った。夜空を赤々と照らしながら進んでいったそれは、見えなくなるまで小さくなった辺りで弾け飛び消えていった。
「…何したの?」
都落ちの被害者がさらけ出す無知にも、クレアは寛容に応じる。
「今のは普通の人には花火かな、ってくらいにしか認識されない。でも“可能種”には、そうじゃない、同種の仕業だってわかるの。だからもし“可能種”が見てれば、私たちのことに気づくでしょ?」
いきなり人の顔を炙ったことへの抗議のつもりだったが、出来の悪い生徒に接する教師のような、クレアの真面目腐った顔を見ていると何も言う気がなくなった。
クレアの持つ火かき棒に目を向ける。
「それがクレアの“遺産”?」
「遺産って…“可能種”が死んだときとかに残ってるやつ?」
結から聞いた説明を思い出す。確かそうだった。
「うん」
「持ってるわけないでしょ!?」
心底呆れたという顔のクレアは、やれやれと首を振り肩をすくめる。
「あのね、鴎」
そうしてまた腕を組み、鴎の顔を見据えた。まったく仕方がないと今にも言い出しそうな態度だ。
「あんたのいう“遺産”は、“可能種”が死に際に、死んでも死にきれない心残りに強く囚われた場合だけこの世に残すものなの。戦いで死ぬときなんて、大概そんなこと考える余裕ないし、単に寿命を迎えるときも、そこまで強い後悔があることは少ない」
びしりと指を立てながら、「つまり」と続ける。
「少数しか存在しない上に特異な力を持つ貴重なものだから、私たちみたいに一族内で力のない立場だとお目にかかることも珍しいの。実際、私の一族でも持ってる方が少なかったんだから」




