既視感
これどうなるんだろう。警察に連れてかれるのか、それともここで怒られるのか?
焦った鴎はとにかく何か弁明をしなければと顔を上げる。
「違うんです、見てないんです。いや見てたけど、そんな変な目的でっていうかあなたを見てたわけじゃなくていや見てたけど」
金色の髪の少女は、鴎の愚にもつかない言い訳を聞くと何故か顔が明るくなった。
「あ、やっぱり見えてるんだ」
「…え?」
意味を図りかねた鴎がぽかんとしていると、少女は手を腰に当てる。
「こっちだとなんていうのかはわかんないけど、お仲間でしょ?」
日に照らされてキラキラと輝く黄金の髪、頭上の夏の空のように瑞々しい青色の瞳、人目を引く容姿にも関わらず、行き交う人々は誰一人として反応を示さない。
まるで彼女がそこにいないかのように。
既視感の正体を掴む。鴎がこの一か月で出会った彼らに近い何かを、この目前の少女にも感じていたのだ。
しかし間違っていれば、意味不明の単語を使う変人だ。さらに不信感を煽ることになる。鴎は恐る恐る尋ねた。
「もしかして、“可能種”なの?」
少女の表情から、それが間違っていないことを悟る。少女も鴎が共通の認識を持っていることを確信したようで
「ふーん、カノウシュ、っていうんだ。可能に種族の種…ってことか」
ふむふむと頷き、まだ事態を呑み込んでいない鴎に気付くと、右手を差し出す。
突然突き出されたそれを狼狽えながら鴎が見ていると
「ほら、握手握手」
催促するように手を上下に動かす。釈然としないものを感じながら鴎がその手を握ると、少女は握った手をぶんぶん振り回した。勝気さを湛えつつ、挑むような目つきで
「クレア・ハーパー」
「さ、里見鴎」
少女、クレアは「カモメ、カモメね」と口中で繰り返し呟くと、鴎の手を離した。
「ここじゃ、暑いか」
脇に置いていた旅行鞄を掴み、引きずりながら歩きだす。鴎が呆然と突っ立っていると、翻った髪と背中越しに、
「続きは歩きながらね!」
と声が聞こえた。
突然現れた“可能種”の少女、クレアは、鴎と挨拶を交わした後そのまま歩き去ってしまった。
着いて来いということだろうか。
どうしてそうなるのか少しも納得できないまま、しかしこのまま帰るのも収まりが悪いので、鴎はバッグを背負ってその後を追いかけた。
重そうな荷物を引きずっているのにも関わらず、前を行くクレアの歩調は速いもので、鴎は早々に早歩きから小走りに移らなければいけなかった。
クレアが時折携帯を取り出し、何かを確認する度にその足を止めていなければ見失ってしまったかもしれない。
駅とその周辺から離れるとだんだんすれ違う人が少なくなり、ついに数人の姿しか見えなくなった辺りで、ようやくクレアは立ち止まった。きょろきょろと周りを見ている。
息せき切って何とか追いついた鴎が、隣で両膝に乗せた腕に体重をかけていると、クレアは目的のものを見つけたようでまた歩きだしてしまった。
「あれかぁ」
取り残された鴎は、何で追いかけているんだろうと自問して、しばらくそうしていたが
「カモメ、こっちだよ!」
やっと振り返って手を振るクレアに、軽くため息をつきながらもう一度歩き出した。
二人が行く先にあるのは高層の建物、駅近辺にいくつかある家族旅行客向けの柏崎ホテルだった。




