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With the Wind!  作者: 肉丸 もりお
薫風の運び手
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金曜 駐車場(3)

「すごい…」

 二階から一階へと繋がる階段の一段目に取り掛かろうとして、鴎は結の戦いぶりに目を奪われる。自身に引き付けたカエルたちの攻撃を、時に紙一重で、時に一呼吸ほども余裕をもって交わし続ける。


 まるでそれ自体が何かの興行であるかのような動きに、つい足を止め見とれていた鴎はあることに気づく。それは結が、鴎のいる北校舎に決して近づかないように立ち回っていること、そしてその動きが

「一塊にしようとしてる…?」


 カエルたちをまとめて向こうにする意図を含んでいることだ。

 結へ絡みつくような軌道をとる二体のカエルたち。

 結が行っているのは、それらからあまり大きく距離をとらないよう、しかし一体ずつ対処するようなさばき方だった。結に煽られるようにカエルたちの動きは活発化し、危うい瞬間が増える。


 至近距離からのカエルの突進に、鴎が思わず息をのみ、危ういところで避けたのを見て胸をなでおろしたとき、カエルたちから少し離れた場所に着地した結がぐっと沈み込むのを見る。


 すると、結は折りたたむようにした足を一気に伸ばした。同時に強い追い風を受けた体が放たれた矢のように直進する。これまでの緩やかな動きから一転した急加速に、カエルたちは反応も許されなかった。


「そうか!」


 鴎はさきほどまでの結の動きが、あの結に突っかかる二体のカエルたちを、もう一体から引き離すためのものだったのだと悟る。実際、結の向かう先には、舌を伸ばしたばかりで隙だらけのカエルの姿があった。


 猛然と二体の間を駆け抜けた結が、瞬く間にカエルの間近へ達する。結の運動エネルギーに風の後押しを受けた薙刀が、カエルの頭頂部に叩き込まれた。


「やった!」


 思わずガッツポーズをした次の瞬間、鴎は結の異変に気付く。即座に離脱すべきところが、カエルの頭に深々と突き刺さった薙刀を抜くことができないでいる。


 見れば、頭部を切り付けられたカエルが、自身にめり込んだ薙刀を右の前足で抑え込んでいた。カエルの口の辺りに足をかけ、薙刀をそこから取り出そうとする結の後ろに、大谷のそばにいたはずのカエルが忍び寄っていた。

 

「もらった…!」


 大谷の勝利を確信した呟きと共に、音もなく近づいていたカエルが結へ後ろ足の一撃を食らわせる。

 大木を苦も無くへし折る強烈なぶちかましの前では、少女の華奢(きゃしゃ)な体は、それこそ子供に蹴り飛ばされたカエルほどの重量も感じさせなかった。


 吹き飛ばされた結は、北校舎の裏まで飛んで行き大谷の視界から外れた。校舎脇の部室棟あたりから激突音と建物が崩れる音が響く。


「よっしゃぁ!」


 大谷は上機嫌で先ほど攻撃を受けたカエルの様子を確かめる。そこに薙刀がないことに気づき

「吹き飛ぶ直前に解除したの…?」

と眉を曇らせたのも束の間、笑みを浮かべつつカエルの再生に集中する。


「作戦勝ちだね」


 鴎に伝えた通り、大谷には四体もいればカエルだけで結を封殺する自信があった。だがそれでは結を追い込むことになる。

 苦し紛れに自爆技でも繰り出されてはたまったものではない。


 そう考えた大谷は、敢えて結が対処しきれるであろう三体のみに攻撃させ、自身のそばに二体を置いた。

 もっともこれは見せかけで、一体には攻撃の機を窺わせていたわけだが。


 結が三体のカエル相手に余裕をもって立ち回るのを見て、大谷は自身の狙いが間違っていないことを確信した。結に付きまとう二体に対して、舌での攻撃に終始する一体は、その二体からも大谷からも離れた微妙な場所に位置する。

 各個撃破という勝ち筋。大谷は、結がそれに気づかないほど馬鹿でないことを祈りながら、傍らのカエルに攻撃の準備を行わせた。


 結果として、結はやはり孤立した一体を狙った。大谷はそのことに感謝しつつ、もう一つの懸念事項、結をその場に留める役割のカエルの安否を確認した。

 結が一撃でカエルを殺せないことは確認済みだったが、それがこの広い、結が助走を行える駐車場で結果を同じくするかは賭けだった。


「でも、勝ったのは私だよ」


 そして結は足を止め、意識の外の攻撃を無防備に受けた。防戦一方の状況から攻勢に回ろうとする、その時に生じる隙。狙いすました一撃は見事に結へ炸裂した。

 

 策が図にあたった形の大谷は、カエルの肉が(うごきめ)きながら盛り上がるのを楽しそうに眺める。致命傷の結はあそこから動けないだろう、ひょっとすれば死んでいるかもしれない。


 ともかく自分は、間違いなくパフォーマンスの落ちた結相手に、今度は総掛かりで当たればいい。唯一の懸念、“虎伏(とらぶ)せ”の介入もない。


「今日ケリをつけよう」


 歌うような拍子に合わせて、背後のカエルが鳴き声を上げた。


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