金曜 駐車場(1)
何を二人でイチャイチャしているんだ。
大谷茉莉は、いつにも増して自分が怒りっぽくなっていることを自覚する。さっき鴎にずけずけと踏み込んだ物言いをされたから、ではないことはよく分かっている。あいつとケンカしてからだ。
物心ついてから、“楔”を失うのは初めてだった大谷は、その不安定さに強い驚きを、そしてその状態で今まで過ごし続けていた結に、思わず憐れみを覚えた。
自分を探す彼女のやり方に感じていた手ぬるさは、これのせいだったのかと納得した。
ふとした瞬間、何もかもがどうでもよくなる。大谷に強い目的意識がなければ、あの日にすべてを投げ出していたかもしれない。だが、そうはならない。
大谷は強く地面を蹴りつける。
面白いようにコンクリートが砕け散るが、今までに比べて力が失われていることは、他の誰でもない自分がはっきりと認識している。向こうは今来るはずだ。自分を逃がすつもりはないだろうから。
案の定、結はベランダに出ると駐車場へ飛び降りてきた。地面に激突する寸前に、そこに見えない足場があるかのように、空中で体が静止する。やはり、風を操る“遺産”だ。
ゆっくりと地面に降り立ち、こちらを見据える。大谷はその表情を押し隠した顔に、彼女の叔父の影を見た。瞬間拳に力が入る。
自身の周囲を囲むカエル、それに埋め込んだあの肉塊の姿と臭いを思い出し、体が震える。
それらは先ほど自分の体から産み落とされたものだ。醜悪極まる汚物を、自分は“産み出した”。五つの“製造”は、大谷に激しい消耗を強いたが、何とかやりおおせた。
すべては結を殺すため。引いては自分という存在そのものを辱め、尊厳を冒した男を傷つけるため。
入学式で結の顔を見た時、全身が雷で打たれた。自分を処理しに来たのが、あの男が唯一気に掛けていた個人、度々部下に経過を尋ねていた少女だった衝撃はそれほど強かった。
「はじめまして!今まで話したことないよねぇ、六城さん!」
結に反応して動き出したカエルたちへ、待ての指示を送る。カエルたちは大谷がその行動を操作できるが、数の多さと疲労も相まって今回は簡単なものしか送れない。
「正直戦ってくれると思わなかったよ!よっぽど自信があるの?」
疲れを隠すために、高揚する意識を抑えるために発した大声に返答はない。あの男の能面を想起させる無表情で、結は手にしていた薙刀を振りかぶる。
これから戦いに赴く結に、鴎が動揺を誘うようなことを伝えるとは思えない。おそらく彼女は自分の目的を知らないだろう。
今告げてしまおうかとわずかに迷ったが、やはりここは黙っていることにする。最期の瞬間に、その顔を失意に歪めてやる。
暗い情念を宿した瞳で結を見据える。
「おしゃべりは苦手なタイプ…?」
大谷の呟きに、結は薙刀を構えた半身を低くし、大きく一歩目を踏み込むことで応えた。




