金曜 体育(2)
これまでも学校では日中会話をしていなかったのだが、昨日の今日ではなんだか互いに避けているようでいい気分ではない。
しばらく考え込んでいたが、どうせ周りには気づかれないのだから話しかけてみよう、と立ち上がる為に両手を床についたとき
「あー疲れたー」
「もうあとはなんもしねえぞ」
剛史と仁の声がすぐ後ろで聞こえた。振り返ると、疲れたと口々に言いながら二組と五組の男子が二階へ上がってきている。
慌ててスコアボードを確認すると、25-22で二組が
「勝ったんだ…」
「当たり前だろ」
「なあなあ、俺のジャッジ見てた?」
いつもは沈着な剛史が嬉しそうに聞いてくる。
「見てなかった」
「んだよもおー」
剛史は床に寝そべって足をじたばたさせた。
「何やってんだこいつ」
仁は冷めた視線を剛史に送りながら胡坐をかき、体を手で扇ぐ。剛史はおぼれたような動きを突然止め
「試合やってんのうちの女子か」
「おっ、見ようぜ見ようぜ!」
仁が膝立ちで鴎の隣までずりずりと這い進む。剛史も起き上がるとその横に並んだ。結のもとへ向かうタイミングを逃した鴎は、仕方なく一緒に観戦することにした。
二組女子チームは十六得点、四点リードだ。大谷と池上が中心となって試合を回している。
「茉莉ちゃんうめえなー、やっぱ」
仁のにやけ面を見ていると、一つ考えが浮かんだ鴎は
「しかもかわいい」
と口にした。
「かわいいなあ」
仁は両腕を組んでうんうんとうなずいている。
「彼氏いるだろたしか」
仁は腕組みしたまま黙り込んだ。剛史の一言に傷ついたらしい。鴎は校舎裏で聞いた会話を思い出しながら次の言葉を口にする。
「他の女子はどう?」
女子生徒に対する二人の印象を聞き出した後、結についての印象も尋ねれば、どこか共通点のある生徒がいるかもしれない、と考えてのことだった。
鴎の言葉を受けて、仁はニコニコしながら論評を始める。
「池上もかわいいなあ」
「あいつはずっとフリーらしい」
「長田もかわいい」
「あいつはこの間彼氏ができた」
なんだかんだで剛史も女子をかなり意識してるよね、そう口にしたいのをこらえ
「六城さんはどう?」
剛の答えに一喜一憂していた仁は
「ろくじょーう?」
頭の重さに耐えかねたように曲げられた首が横になる。しばらく沈黙した後、剛志が仁の言葉を引き取って
「誰だ?」
と口にする。
鴎は内心ため息をついた。どの女子に関しても、可愛いという感想とストーカーじみた情報しか出てこない。そもそも印象を持たれていないのなら前提が成り立たない。
もっとも、少し前の自分も結のことを聞かれれば、二人と同じ感想を抱いただろうが。
二人と一緒に試合を見るふりをして、鴎は意識を結に向ける。そこには微動だにせず同じ姿勢をとり続ける、生真面目と大書された服を着ているような女の子の姿があった。
結がずっと独りでいたのは、“可能種”であることを差し引いても、自分を罰したい気持ちを持っていたからではないか。昨日話を聞いてからというもの、鴎はそんなことを考えていた。
さっさと声を掛けに行けばよかったな。
内心に滲み出る後悔に苦さを感じながら、鴎はホイッスルの音を聞いた。




