金曜 体育(1)
降り出した雨の影響で六限の体育は体育館で行うことになった。コートの片面で女子がバスケットボールを、男子がバレーボールをするのを、鴎は幾人かの生徒と共に二階から眺めていた。
雨の日は何もしていなくても足が痛みを訴えることが多い。今日も時折、痺れるような痛みが右足の太ももの辺りを走る。
ようやく訪れた今週最後の平日、そして今日最後の授業、男子生徒たちの浮かれっぷりは控えめに言っても乱痴気騒ぎで、足の痛みがなくとも参加するのは見送るのが無難だと鴎は思う。
「いまおまえがオーライって言っただろ!」
「落ちたのおまえの目の前じゃねえか!」
元気のいい声を出す友人二人に預けられたジャージを足元に、鴎はコートでの動きを見つめる。“可能種”は常人と比べ物にならない運動能力を持つらしい。大きな薙刀を苦も無く振るっていた結の姿を思い浮かべながら、それらしい生徒がいないか探す。
男子のコートではクラスずつ希望者がチームになって対戦している。五組相手に試合を行っている我らが二組はというと
「おっしゃこい!」
ネットを超えて向かってきたサーブの前に仁が躍り出る。突き出した両腕の片側、右腕に衝突したボールは勢いよく跳ね返り、壁に衝突した。
サーブレシーブ失敗だ。ホイッスルが鳴り相手チームに得点が入る。
「何やってんだよ仁!」
「さっきからぶっ飛ばしてばっかじゃねえか!」
「次はとる!もう一本カメン!」
味方からの罵声をものともせず、仁は再び大きな掛け声を出す。しかし
「どいてろ下手くそ、俺に任せりゃいい!」
剛史がサーブボールの前に割り込んだ。迫りくるボールを見つめ
「アウトォ」
大きく体をひねって避ける。ボールはそのまま二組のコートに落ちてバウンドした。
ピーッ、五組に一点。
「どうなってんだ剛史!」
「とらねえのになんで割り込むんだよ!」
「おいおい後ろもジャッジしてくれよな~頼むぜ~」
批判を風と受け流しながら、剛史は懲りずにボールを捕球する構えを見せた。
文句を垂れる他のクラスメイトにも経験者はおらず、皆似たり寄ったりのプレイで会場を沸かせている。
こっちはあまり気にしなくていいな。
鴎は罵声の飛び交う男子コートから女子コートへ視線を移した。
そのほとんどが参加するため、短いスパンで行われる男子の試合に比べると、希望者の少ない女子は試合時間が長く歓声も控えめだった。
スコアボードを確認したところで一試合目が終わり、二組と四組の女子がコートに立つ。
二組はバスケ部三人と池上、そして大谷がコートに立っていた。午前丸々休んでいたことで、クラスメイトだけでなく体育教官からも見学を薦められていたが、笑顔でそれを受け流していた。
鴎は、やはり日ごろの明るさは意識して行っているのだ、と内心の確信を深めつつ、その活力に感心する思いでいた。自分なら別れ話の後であんな振る舞いができるだろうか。
大谷は周りの女子の呼ぶ声に手を振って答えつつ、試合が始まるともうボールに集中しているようだった。相手チームのバスケ部は二人、とはいえ他の三人も身のこなしからして運動部だろう、簡単な相手ではない。
しかし、大谷はそんな状況で試合の中心になっていた。その手のひらから弾みをもって放たれたボールが床にぶつかる度に、振動がこちらまで伝わってきそうだ。
素早いドリブルでボールを相手コートに運ぶと、全身をばねにしてシュートの構えをとる。泡を食って止めに入ったディフェンダーを引き付けたところで、ゴール付近にいた池上へパスを出した。池上は移動しながら一度床をバウンドしたボールをしっかり受け取ると、こちらもバスケ部顔負けのレイアップシュートで得点を決めた。
まさか素人があんなハイレベルなフェイントを行うとは、経験があるのだろうか。
思わず感嘆の息を漏らしながら、ハイタッチをした後自陣に駆け戻る二人に魅入っていた鴎は、そこで男子コートと女子コートを仕切るネットの近くに誰かが座っているのに気づいた。
ステージ側に座って大小の集まりを作る他の女子から離れた場所で、結は屋上と同じきれいな三角座りをして試合を観戦していた。鴎はその背中を見ながら、今日は夜まで話すことないのかな、と思った。




