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#2 初めての魔法

サブタイトルを付けるのって、ちょっと難しいですね。なるべくタイトル詐欺にならないように頑張ります。

 柔らかな風。という表現がぴったりと当てはまる風が吹き、私は目を覚ましました。

 まず視界に入ったのは、青い空と白い雲。どうやら私はどこかの草原で仰向けに寝ているようです。

 身体を起こすと、目の前に広大な世界が広がっていました。

 見渡す限りの草原。こんな風景、日本ではまず見れないでしょう。海外でなら可能性はありますが、遠くにうっすらと見える傾斜60度くらいのピサの斜塔のような巨岩が、ここが異世界であることを知らしめています。ここからどれだけ離れているのかも検討がつきませんが、富士山よりずっと大きいことだけはわかります。

 さて、まずは確認作業ですね。鏡はありませんが、パッと見たところ身体の異常はなさそうです。私は立ち上がって服についている土や葉を払い、ステータス画面を表示させました。

 そうなのです。この世界にはステータス画面というものが存在するのですよ。私、もしかして知らないうちにVRゲームをやっているのではないかという疑問があるくらいですよ。まぁ、そんな疑問も、キャラクターメイキングの悲劇を思い出せば綺麗さっぱりなくなるわけですが。

 ステータス画面は半透明の板状の物体が目の前に現れ、基本的には本人にしか見えません。右下の目のマークを押せば他人にも見えるように変更できるそうです。

 画面左上には名前、年齢、種族、職業。その下にはレベルや攻撃力などのステータス。右側には装備品とその効果が表示されています。

 名前は「アイナ・フォルレイク」。私の好きなゲームに登場するキャラクターの名前と、地名のアナグラムです。

 年齢は13歳。この世界の成人が15歳なので、成人前。日本だとだいたい高校生くらいの感覚でしょうか。

 種族は人間。職業は魔法剣士。ステータスは見るからに初期能力で、魔法剣士らしい特徴はまだありません。

 ステータス画面の上部にある右矢印を押すとページが切り替わりました。同時に左矢印が現れます。ステータス画面のページ切り替えですね。

 このページは使用可能な術技一覧のようです。しかし、当然ながら何もありません。

 私は魔法剣士なので魔法と剣術の2つを使えるようになるはずです。剣術はそのうちゲームの技を再現するとして、まずは魔法です。この世界の魔法は、魔力とイメージと精霊の力によって発動する、と女神様から教えてもらいました。

 術者がイメージした魔法を、精霊に再現してもらう。そのための対価として魔力を支払う。それがこの世界の魔法の仕組みで、魔法学の基本的な知識だそうです。精霊にはいくつかのランクが存在し、下のランクの精霊ほど、術者のイメージを読み取る力が弱く、術の効果も弱くなるそうなので、強くイメージをしなければ発動すらしないこともあるようです。ともかく、まずは実践あるのみです。

「とりあえず、炎でもやってみよっかな」

 火の玉を飛ばす、というファンタジー世界では定番の魔法。【ファイアボール】。作品によっては中級魔法としても扱われる火属性の定番魔法です。野球ボールほどの火の玉が手のひらから真っ直ぐ飛んでいくイメージで……。

「【ファイアボール】!」

 叫びながら手のひらを空へ向けます。しかし何も起こらない!

「………………」

 恥ずかしい!とにかく恥ずかしいです!穴があったら入りたいくらいです!幸い、近くに人がいないので、羞恥心はいったん置いといて考えます。

 なぜ発動しなかったのか?

 イメージならバッチリのはずです。散々ゲームで見た魔法をそのままイメージしたのですから。では、なぜ発動しないのか?

 考えられる要因は1つしかありませんね。

 魔力。そもそも地球人である私が魔力を扱えるはずがないわけですよ。どうやって魔力を扱えるのか、そこを考える必要がありますね。

 力を貸してくれる精霊がいない、ということはないはずです。精霊がいない土地は荒廃して、草木のない死の大地となるそうですから。例え雪国であっても火の精霊はいますし、砂漠にも水の精霊は存在しています。なのでこの辺りにも火の精霊はいるはずです。ならば、発動しないのは魔力を操れないから。

「……どうしよう」

「おねーちゃんに任せなさい!」

「うひゃあっ!?」

 突然背後から声をかけられた私は驚きすぎて飛び上がってしまいました。というか今の声!

 振り返るとそこには女神様がいました。

「なんでいるんですか!?」

「可愛い妹が困ってるみたいだったから」

 そう言いながらウインクをする女神様。なんだか星が弾けそうな見事なウインクに、冷静さを取り戻すことができました。

「魔力を扱うには、まずは自身の魔力を感じるところから始めないといけないの」

 いきなり女神様の講義が始まった。

「なので、アイナちゃんの魔力を活性化させるね」

 そう言って女神様は私の肩に手を押きました。次の瞬間、私の内側から力が溢れてきました。

「これが魔力ですか?」

「そう。魔力を制御するのはそんなに難しくないの。自分の魔力を感じること。これが最初で最大の難関なのよ」

 女神様は私の魔力を活性化させてくれたおかげで、私は自分の魔力を感じることができるようになりました。先ほどまではさっぱりわかりませんでしたが、1度知覚してしまえば魔力の存在を感じ取ることができるようになりました。試しに先ほど失敗した【ファイアボール】をもう1度使ってみました。

 すると、私の手のひらに炎の塊が出現すると、空に向かって撃ち出されました。速度は男子中学生のドッジボールのボールくらい。頑張れば女の子でも取れるギリギリくらいの速度です。練習すれば速くなるのかもしれません。

「あ、増えてる……」

 ステータス画面の術技一覧に【ファイアボール】が追加されていました。この調子で色んな魔法を覚えて行くとしましょう。水を生み出したり、風を吹かせたり、光を発生させたり……。生活感溢れる内容な気がしますが、便利に使えればそれでいいのです。

「女神……おねーちゃん、ありがとう!」

 ステータス画面を閉じた私は振り返りながらお礼を言いました。しかし。

「ごめんなさいごめんなさい!サボってないです!すぐに戻ります!」

 女神様は携帯で誰かと話していて、ペコペコと頭を何度も下げていました。誰と話してるのでしょうか?いや、それより、神様も携帯を使うんだ。

「それじゃあ私は神界に帰るね……」

 女神様は涙目でそう言うと、転移で帰りました。上司に怒られたように見えましたが、神様に上司なんているのでしょうか?

 ともかく、まずは近くの村か町を探しましょうか。

 私は異世界に来て、ようやく始めの1歩を踏み出したのでした。

 アイナ・フォルレイク、13歳。これからこの世界で頑張ります。


 私がこの世界に来てから5日。ようやく最寄りの町にたどり着きました。

 いや、本当に大変でした。歩き始めてまず最初に、街道を探すところから始めたのですが、目視できる範囲内にはなかったのです。ゲームのような世界なのにゲームのように現在地がわかる地図があるはずもなく、どうしようかと考えた私は、ひとまず真っ直ぐ歩くことにしました。周囲を見回した結果、森が見えたのでその反対側へ向かいます。森から離れればそのうち街道が見えてくるのでは、と考えたのです。

 翌日のお昼頃、私はようやく街道に出ることができました。この身体の移動スピードを甘く見てました。ちなみに夜は自分を中心に土属性の魔法で岩を円錐形に発生させて簡易テントを作りました。頂上部分に空気穴を空けたので、窒息や酸欠になることもありませんでした。

 街道に到着した私はどちらに向かうか考えました。右か左か。どちらに行けばいいのかわかりません。困っていると右の方から馬車がやってきたので早速質問。どうやら町から来た行商人らしく、これから首都に戻るそうでした。首都は馬車でもかなりかかるらしく、それなら徒歩でも町を目指した方が早いとのことなので、私は行商人さんが来た方へ向かうことにしました。

 水は魔法で作ることができましたが、食糧の確保は大変でした。街道近くの森で木の実や果物を採取しました。狩りは獲物を捌けないのでしていません。しかし、この世界で生きるなら捌き方を覚える必要がありそうです。

 初めての野宿を経て、ようやくたどり着いた最寄りの町。この世界に来て今日で5日目。ここまでの道のりで私のレベルは1から5まで上がり、魔法も【ウィンドカッター】【ストーンルーム】【アクアクリエイト】の3つが増えました。

【ウィンドカッター】は高い場所にある果物や木の実を採取するのに活躍しました。コントロールが難しくてそこそこの数の木を切り倒してしまいましたが……。

【ストーンルーム】は石柱の円錐形テントです。出入り口がないので壊さないと出れませんが、狼などの猛獣や虫の心配をしなくてすみます。

【アクアクリエイト】は飲み水用です。最初に覚えた【ファイアボール】を併用すればお湯を作れるのですが、タライのように沢山の水を溜めるものがなければお風呂はできません。穴を掘って、そこに水を溜めてお風呂にする、というのも考えましたが、泥水にしかならなかったので諦めました。

 そして現在、私は町に入るために衛兵さんの前にいます。年は40台後半から50台前半くらいでしょうか。少し強面のおじさんです。若い頃はそこそこイケメンだったのでしょう。おじ様好きの人なら良かったのでしょうが、私はおじ様好きではありません。

「通行書と身分証明書を提示してください」

「……え?」

 これはよくないパターンでは?この世界に来たばかりの私が、そんな物を持っているはずがありません。そもそも無一文ですから、今日の宿すら確保できませんし。

 とにかく、町に入らないと仕事ができません。仕事ができないとお金を手に入れることができません。お金がないと野宿をしないといけません。まともなご飯が食べれません。ここは何としても切り抜けて町に入らなければなりません。

「それが……通行書も身分証明書も無くしちゃったんですぅ……」

 私は涙目で衛兵さんに言った。女は演技をする生き物。涙くらい簡単に出せます。

「……何かあったのか?」

 衛兵さんは私の全身を見ながら言いました。現在、私はそこそこ汚れています。だってお風呂も洗濯もできなかったので。せめてタライか川があれば……と何度も思いました。

「実は私は、ここから10日ほど歩いた山にある小さな集落で暮らしていたのですが、その集落が盗賊に襲われてしまい、みんな殺されてしまいました」

 私は一瞬でアイナ・フォルレイクの人生を構築し、語ります。

「両親の死体に隠れてやり過ごした私は、昔冒険者をしていた母が使っていた装備を持って集落を出ました。生き残りは私しかおらず、1人で生きて行くには冒険者しかないと思い、ここまでやって来たのです」

 通行書も身分証明書も、盗賊が原因で持っていない、ということにしました。これでダメなら透明化の魔法を完成させて入ってやります。不法侵入?知りませんよ。

「……そうか」

 俯き気味に話した私の頭上から、ポツリと言葉が聞こえ、視線の先、つまり地面に雫がぽたりと落ちました。顔をあげると衛兵さんは上を向いて男泣きをしていました。効いてた!効果は抜群だ!

「通りなさい。冒険者ギルドで登録をすれば身分証明書を発行してもらえる」

 優しい人で良かった!なんか申し訳ない気がしなくもないですが、なんとか町に入ることができました。私は衛兵さんにお礼を言うと、異世界で最初の町に足を踏み入れました。


魔法回の予定でしたが、内容量の都合上、町まで行きました。これから町の名前とか規模とかを考えて、なるべく早く次を出したいですね。

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