#3 冒険者になったよ
冒険者のシステムを作ってから気付きましたが、こういう仕組みは似通ってしまいますね。
初めて訪れた異世界の町。「ここは○○の町だよ!」しか言わない町民がいるはずもなく、私は名前の知らない町を散策することにしました。まず目指すは冒険者ギルド。そこで身分証明書を発行してもらって、今日の宿代が稼げる仕事をする。そして宿へ。今日はこの流れで行きましょう。
町の大通りらしき道は少し粗めの不揃いな石畳。建物は石造りの物から木製の物まで幅広く、あまり統一感はありません。このほどよい不揃いな町並みは、まさに異世界であることを私に実感させてくれます。
さらに、町を歩く人々。3割くらいの確率で獣人を見かけます。人間の姿に獣耳と尻尾。これが私の獣人の定義です。二足歩行をする獣は亜人。果たしてこの世界ではどう呼び分けているのかはわかりませんが、少なくとも私はそうやって分けています。
あの耳は犬っぽいですね。耳の形や色的にキャバリアキングチャールズスパニエルでしょうか。あっちはウサギですね。ぴょんと立っているのではなく、ペタンと折れているロップイヤーですよ。バニーガールならぬバニーオバサンが木で編んだカゴを持って買い物をしています。主婦なのでしょう。あちらで呼び子をしているのは猫の獣人少女ですね。毛色からロシアンブルーっぽいです。あの猫耳をこしょこしょして遊びたいです……。あ、あちらの道具屋のような露店にいるのは熊耳のオジサンですね。丸い耳のせいで何だか可愛く見えてしまいます。もっさりとしたヒゲがその可愛さを台無しにしていますが。熊はツキノワグマとパンダとシロクマくらいしか判断できません。ヒグマとグリズリーの違いなんてわかりませんよ。
このままでは冒険者ギルドに着くまでに夜になってしまいそうなので、私は散策や見物を後回しにして、人に訪ねながら冒険者ギルドへ向かいました。
町に入って1時間くらいで目的地の冒険者ギルドに到着しました。外観から3階建てらしい大きな建物。中から聞こえる喧騒は、冒険者が荒っぽい人達であることを教えてくれます。いや、穏やかな人もいるとは思いますよ?
変に絡まれませんように……。そう願いながら私はスイングドアを押し開けて店内に入りました。同時に変なフラグを建ててしまったのではないかと不安になりました。
カランコロンと心地良い鐘の音が鳴り、店内の喧騒がピタリと止まって無数の視線が私に集中します。
まず、正面に受け付け。6つの窓口が並んでいます。男性2人と女性4人。うち1人はベテランっぽいおばさんですが、あとは美男美女です。左手には大勢の冒険者らしき人達が、グループごとにテーブルを囲んでいます。飲食スペースのようです。その飲食スペースと受け付けの間に階段があり、上に伸びています。右手には壁一面に大きな掲示板があり、おそらくあそこに依頼書が張り出されているのでしょう。仲間と依頼書を検討するためのスペースもあります。
さて、一斉にこちらを見た冒険者の方々ですが、私が店内を観察する数秒の間に私に興味を無くしたのか、再び談笑に戻りました。演劇部で何度も舞台に出ていたので、注目されることには慣れています。まぁ、脇役しかやってないので、お客さんは私ではなく他の役者の子を見ていたのでしょうけど。ともかく、私は真っ直ぐ受付に向かいました。フラグが建ってなくて良かったです。
「冒険者の登録をしたいのですが……」
「はい、それではこちらの書類に記入をお願いします」
受付のお姉さんは20歳前後。私と同じくらい……いや、今の私は13歳。だからこの人は年上です。薄いグレーのショートヘアーで細めのメガネをかけたデキる女っぽいクールな印象の女性です。
差し出された紙は名前と職業、年齢を記入するもので、右下には判子を押すようなスペースがあるだけの、小さな紙でした。
私は早速記入していきます。名前はアイナ・フォルレイク。普通に書いているのに、なぜかこの世界の文字になります。知らない文字なのにスラスラと書けて、読むことができる。これが女神様のくれたサービスの1つのようです。確かに文字の読み書きができないと、色々面倒です。
年齢は13歳。
職業は魔法剣士。
全て記入すると、受付のお姉さんはナイフを取り出しました。
「それでは血判をお願いします」
「…………え?」
それって、親指とかを切って、血で判子をするやつですよね?ヤの付く怖い人がするやつってイメージなのですが。
「……やらないとダメですか?」
「はい。偽造防止と本人確認のために必要ですので」
なるほど。魔法による遺伝子照合で本人にしか使えない身分証明書を作るわけですね。それなら仕方ありません。
私はお姉さんからナイフを受け取ると、鞘を抜き、左手の親指に近づけてます。
………………
………………
………………
無理!無理です!自分で自分の指を故意に切るとかできないですよ!料理中に誤って包丁で切るのとはワケが違いますよ!ピーラーや下ろし器でうっかりザックリやるのとはワケが違いますよ!あれ、かなり痛いんですよ!?スライサーの怪我とか、本当にヤバいんですから!
「ちょっと失礼しますね」
私が硬直していると、受付のお姉さんがカウンターから身を乗り出し、私の両手を掴みました。
「ちょっ……」
サクッ。
「痛ぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!」
この人、なんの躊躇もなく刺してくれやがりましたよ!痛がる私を無視してお姉さんは私の左手の親指を紙にグリグリ押し付け、回収しました。
「それでは今から身分証明書を作りますので、しばらくお待ちください」
そう言ってお姉さんは奥に引っ込みました。
ううぅ……。まだ血が止まらないよぅ……。少し太めの針で刺したように血が滲んできます。とりあえず私は掲示板の方にある椅子に座って、左手の親指をパクリと口に咥えました。絆創膏が欲しいです。
おとなしく待っていると、飲食スペースの方が何やら騒がしくなっていました。そちらを見ると大半の男性がこちらを興奮した様子で見ています。何でしょう、気持ち悪いですね。
身分証明書ってどれくらいでできるのでしょうか。2分くらいして親指を見てみると、まだ血が滲みますが、あまり気にならない程度にはなりました。ギュッと力を入れるとダメですが、何もしなければ滲むことはないでしょう。とりあえず応急措置は完了です。後で回復魔法を開発してみましょう。最悪、水魔法で消毒魔法を作りましょう。
「あぁ、良いものを見れた……」
「親指を咥える少女……たまらん……」
「はぁ……はぁ……代わりたい……」
……なるほど。そういうことでしたか。飲食スペースから聞こえてきた声に私はうんざりしました。ここにいる冒険者は変態さんばかりなのでしょうか。成人前の子供に興奮しないで欲しいです。精神年齢では充分大人ですけどね。少女に萌える変態さんは燃えてしまえばいいのです。
「お待たせしました」
先ほどのお姉さんが戻ってきたので私は再びカウンターへ。
「これがギルドカードになります」
そう言って渡されたのは名刺サイズの硬質素材で作られたカードでした。パッと見た感じ金属のような素材の光沢。若干ひんやりしていて少し気持ち良いのですが、プラスチックよりも軽いですね。金属の重さではありません。
謎素材でできたギルドカード。これが、この世界での私の身分証明書のようです。
「それではギルドカードと冒険者のルールについてご説明しますね」
受付のお姉さんはそう切り出し、説明を始めてくれました。
「まず、こちらのギルドカードは、あなたが冒険者であることを冒険者ギルドの名において正式に認めた、という証になります。身分証明書の提示を求められた際には、こちらを提示して下さい」
これが免許証や保険証、マイナンバーのような役割を果たすわけですね。
「紛失や盗難、破損などによる再発行は可能ですが、その際には料金が発生します。1回目の再発行なら白金貨1枚。2回目なら白金貨2枚、と増えていきますので注意してください」
白金貨って言われても、どれくらいするのかわかりません。そのうちこの世界のお金の基準を覚えないといけませんね。白金って、プラチナでしたっけ?RPGとかだとプラチナ装備って結構強いんですよね。
さらに、このカードは本人以外が持つと色が濁り、本人が持つと元に戻るそうです。実際に試してみると、お姉さんが持った私の白いカードは白い絵の具に黒い絵の具を落とし、2・3回だけ軽く混ぜたような色になり、私が持つと元の綺麗な白色に戻りました。
「次に、カードの色ですが、こちらは冒険者ランクを示すものになります」
貰ったカードの色は白。白いカードに黒い文字が書かれています。
「白のうちは町の中での依頼しか受けることはできませんが、昇進して行けば受けることのできる依頼も増えていきますので、頑張って下さい」
お姉さんが言うには、白、黒、紫、緑、青、赤、銀、金、虹と9つのランクに分かれていて、虹ランクは勇者しかなれない最高ランクらしい。しかも勇者の職業は世界に1人しかなれないらしく、このお姉さんも見たことはないそうです。金ランクは英雄クラスの実力を持つ人で、勇者に勧誘されるレベルらしい。しかし、現在の勇者はなぜかパーティーを募集しておらず、1人で魔王と戦っているとのこと。勇者とか魔王とかいるんだ、この世界……。
銀ランクは超一流の証で、赤ランクが一流。その下の青のベテラン冒険者と緑の一人前が最も数が多く、赤ランクになることがかなり難しいことを示しています。
緑ランクからは全ての依頼を受けることができるのですが、その下の紫ランクの半人前では護衛や人族の討伐……野盗や犯罪者を相手にした依頼を受けることができません。さらに下の黒ランクは新米冒険者の証で、採取系や最下級の魔物討伐しか受けることができません。1番下の白ランクは準ギルド員。先ほどお姉さんが言ったように町の外に出る依頼を受けることができないランクです。
まずは町中で仕事をして、冒険者としてのルールや知識を身に付けていく段階だそうです。
「冒険者カードは定期的に依頼を受けなければ効力を失い、登録抹消になりますので、効力が無くなる前に依頼を受けてくださいね」
この効力が無くなる期間も、ランクによって変わるらしい。赤以上はこの制度が当てはまらなくなり、赤以上になるとずっと依頼を受けなくても登録抹消にはならないそうです。
「次に冒険者のルールについてご説明しますね。冒険者同士によるトラブルについては、基本的にギルドは関与しません。しかし、ギルドにとって不名誉なこと、ギルドの名を陥れるような事態になった場合には、ギルドから特殊部隊が派遣されますのでご注意を」
暗殺部隊とかじゃないですよね?怖いから聞きませんが。
「依頼についてですが、掲示板に依頼書が張り出されていますので、そこから受けたい依頼書を剥がして、こちらの受付に持って来てください。受理されればそのまま依頼に向かってもらいますが、実力が不足していると判断された依頼を受けることはできません」
これは過去に実力不足の冒険者パーティーが帰って来なかったり、依頼失敗に終わったりしたことが何度もあったため、追加されたルールらしい。
「また、依頼失敗時には違約金を支払っていただきます。違約金は報酬の半分ですので、依頼によって金額は異なります」
なるほどなるほど。無理して失敗すれば借金する可能性があるのですね。
「最後にランクの昇進についてです。冒険者ランクを上げるには、とにかく依頼を成功させることです。依頼にはポイントがありまして、ギルドで定めたポイントに達すると、昇進することができます」
急にギルドカードがスーパーのポイントカードに見えてきました。そういえば、財布に入れていたスーパーのポイントカード、かなり貯まってたっけ。多分、お母さんが有効活用してくれてると思う。
「また、依頼を失敗するとポイントがマイナスされますので、何度も失敗していると降格することもありますし、ポイントが0になると冒険者登録を抹消されます。登録抹消された方は2度と登録ができなくなりますので、気を付けてください」
他にも金ランクになったら勇者パーティー候補に登録できたり、冒険者ギルドは国家から独立した組織であるため、王族や貴族の権力が通じない組織だとか、色々と説明をしてもらいました。
「そのほかの細かいことはこちらの冊子に書いてありますので、そちらをご覧ください。また、何か疑問点があれば気軽にお申し付け下さい」
そう言ってお姉さんはそこそこの厚みのある冊子をくれました。これは読まないやつですね。読まずに直接聞くでしょ、普通。
「それでは説明はこれで終わります」
「ありがとうございました」
私は早速掲示板へ向かいました。掲示板は色分けされているので、自分のランクの依頼を探すのはとても簡単です。とりあえずここには白ランクから赤ランクまでの依頼があって、赤ランクの依頼はごく僅か。緑ランクと青ランクが1番多く、紫ランクと黒ランクがそこそこあります。白ランクはあまり無いですが赤ランクよりはあります。銀ランクや金ランクは貼るスペースすらありません。超一流や英雄はそう簡単にいないし、そんな人が受ける依頼もあまり無いのでしょうね。
さて、とりあえず依頼を受けましょう。宿代がどれだけかかるのか、この世界のお金の基準など、知らないといけないことは色々ありますが、とにかく依頼をこなしましょう。
白い掲示板を見てみると、町中の雑用が張り出されていました。屋根の修理、迷子の猫の捜索、溝の清掃。店のスタッフの募集
短期的なものから長期的なもの、不定期なものと様々ありますが、報酬は少ないもので鉄貨5枚。多いもので銅貨2枚。基準はわかりませんが、鉄貨と銅貨があることはわかりました。そういえばギルドカードの再発行では白金貨が必要なんでした。なら、銀貨や金貨もあるのでしょう。あとはこれらがどれくらいの価値があるのかがわかればいいのです。
「こ、これは……」
依頼書に埋もれるようにして貼られていた依頼を発見した私は、見やすいように掲示板から剥がし、近くの椅子に座りました。
依頼主は町の小さな料理店。家族で経営しているその料理店で、ウェイトレスを募集していました。何でも長女が結婚して家を出たため、人手が足りなくて困っているそうです。報酬は日当で鉄貨5枚。まかない付きで住み込み可。なぜこの好条件で埋もれていたのか……。まさか評判の悪い店なのでしょうか?
気になった私は早速お姉さんに聞きに行きました。
「この店は、評判は悪くないですよ。ただ、冒険者になるために登録をしたのにウェイトレスをしたくないという人が多いのです。ただでさえ女性冒険者は少ないので、従業員の募集依頼は不人気なんですよ」
冒険者ランクが上がっても、それなりに働いていれば辞めにくくなるため、そのままズルズルと続け、冒険者ではなく普通の従業員として働いている、という人が何人もいるそうです。なので、この依頼も受けてしまえば冒険者ではなくウェイトレスとして生きていくようになる可能性が高いため、誰も受けないそうです。
そんなの、向こうの都合を気にしすぎだと思うのですが……。辞めたければ辞めればいいじゃないですか。
「これ、受けます」
別に私は戦いたいわけじゃないのですよ。ただ、ちょっと剣を振ったり、魔法が使えればいいだけです。なので昇進したら休みの日に外で少し戦えればそれでいいのです。物語の主人公のように波乱万丈な人生じゃなくていいのですよ。そう、私はキャスト紹介の時に「冒険者C」と表記される程度でいいのです。
「わかりました。それでは依頼を受理します」
そう言ってお姉さんはカウンターの下から1枚の羊皮紙を取り出しました。そこには依頼人の名前と場所が書かれています。
「それでは行ってらっしゃい」
こうして私は、冒険者として初めての依頼を受けたのでした。
来週も更新できるように頑張ります。




