楽しむ色
次回、最終回。
この話の結末は…明日の20時〜更新予定です
あるところに可愛らしい少女がいた。天真爛漫でおっちょこちょいな性格の少女、親からはヴィオラという綺麗な名前をもらい大切に育てられてきた。ヴィオラの母親は花屋を営んでおり、ヴィオラはそこの看板娘としてお店のお手伝いをしていた。ある日、いつも通りにお店にいると同い年か、少し年上ぐらいの見た目をした少年が訪ねてきた。その少年は見るからにボロボロでいかにもお金なんか持っていないような容姿をしていた。ヴィオラはそんな少年が本当に花を買いに来たのか不審に思い声をかけてみることにした。
「ねぇ、君。ここへは何を買いに来たの?」
「……傷に効く薬草がないか探してて、ここだと置いてるかなって思って……」
「薬草?そんなのここには置いてないわ。ここは花屋だもの、お花を取り扱うのとお薬を取り扱うのはまた別だわ」
「あ、そう……なんだ」
明らかに落ち込んでいる様子にいたたまれなくなったヴィオラは母親の部屋から薬草について書かれたノートを一冊持って来て少年に見せてあげた。
「私のお母さんね、お花だけじゃなくてお薬の勉強もしているのよ?凄いでしょ?だから、ここに書いてある薬草で傷を直せるものが見つかるかもしれないわ。一緒に探しましょう?」
「――!うん、ありがとう。僕、アリスターって言うんだ、君は?」
そうアリスターが微笑むとヴィオラはまるで電撃に打たれたような感じがした。ああ、この子はなんて綺麗に笑うんだろう。そうヴィオラは初めて一目惚れをしたのだった。
「あ、わ、私はヴィオラ、よ、よろしく!アリスター」
こうしてヴィオラはアリスターに初めて心を奪われてしまったのだった。
あの後何日かアリスターとのやり取りをしていたヴィオラは、今日もお店にアリスターが来るのを今か今かと待っていたのだった。そんな時、母が慌てた様子で出てきた。ヴィオラにとってあんな母を見るのは初めてでどうしたのだろうと気になりこっそり母の後を追うと、何やら揉めているような声が聞こえてきた。その声は次第に大きくなり、はっきり聞こえた言葉はヴィオラにとって残酷なものだった
「〜!〜!!〜っあなた一人だけの問題じゃないのよ!ヴィオラは、あの子はどうなるのよ!ようやくこの暮らしにも慣れてきて、あの子も嬉しそうだったのに…………」
「仕方ないだろ!俺もこうなるとは思わなかったんだ!王国兵の一人が店の花を蹴飛ばしたから少し言ってやっただけなのに……ああクソ、とにかく兵士に目をつけられちまったんだ、国に反いたと噂されてるに違いない。もうここには居られないぞ」
「……そうよね、ヴィオラには悪いけど明日にでもこの国を出ましょう」
この国を出る、それはつまり二度とアリスターに会えないことを意味していた。初めて好きな人ができて、喜びで胸がいっぱいだった。思いを伝えることもまだできていないままここを離れてしまう事になる。それが怖くなり、ヴィオラは家を飛び出した。せめてアリスターに好きだと伝えるべく街中を探し回った。けれどもアリスターの姿はどこにもなかった。探しても探しても見つからず途方に暮れていた時、叫び声が聞こえてきて何だろうと思い声のする方へ行くと、そこにはずっと探していたアリスターの姿があった。ヴィオラは嬉しくなりアリスターに声をかけようとするとボロボロの少女がアリスターと話していた。その後少女が去ったところをアリスターはずっと見ていた。そして振り返り、こちらに歩いてくるアリスターに思いを伝えるため呼び止めようとしたが、ヴィオラは思わず固まってしまい結局そのまますれ違ってしまった。その時ヴィオラが見たアリスターはまるで恋をした人のように嬉しそうな表情を浮かべていた。
「ああ、私、失恋してしまったのね…………思いも伝えれないまま離れ離れになってしまう……」
叶わぬ恋をしてしまったヴィオラは涙を流しながら長い長い帰路に着く。次の日、ヴィオラたち家族は国を去っていった。そして二度と故郷に帰ることはなかった。
ヴィオラたちは隣国に近い街に引っ越して、引き続き花屋を開いていた。ただ、少し変わったことがヴィオラが薬草について学び出したことだった。それは国を出る前日の夜、両親に詳しい事情を聞いたヴィオラはとある条件と引き換えに国を出る事に賛同した。
『…………国を出ないといけないことはわかったわ。でもその代わり、私に薬草について学ばせてほしい、引っ越した先で、見習い医師としてやっていくことを許してほしいの。立派な医師になって私も人助けをしていたらもしかしたら彼が振り向いてくれるかもしれないから……!』
そう必死に頼みこむヴィオラは、まだアリスターへの恋心が忘れられないでいた。もしかしたらまだチャンスがあるかもしれない、医師になって色んなところに行けばまた出会えるかもしれない、そんな叶うかもわからない希望を胸にヴィオラは国を離れることを決意していたのだった。ヴィオラの熱意と自分たちの都合を押し付ける申し訳なさに負けた二人はヴィオラの要望通り、有名な医師がいる街に引っ越すことを決めた。引っ越して早々にヴィオラは医師の元に訪れた。出迎えてくれた人は年老いた女性だったが、立ち姿が凛としており厳しそうな見た目をしていた。だが、ここで折れてはもう二度と医師になれないと思ったヴィオラは必死に頼み込んだが、やはり断られてしまった。その日から一ヶ月間毎日のように医師の元に通い詰め、弟子にしてくれと頼み続けてくるヴィオラに医師は話しかけた。
「お前さん、どうしてそこまで医師になりたいんだい?」
「……私の好きな人が、人を助けることに喜びを感じていました。だから私も、彼と同じ目線に立って、同じ景色を見てみたいからです…………!」
「……お前さん若い頃の私にそっくりだ、お互い恋に人生を狂わされるとは。面白い、お前さんの度胸と根性を見込んで弟子にしてやろう!弱音なんか吐くんじゃないよ?」
「――!本当ですか!?ありがとうございます!これからよろしくお願いします先生!」
ヴィオラの熱意が認められ、晴れて弟子入りに成功したのだった。そこから目まぐるしい生活が始まった。まず、早朝から薬草採取をしながら、薬草のいろはを一から学び直し、昼に医学を学び、夜には薬の調合まで、医師としての知識全てを叩き込むような生活を送るようになりいつのまにか五年の月日が流れ、ヴィオラは十五歳になっていた。
もうすぐ十六歳を迎えるヴィオラは今日も先生の元に向かう準備をしている時だった。両親に呼び止められ用事を聞くと明日久々に家族で集まってヴィオラの誕生日パーティーをしようと提案してきた。ヴィオラも久々に家族で集まれる機会だったので思わず大喜びしてしまった。その日はいつも以上にやる気に満ち溢れているヴィオラに対して先生も凄く関心していた。
「…………この調子ならそろそろ考えないとねぇ」
そう呟く先生は優しい表情を浮かべてヴィオラの成長ぶりに喜びを感じていた。いつもより早く作業を終わらせることができたヴィオラは早く帰ろうと先生に報告しようとした矢先、先生の方から声をかけてきた。
「お疲れ。今日はもう帰りな、明日はお前さんにとって大事な日だろう?久々の休みだ、めいっぱい楽しんできな。後は…………ほれ、私からの祝い品だ、有り難く使えよ」
「――!先生……!ありがとうございます!大事に使いますね」
先生から渡されたのは、美しいガラスペンだった。先生の始めての贈り物に嬉しくなり、それを大事に抱えて帰路につこうとドアを開けたヴィオラは一面が赤く燃えさかる光景を目にした。鼻を突く異臭、風に乗って流れてくるのは、木が焼ける焦げ臭さ……そして、なにか重く、嫌な感じのする煙。街は炎に包まれ、家々は赤々と燃え、黒煙が空に立ち上る。ヴィオラの目が大きく見開かれ、手にしたものを抱きしめる腕が強張った。何が起こっているのか理解が追いつかず、固まったまま動かないヴィオラを不思議に思った先生はドアに近づき外を見て現状を把握した。するとヴィオラの背をバシンッ!と思いっきり叩き、意識を戻させた。
「シャキッとしな!この様子じゃあ怪我人が大量に出るだろう。私は先に避難するが、お前さんは家族の生存が気になるんだろう?確認してから避難しな。ただし!必ず生きて帰ってくるんだよ?私ら医師はこの街の要なんだからね!」
「――っ!そ、そうですね!私、家の方をみてきます。道中、少しでも救える命があれば応急処置だけ済ませて、先生の元に向かうように伝えます。先生、必ず生きてお会いしましょう…………!行ってきます!」
我に帰ったヴィオラは今の自分ができる最大限の行動と状況判断を瞬時に読み取り行動した。こうして先生とヴィオラはお互い必ず生きて会う事を約束して別れたのだった。走って走って、道中人助けをしてようやく家に辿り着いたヴィオラは家のドアを開け、両親を探し回った。家の中も火が回っており、確認できる場所は限られていた。それでも必死に探し続けるヴィオラ、そんな時視界の端で何かが光ったような気がしてそっと近づくと思わず見てしまった光景に悲鳴を上げてしまう。そこには
――すでに事切れた母親が転がっており、目の前には元自国の兵士が父親の事を刺し殺しているではないか――!
完全に動かなくなる一歩手前で父親が何かを伝えようと唇を必死に動かしているのが見えた。
――逃げろ――。
その言葉の意味を理解したヴィオラは、震える足を必死に動かし何とかその場から逃れることができた。だが、先程の光景が鮮明に頭の中を埋め尽くしていき、耐えきれなくなったヴィオラは大声で泣き叫んだ。
「あ、あ、ああああ!!どうして、こんなことに!私は、どうして!いつも、大切な人を失ってしまうの…………?いや、いやだよぉ!」
ヴィオラの声は炎と共に燃えて灰のように消えていった。
その後、騎士団が到着して大きな争いに発展していくが、絶望的な状況からの勝利は難しく結局自国の王様が降参したと知らされたのは街が崩壊した後だった。行き場を無くし、生きる気力も無くなったヴィオラに一人の騎士隊長が歩み寄ってきた。
「おい、そこの女。お前には今から囮になってもらう。今から敵国の第二部隊がこの近くの調査に訪れるという情報を入手した。だから残った兵士たちで敵討ちに行こうと思う。その為には囮が必要だ。お前も親を殺された恨みを晴らしたくないか?丁度いい、せいぜい役には立ってくれよ?」
そう言うと無理矢理立たされ連行されてしまったヴィオラ。抵抗なんて最初から無意味だとでも言うような強引さに驚きつつも、心の傷が拭いきれず、ただただ言う通りにするしか選択肢はなかったのだった。しばらく歩いていると広い荒野に出て、その景色をボーっと眺めていた次の瞬間、強い力で突き飛ばされたヴィオラは思わず目を閉じてしまい、次に目を開けるとそこには誰もいなかった。ヴィオラの手元に鋭利な刃物を残して、皆、どこかに消えてしまった。戦場で一人にされてしまったヴィオラ。それはまるで自分に人を殺せと言われているようで、思わず身体が震えてしまった。そうしてしばらくうずくまっていると不意に声をかけられた。見上げると敵国の鎧をまとった人物であった。
「君、こんなところにいたら危ないよ?僕と一緒に保護テントまで行こう?」
「……ごめんなさい」
目の前の人物に殺されるかもしれない恐怖と囮作戦を失敗すれば、騎士隊長からどんな仕打ちを受けるか分からない恐怖が混ざり合い、ヴィオラは謝るしか出来なかった。謝り続けるヴィオラに目の前の騎士は困ったようにそれでも優しそうな雰囲気を感じた。少しずつ呼吸を整えて落ち着こうとするヴィオラの元に仲間の騎士が敵国の騎士に対して奇襲をかけたが、上手くかわされてしまい奇襲作戦は虚しく終わり、仕舞いには応援まで来てしまった。激しい争いの中ふと騎士隊長がこちらに視線を投げてきた。鋭い視線に怯えてしまったヴィオラは震える手で渡されていた刃物を握り、騎士隊長と戦っている敵国の騎士へと近づき、背中に刃物を突き立て刺してしまった。その時、初めて相手の顔を見たヴィオラは驚きと困惑、そして絶望の感情が押し寄せてきた。
「ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい!!」
何に対して謝っているのか自分でもわからないヴィオラ、一つだけ確かなことは刺した相手はずっと片思いしていた少年のアリスターだったという事…………。
気がつけば辺りは静かになり、周りを見渡すと、生き残っている者は自分しかいなかった。ヴィオラはこれ以上ない程の絶望を味わい、もう生きる希望も目的もないと悟り自害しようと落ちていた剣をゆっくり手に取り首に当てた。その時、微かに呻き声が聞こえた。慌てて振り返るとアリスターがまだ生きていた。ヴィオラは急いで近づき安否を確認しようと覗き込んだ時、彼の手が頬に触れ、その微かな温もりに安心感を覚えたヴィオラは先程までの喪失感が消えて光が戻ってきていた。そしてアリスターはヴィオラの無事を確認すると消えいるような声で
「君が…………無事で……よかった…………」
と言い静かな眠りに落ちた。
ヴィオラは今までに感じたことのない感情が身体中を駆け巡った。最愛の人に再会し、自分の事を守ってくれた喜びと最愛の人を刺してしまった罪悪感に心が押しつぶされそうになる。どうにか思考を巡らせて彼を救い出す方法を探し出すヴィオラ。ふと先生が教えてくれた一つの薬が頭をよぎる。それは絶対に作り出してはいけない„不老不死の薬“だった。今まで本物が作られた形跡はなく、失敗すれば不老にも不死にもなれず薬が体中の細胞を破壊し、最後は悲惨な死を迎えるだけという毒薬でもあり、一部の医師しか知らないものだった。
「…………それでも私は貴方を救いたい!貴方と生きたい!私が、私だけが!貴方の一番でいたい!私の初恋、最愛の人。死なせない、絶対に死なせない!どんな事をしてでも貴方を救って見せる!……だから、今度こそ、貴方に私の思いを伝えさせて?」
揺るぎない目を浮かばせ、しっかりとした足取りで進み出したヴィオラは先生が待つ山奥の診療所までアリスターを連れて帰り、死なせないために„不老不死の薬“を調合し少しずつ体になじませていく。肉体が薬に耐え切れず崩れていけば機械で一部を補強していく。約二年間、傷ついた怪我の治療と崩壊した肉体の補強を繰り返し治療に専念したヴィオラはようやく彼を完全に治すことに成功したのだった。少々危ない所から入手した代物に先生はヴィオラの正気を疑ったが、結局止めても無駄だと判断し、余計な口は出さないようにしたのだった。薬の効果が切れるまでは安心できないと思ったヴィオラは更に材料を調達しに部屋を後にした。三十分後に部屋に戻るとなんとアリスターが目を覚ましていた。
「――!目が覚めたのね!どこか痛いところはない?ある程度処置はしたのだけれど、完全ではないから…………」
「大丈夫だよ。どこも痛くないし、さっきまでの痛みがまるで嘘みたいだ、君が助けてくれたのかい?ありがとう。僕の命を救ってくれて、でもどうやったんだい?僕はあの時死にかけで、もう助からないと思ったのに…………」
「…………あ、う、その……ごめんなさい。あの時、心臓を刺された貴方を救うことは出来なかった。だから、„不老不死の薬“を使って貴方の命を繋いだの。でも薬事態完全なものじゃないから、崩れていく肉体を機械に変えて、心臓を付け替えるしか方法がなかった――!貴方を人間のまま救うことが出来なかった……ごめんなさい」
「それって、つまり僕は今機械人間に近い、そう言いたいんだね?でも、そこまでして僕を救う理由ってなんだい?」
「……貴方は覚えてないのかもしれない。でも、私はあの時確かに貴方に一目惚れをした。ずっと貴方を思い続けていた、それだけで十分貴方を救う理由になるわ。知ってる?恋はね、人生を狂わせる呪いなのよ?私はずっと貴方を愛していたわ…………」
やはり、自分のことを覚えていないと分かり悲しい反面あの時言えなかった告白をようやく言える喜びを噛み締めるヴィオラ。そんなヴィオラにアリスターはあの頃と変わらない優しさで言葉を返した。
「…………その、助けてくれたことに関しては本当に感謝している。でも、君のその告白には今の僕じゃ、ちゃんとした答えが出そうにない。だって今の僕は恋を知らないから……だから、いつか、君に返事を送るよ。それまで君が恋について教えてくれないかな?」
「〜っ!……ええ!もちろんよ!一緒に学んでいきましょう!」
思ってもみなかった言葉にヴィオラは今度こそアリスターと結ばれるという期待を胸に毎日を過ごすことになる。私にとって恋は楽しいものなのだ。盲目で時に周りが見えなくなるけどそれでも彼のためならなんだってできる!彼という名の原動力で私は今を楽しく生きている。
ここまで読んでいただきありがとうございます。
もうお気づきの方もいるかも知れませんが、実はここまでの話はバラバラのようで一つの時系列として繋がっていたのです!
それぞれの出会い方と思いを全部別視点で表現してみました。皆さんはどの感情が好きですか?
それでは次回もよろしくお願いします!




