悲しい色
次回は明日20時〜更新予定です
とある国に一人の王子が生まれた。初めてできた我が子に王様もお妃様も大喜び、国中がお祭り騒ぎだった。二人は王子にホロウという名前をつけ大層可愛がり、大事に大事に育てられすくすく成長していった。やがてホロウは六歳の誕生日を迎えた。
「私の可愛いホロウ、今年は何が欲しいんだい?」
「何でも言ってごらん?お前が望むならどんなものでも用意しよう」
ホロウの誕生日の日には決まって同じセリフを言う王様とお妃様。ホロウはそれが面白くなく、子供心もあったため二人を困らそうと思い言った。
「では、このおしろの„地下室のかぎ“をぼくにゆずってくれますか?」
すると二人は見たことが無いくらいの無表情になり、黙り込んでしまった。静寂が空間を包み込み暖かかった部屋が急激に冷えていくような感覚になったホロウ。怖くなり慌てて二人に弁明する。
「う……うそです!本当はくまさんのぬいぐるみがほしいです!」
「そうなのね!じゃあ沢山のぬいぐるみを用意しましょう!一人じゃ寂しいものね!」
「そうだな、それがいい」
さっきの出来事が嘘みたいに明るいいつもの優しい二人に戻った。冗談で言った地下室は噂程度にしか聞いていなかったのもあり、ホロウ自体本当にあると思っていなかったしそこまで気にしていなかったけれど、王様とお妃様の二人の反応を見るに絶対に言えないような秘密が隠されているかもしれないと思ったホロウは二人には内緒で地下室の調査をしてみようと思った。以来二人のいない時間を見計らって王宮内を探索するのだが、なかなか見つからず時間だけが流れていった。
月日は流れ、ホロウは十五歳になった。子供の頃にしていた遊びを辞めさせられ次期王になる為の知識や技術、さまざまな事を学ばされていたホロウ。だが、そんな縛られた日々のなか、まだ子供心が残っていたホロウは指導員の目を盗み王宮の外へと飛び出した。
「ずっと王宮にいるのも疲れるな……さて!どこを探検しようかな〜」
街中、森、湖、色々探索して、いったん休憩しようと座り込んだホロウは何やら視線を感じとり、振り返ると小さな子供がこちらを観察していた。その子の見た目はとてもボロボロで今まで出会ってきた人たちみたいに綺麗とは言えなかったが、その子の瞳は誰よりも青く綺麗だった。
「え、と……き、君、どうしたの?迷子かな?お父さんとお母さんは……?」
「いないよ。ボクきづいたらひとりぼっちになってたの、だれもボクのおはなしきいてくれなくて、おともだちにもむしされちゃった……ねぇ、おにいさんはなんでボクにこえをかけたの?」
真っ直ぐとした瞳は全てを見透かされているみたいで思わずたじろんでしまいそうになるホロウだったが、子供ならではの純粋な疑問にちゃんと答えるべく立ち上がりゆっくりと子供の方に歩みを進め、子供の前まで来ると目線を合わせて慎重に答える。
「……俺は、君のその瞳に惹かれたんだよ。君の瞳が輝いて見えたから、知りたくなって声をかけたんだ。ねぇ、教えて?君はどうしてこんな場所にいるんだ?」
「……ボクねいっかいだけこえをかけてもらえたんだ!そのひとのおとしものをとどけてあげたときに。でも、ぬすっとっていわれてたたかれちゃった……ほかのおともだちはいろんなひとからたべものとかぬすんでて、ダメだよっていったらおこられちゃった…………おにいさんもボクのことおこるの?」
「…………っ怒らないよ。大丈夫、今までよく頑張ったね…君がした行動は間違っていない、決して盗みや、人を傷つけるようなことはしちゃいけない。いいかい?今から俺が言った事をしてごらん。そうすれば、君はひとりぼっちじゃなくなるよ」
ホロウはボロボロの子供に助言をした。困っている人を助けること、どんな人でも優しくすること、それを教えることが今のホロウにとってこの子供にしてあげれる最大限だった。この子を犯罪者にしないために、この子の優しさを失わせないために。ホロウは外に出て、この子に出会って大きな影響を受ける。そして、王になり貧しい者たちを少しでも救ってあげれたらと強く思うのだった。
「そうだ、頑張ってきた君に名前をつけてあげよう。名前がある方が、より親しみやすくなるしね?そうだなぁ…………アリスターなんてどうだい?」
「なまえ、ぼくのなまえ、アリスター…………うん!ぼくはアリスター!ありがとう!おにいさん、ぼくだいじにするね!」
子供は嬉しそうに笑った。その笑顔はまるで太陽みたいだとホロウは思った。
その後、王宮を抜け出したホロウはこっ酷く怒られてしまったが、気持ちを切り替え、今まで以上に勉学に励む。その日から人が変わったような我が子を見た王と妃は寂しさと嬉しさを噛み締め静かに我が子の成長を見守るのだった。そして、さらに五年の月日が流れホロウは二十歳になり、王から認められ後継者に選ばれた。国中の人々はその噂を聞きつけ続々と城に集まり、王の演説を待っている中、ホロウは静かに自国を見渡していた。
『平和の裏側には苦しむ人々がいる…この国は全ての民に平等であったが、本当にそうなのだろうか。もし、貧しい人々がいるのならば、民が安心できるよう父上と共にこの国を……』
「ホロウ様、王より演説の準備ができ次第出席するようにとのこと」
執事の呼びかけに思考をやめ、ゆっくりと歩を進める。この先、どんなに辛い事が起こっても後継人として王と共に国を支え合い生きていこうと決意し、民衆の前に立ち、言葉を紡ごうとしたその時、悲鳴が聞こえ振り返ると後ろにいた騎士が王と妃に剣を振り下ろしていた。目の前で赤色の血が広がり、唖然とする中、兵に取り押さえられた騎士が声を荒げる。
「俺の家族を奪った、俺の未来を潰した、お前らのせいで俺の人生は散々だ!だから敵国に寝返り、この国に復讐するのだ!この国の滅びを願って!」
ホロウは頭がついていけず横たわる両親を見つめるだけしかできなかった。国民がざわめき出し、兵たちが不安な顔を浮かべている。今の状況でこの国を導けるのはホロウしかいない。ひしひしと伝わる空気感にホロウはようやく民衆の方を向き直した。そして何かを決意するかのように剣を抜き裏切った騎士の首を刎ね、血濡れた剣を高く突き上げ叫ぶ。
「恐れるな!我が国はまだ終わってなどいない!王がいないから主導者がいない?なら、今日から私がこの国の王となろう!私は君たち国民のためならこの命すら賭けられる!黙って私について来い!!」
どこからか拍手が聞こえてくる。それは次第に歓声へと変わっていった。この国に新たな王が誕生した、多くの期待と願いを背負う哀れな王様が。その後両親の葬儀を行い、三日がたった。多くの期待を真正面から受け取ったホロウは内心不安に駆られていた。この先どう国民を導けばいいのか、どうやってこの国を守っていけばいいのか、誰にも相談できずただただ苦しい時間だけが流れていく。王としての責任や周りの期待に押し潰され、逃げるように、縋るように両親の墓にたびたび訪れては自分の不甲斐なさに嘆く毎日。そんな日々を繰り返していくうちにとうとうホロウに限界がきてしまう。まともに食事も取れず、眠れない夜を過ごすホロウ。そんなホロウを見かねた執事長はホロウにとある資料を渡した。それは他国に関する資料だった。
「旦那様と奥様が亡くなられ、自分一人でこの国を、民を導かなければならない。その強き御心は旦那様に似たのでしょう。ですが、今の迷子のような貴方様を導くのは誰がするのですか?少しは冷静になられて下さい。私も兵士たちも貴方様のためにここにいるのです。国民たちにはうまく誤魔化しておきましょう。ですが、随時伝書鳩でのやり取りはお忘れなきように」
「…………私はそんな酷い顔をしていたのか……ありがとう執事長。そうだな、思考を変えるためには他国に行くのもやぶさかでは無いな」
元々一人で冒険に出ていろんなところを観察するのが大好きだったホロウ、それを昔から知っていた執事長は王という身分を一時的に忘れさせるため、世間には
『国の発展のため、王は外交にて世界中を飛び回っているので長らくの不在』
という知らせを国中に流し、旅の用意までしてくれた。ホロウの身を案じ、少しでも今の状況から抜け出して欲しいという意味を込めて。そんな執事長の心配に自分が今のままでは余計に民を不安にさせかねないと気づいたホロウは翌日変装をして執事長に見送られ静かに国を出たのだった。
隣国に偵察に来たホロウは黒いマントを羽織り旅人を装って街中を歩いていた。すると薄暗い路地裏から子供の声が聞こえてくる。ホロウは気になり、ゆっくりと声のする方へ歩いて行くと二人の少年少女が言い争っていた。少女の方はところどころ殴られたうな傷がありボロボロだったが、少年の方は衣服こそボロボロだが、傷は全くと言っていいほど少ない。そんな二人をしばらく遠くの方で見ていると少女が少年に怒鳴りつけ、無理矢理体を起こして少年から逃げるように去っていった。そんな二人を見ていたホロウは去っていった少女が心配になりこっそり跡を追う。
少女を追って辿り着いた場所はボロい小屋がポツンとあった。ここはもしかしたら少女の家かもしれない、と思ったホロウは少女に見えない場所に隠れて少女が来るのを待った。数分たった時、ゆっくりと歩いてくる少女の姿が見えた。ボロボロの姿で悔しそうに強くなりたいと叫ぶ少女を見てホロウはこの子を助けてやりたいと思う。数日間少女を見守っていたが、とうとう我慢できず少女に話しかけた。
「……お前、強くなりたいか?誰にも負けない強さが欲しいか?」
「――っ!どうしてそれを……!あんた何者なんだ!」
「私の名前はホロウ……しがない旅人さ」
ホロウは少女を見た時から自分がこの子を育てようと決めていたのだ。弟子なんてとったこともなければ剣が強いかと言われればそうではないが、今この子には教えを与えてあげる存在が必要だと思ったホロウはあえて、強者のような立ち振る舞いをして少女の気を引いた。そうすればこの子は今の生活から抜け出せるのではと考えたホロウ。結果は成功し、少女はホロウの弟子となり名前を与えることができたのだった。こうして、少女エルダとの生活が続いた。
伝書鳩を使い王の仕事をしながらエルダとの生活して、約十年と長い月日がたったある日のこと、突然連絡が途絶える。――自国で何かあったのでは――と不安になるホロウ。そこで最後の試練と言いエルダと手合わせをして、エルダが自分から一本取ることができればホロウは自国に帰ろうと決意した。お互い寂しいところもあるが、今この時だけは真剣に向き合い剣で応え合うのだった。そしてエルダと別れたホロウは急いで国を出た。自国の無事を案じ、不安が胸を締め付ける。焦燥に駆られ、気づけば足は無意識に速さを増していた。やがて自国に帰ったホロウが目にしたのは、火の海と化した国の惨状だった。
轟々と燃え盛る国、逃げ惑う人々、最初は目を疑ったがこれは現実で、この国が今終わろうとしていることだけは見て取れる。困惑したホロウは逃げる人を捕まえて何があったか聞き出す。
「おい、そこの者!一体この国に何があった!?なぜこうなっているのだ!?」
「あんた旅人かい!悪い事は言わないが、今すぐここから逃げた方がいい!敵国がこの国を滅ぼしに来ている!」
„敵国“それは前王を殺した騎士が寝返った国であった。まだ正式な国が分らない以上うかつに動けない為、警備は厳重にしていたはず、なぜここまで追い込まれたのか…………とホロウは思考を巡らせある一つの仮説にたどり着いた。それは想像もしたくない事だった。ホロウは大急ぎで城に向かう。周りの声を振り切って城にたどり着く。重い扉を開け、目にしたものは敵の騎士に膝まづく執事長の姿だった。そう、ホロウはまた裏切られたのだった。
「お待ちしておりました。第三部隊隊長様、あとはこの国の核となる情報を手に入れればこの国はもうじき終わることでしょう」
「ふむ、ご苦労だった。しかしお前も難儀なものだな、小さいころから支えてきた王家を裏切るのだからな。さぞ辛かろう、まぁ安心しろ。もうじき終わる頃だろう……なぁ?ホロウ様」
「――!ホロウ様!?なぜ、お戻りに!?当初の予定だとお帰りはまだ先なはず……」
「…………執事長?なぜ、ここに敵国がいる?なぜ、お前は敵の騎士隊長と共にいる?答えよ!!お前もこの国を…………私を裏切るというのか!」
「……私は」
「そうだとも!こいつは我が国の暗殺部隊の隊長!裏切るも何も初めから全部嘘なのだから!」
敵によって知らされた真実。それは最初から全て仕組まれていたのだった。王の暗殺も、兵の裏切りも、全て敵国がこの国を最初から亡ぼすためのものだったということを。聞けば聞くほど知れば知るほど、ホロウの頭は冷めていき目の前が真っ暗になっていく。
「っと少し話過ぎたか…………まぁ良い、おい、暗殺隊長!ホロウ王の最後はお前がやれ。今まで世話してもらった奴に殺される方がホロウ王も喜ぶだろう!」
戸惑う執事長、高らかに声を上げる敵、唖然と立ち尽くす自分。敵が何を言っているのか理解できない半面これだけは理解できた。
――――ああ、自分は二度も裏切られたのか――――。
グサッ!
「…………っ!ホロウさ……ま?」
気が付けばホロウは執事長に剣を振り下ろしていた。
「…………そうか、私はまた、間違えてしまったのだな……執事長、すまなかったな。今までこの国に縛り付けてしまって……」
過去のことを忘れるようにもう何も見たくないという悲痛な思いを乗せた剣はかすかに震えていたのだった。
しばしの静寂があたりを包み込む、高らかに声を上げ静寂を破ったのは敵の騎士隊長だった。
「はははは!まさか、あの冷酷で有名な暗殺隊長が人に情を持つとは!…………だが、お前の最後は変わらない。貴様はここで死ぬ運命なのだからな!」
そう叫び切りかかってきた敵の騎士隊長に対してホロウは静かに立ち回る。長期戦になった打ち合いはしびれを切らした敵の騎士隊長がとどめだといわんばかりに大きく剣を振り下ろしたその時、ホロウが刺し殺すよりも先に相手が倒れこんだのだった。驚き、ゆっくりと顔を上げた。そこにはなんと執事長が瀕死の状態で立っており手に持つ剣は敵騎士の心臓を貫いていた。
「お前…………どうして……!」
「…………私は確かに……貴方様をこの国を裏切っておりました……ですが、私の敵討ちは貴方様ではなく敵国……我が国であります。……どうか、この国の真実と救いを……必ずやこの国に勝利と平和を……私はこの国の……王の……笑顔が……」
そういうとホロウに鍵を渡した後執事長はこと切れた。安らかに眠る執事長にホロウは静かに一凛の花を手向ける。
「……今の私は二度も裏切られた、その事実は変わらぬ。だが、かつての私はお前の願いを一度も叶えてやれなかった……お前のその願い、必ず叶えてやろう。それが、幼き頃の私の願いだったからな……私をここまで育ててくれてありがとう。執事長よ、どうか安らかに……」
血に濡れたホールは再び静寂を取り戻した。外では今もなお、悲鳴がこだまし、建物が燃え盛る音が絶え間なくい響いている。その音を背にホロウは歩き出す、過去に両親たちが隠していた秘密とこの国が持つ真実を知るために…………。
長い廊下を歩いていくと、古びた扉が一つあるのが見えた。そこはホロウが幼い頃に見つけられなかった地下室へと続く扉だった。執事長から渡された鍵を差し込み、長い長い階段を歩いていくと鉄扉に挟まれた部屋があった。力づくで無理やり扉をこじ開けるとそこに広がっていたのは、一面が白で覆われた部屋だった。床には無造作に散らばった紙や本、怪しげな実験器具が点在し、壁にもたれかかる一体の亡骸が静かに佇んでいた。その中でもひと際目立つボロボロの本を手に取る。どうやらそれは先祖代々から続いているらしい手記で、どうやら親の代で終わっているみたいだった。ホロウは一つ一つ読んでいく。
〈× ×年〇月×日 今日からこの国の王に就任した。この国はできたばかりで人も少なく、今はまだ小さな都市にすぎないが、いずれ大きく成長させて見せる。国民が安心して暮らせるような国を私は作ろうと思う。〉
という文から始まり、そこからはこの国の発展から外部との同盟や何気ない話などが続いていたが、とあるページを見てホロウは読み進める手を止めた。
〈× ×年〇月▽日 失敗した、我々が隣国の者たちと協力して行っていた万能薬の実験、あんなもののどこが万能だろうか!何百人との死者を出していながら、いつまでたっても結果がでないではないか!しかも隣国はそのことを言わず偽装していた。何が協力だ!こんなもの裏切りと変わらないではないか。もしや人材が欲しいといわれたあれは…………ああ、私は何ということを!すまない、わが愛しの国民たちよ…… すまない、すまない。〉
〈× ×年〇月△日 ……あれから隣国について情報を探るため極秘部隊を派遣した。帰ってきた家臣はたったの一人だけ。しかも、ボロボロの状態で……何とか意識を取り戻したころに聞いたのは自分以外の部隊は全滅したとのこと、そして隣国はこの国を実験に利用するためだけに同盟を組んだだけであった。最初から仕組まれていたのか。……我々は直ちに隣国との同盟を解消することにした。そして二度とこんな悲劇が起きぬように隣国との戦争を決意した。〉
〈ああ、なんということだ!やつら実験のことを我が国の主導だと偽装してきた。嘘の証拠を突き付けられ我々は成すすべがなかった、我が国が罪を被ることになってしまった…………ああ、嘆かわしい。この先の未来あるこの国に罪深き呪いをかけてしまうことを……哀れな王を許してくれ……。〉
そのあとも謝罪の言葉は続いていき、そして最後の文には力ない言葉が綴られていた。
〈× ×年〇月×日 これは私が始めた大罪だった。この国は自然にあふれ、技術が進歩し、私が描いた理想の国に近づいていた。だが、常にどこかで犠牲はついてきていたのだ。そのことに気づけなかったのは私の落ち度だ。隣国との同盟を交わした日の夜、私はとある薬に手を出した。それは肉体と魂を分離し、肉体には永遠の時を魂には永遠の命を付与させるという言わば„不老不死“と呼ばれるもの。まさに世界に一つしかないものを作り出してしまい、更なる発展を目指し隣国に薬の情報を提供した。それがいけなかった。あれは世に出てはいけないものだ。人を狂わせてしまう。思えば、隣国の王はこの薬の存在を知るや否や、万能薬の生成に協力するよう強く促してきた。この薬が存在する限り、この争いは終わらない……。未来の王よ、いつの日か薬の存在と共に私が愛したこの国を亡ぼしてほしい。哀れな王を許してくれ、罪深い私を許してくれ……ああ、最後はこんな薄暗い部屋で一人……この薬を守りながら死ぬことになるとは……哀れだ〉
日記はここで終わっており、すべてを知ってしまったホロウは傷心していた。そしてゆっくりと顔を上げると亡骸の近くの壁にはめ込まれた箱がそこにはあった。
「……そうか、全ての始まりはこの薬が……だが、この薬を捨ててもこの戦いは……きっと…………なら、私の代で終わらしてしまおう。私は王で、国でもある。共に終わろうじゃないか。今の私にはこの選択しかないのだから」
そういうとホロウは薬を持ち城を焼き始めた。そして、ベランダに出ると高らかに声を上げ、国民たちにこの国の終わりを告げる。
「ああ、愛しき国民たちよ!我が国はもうじき終わりを告げる。だが、恐れることはない。これは長きにわたる敵国との戦争に終わりが来たということだ!私は王として、国として終わろう。大罪を被るのは私一人で十分だ……」
最後は消え入るような声で言うホロウ、人々に声が聞こえたのか分らぬまま燃え盛る炎に国が包まれていく。それを眺めながら、静かに下へとホロウは身を投げた。最後、流れる星が見えた気がした。
辺りが静まり返る中、重い瞼を開けたホロウは痛む体を無理やり起こし辺りを見回した。すっかり焼け野原になってしまった国、周りには人っこ一人おらず襲い掛かってきた敵国も引き上げており、ホロウだけがこの地に立っていた。
「……また、私は…………裏切られたのか」
悲しい瞳を浮かばせて、呟やいたホロウの手には空の瓶が握られていた……。私は裏切られ続け、人々の願いも叶えられない哀れな王。あれから十年経った今でも死ぬことができないでいる。




