第8話:ヴォルテール邸 応接室にて
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私とジョシュアはテーブルを挟んでお父様と向かいあっている。広い方の応接室で、オリビアが来るのを待っている。なぜか上座のソファーの方があいていた。
季節は冬に差しかかろうとしていた。
学生生活の行事は、卒業式を残すのみとなっていた。
昨日、お父様から私とジョシュアの婚約を正式なものにすると言われた。すでに両家での話し合いは済んでいる。今日は、ジョシュアの婿入りにあたってのいくつかの確認と、オリビアへの報告だそうだ。オリビアとは夏季休暇のころからあまり話をしていない。最近は帰りも遅いし一体なにをやっているのかしら?オリビアからもなにか報告があるらしい。
オリビアがあらわれた。
「お父様、まだ少し時間がかかるようです」
「そうか。では先に話をして待っていようか。オリビア、一旦座りなさい」
オリビアが上座に腰かけた。お父様は何も言わない。
「オリビア、ジョシュア君が正式にヴォルテール家に婿入りしてくれることが決まったよ」
「おめでとうございます」
私は次に続く言葉を待った。・・・・オリビアは一言だけで、それ以上何も言わない。
「ま、待って、オリビア。あなたそれでいいのかしら?本来なら私が継ぐべきなんでしょうけど、あなたは体が弱いじゃない。私ではなくて、あなたが家に残ったほうが・・・」
「リリアナ、もうオリビアの心配はしなくていいんだよ。自分の婚約の時まで妹の心配をするとは、相変わらずリリアナは良き姉だな」
私が言いかけるのをお父様は笑いながら遮った。
「でもオリビア、私はお父様がそうおっしゃってもあなたの気持ちを大事にしたいのよ。あなたはいつもジョシュアを頼りにしていたじゃない。私と結婚してしまったら、あなたが困ってしまうんじゃないかと心配で・・・」
「リリアナ。オリビアの心配は本当にもうしなくていいんだよ」
お父様は笑みを浮かべたまま、少し強めに言った。
「お姉さま、私、ジョシュア様がお兄様になってくれて本当に嬉しいのです。姉だけでなくお兄様もできてとても幸せです。ジョシュア様、姉のことをよろしくお願いいたします」
・・・・変だわ。
いつものオリビアとは違う。言葉に隙がなくて、拾える言葉がない。
こんな肝心なときに・・・!
そんな私たちの様子をジョシュアはじっと黙って見ていた。
コンコン。
「失礼いたします。アラン・シュナイゼル様がいらっしゃいました」
え!?アラン様?今たしかにそう言ったわよね。
執事の声に、お父様が立ち上がり、オリビアはドアの方へ歩いていく。
戸惑っていると、颯爽とアラン様が部屋に入ってきた。
「遅くなりました。王宮の手続きに時間がかかってしまって」
私は、一瞬胸が高鳴ったが、アラン様の次の言葉に打ちのめされた。
「オリビア、今日からは正式に婚約者だよ」
なっ!!!
・・・・・・
「どういうことですの?」
ソファーに全員座ると 私は動揺を悟られないようにたずねた。
「リリアナ、アラン様とオリビアの婚約が決まったのだよ」
どうして!?どうしてアラン様とオリビアなの?
「オリビアとアラン様に面識があるなんて全く存じませんでしたわ」
「オリビアとは、たまたま図書館で知り合って話すようになったんだよ」
”たまたま話すようになった”ですって?私は何度も話しかけていましたのに?
「オリビアは、あと5年も学園生活が残っていますわ。5年もアラン様に待っていただくのですか?」
そう、アラン様のためを思って言うわ。私は、きつい口調にならないように注意した。
「それなら大丈夫だ。オリビアは頑張っててな、飛び級したんだよ。次は4年生になるんだ。つまりあと3年で学校を終える。5年6年は、論文提出、実務認定、いろいろ認められるから無理に学園に通う必要もなくなるからな」
お父様は事も無げにあっさりと言った。
「なっ!あなたいつの間に!どうやって?」
そんなはずない!他の人より出遅れているのに。
「静養中、ずっとおじい様に勉強を教わっていたんです。夏季休暇中も。おじい様、自分のせいで勉学が遅れるのは悪いからって。私も同じ年の人たちに追いつきたくて頑張りました」
オリビアがにっこり笑う。
おじい様!!
私は震えそうになるのを抑えながら聞いた。
「それでも、3年もお待たせするの?」
「リリアナ嬢、ご心配には及ばない。俺もシュナイゼル領に戻る前に王宮の事務官として修業期間があるから、オリビアと一緒に過ごすことはできる」
アラン様がオリビアを愛おし気に見つめながら言った。
こちらを向いたアラン様は、微笑んでいるけど目線は冷たかった。
私は、なおも振り絞った。
「でもオリビアは病弱・・・」
「本当におめでとうございます!お二人はとてもお似合いで素敵です」
私の言葉は、ジョシュアによって阻まれた。
ジョシュアの手が私の背中に添えられた。
「ありがとう。君たちも」
アラン様は力強く微笑んだ。
どうして?
こんなのおかしい!
オリビアは譲られるべきなのに!
「どうして、・・・どうして今まで私には知らされなかったのですか?」
お父様が申し訳なさそうに答える。
「それについてはすまなかった。妹思いのリリアナにオリビアの婚約について何も伝えていなくて。だが、アラン様は王族でいらっしゃる。王族法が適用される故、今日まで口にすることができなかったんだ。特にアラン様の場合、適用される王族法は、王子のご誕生後に変わるから、軽々しく口にするわけにはいかなかったんだよ。そして今日、正式な手続きが完了したからやっと言えるようになったんだ」
王族法・・・・!
この決定は、王命なの?
決して覆ることはないってこと?
どうしてこんなことになってしまったの?
その後の会話は覚えていない。
気が付くと、部屋には私とジョシュアだけになっていた。




