第9話:ジョシュアの回想
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「リリアナ、ルイーズとモニカは寝たのか?・・・・・なんだ、疲れて寝ちゃったのか」
リリアナは3才になる双子の娘たちを寝かしつけて一緒に寝てしまったらしい。
結婚当初は沈んでいたリリアナも、今は良きお母さんになろうと毎日頑張っている。
いつもありがとう。お疲れ様。
この子たちはこの先どんな姉妹に育っていくのか楽しみだよ。
僕の姉たちみたいに騒がしい女性にならないでほしいな。
♢♢
それにしても・・・・あの時は参ったな。
僕と結婚するのがそんなに嫌なのかとショックだったよ。
お義父さんと、アラン様とオリビアが出て行ったあと、君は放心していたね。
王族法かぁ。
王位継承権第3位までの婚姻は貴族院が推薦した婚約者候補から決定し、国王の承認を得ること
王位継承権第4位以下の婚姻は国王の承認を得ること
いずれも承認後は王宮事務官に速やかに申請し手続きを行うこと
だったかな?
あの時は、アラン様は微妙な立場だったんだよなぁ。自分の婚約者を自分で選んでよいのか、貴族院の推薦を受けないといけないのか・・。王太子殿下に王子が誕生し、王位継承権第4位になり、やっと身動きが取れるようになったんだよな。貴族の結婚も自由意志というわけではないけど、王族は本当に大変だよ。
と言っても、アラン様は継承権が変わる前から、オリビアに決めていたみたいだけど。継承権が変わったら、婚約者の名乗りを上げようと狙っていた貴族家は、婚約発表を聞いて明らかにガッカリしていたな。
それにしても、オリビアには驚かされたよ。あの頼りなさそうなオリビアが辺境伯領に受け入れられるなんて。宝石と生地の都シュナイゼル領は、職人が動かす街とも言われている。一見華やかだけど、クセの強い職人たちを治めていかなきゃならないんだから領主は大変だよ。それ以上に大変なのは、直接街の人に関わることが多い領主婦人。まさかオリビアが次期領主婦人として、すんなり職人たちに歓迎されるとは!
リリアナは、あれ以上続けていたらまずいことになっていただろうな。”妹思いの良き姉”と言い訳できる範囲を超えるところだった。
あの場では、表立って言うことはできず、”もうやめよう”という意味をこめてリリアナの背中に手を添えることしかできなかった。皆が部屋を出た後も、涙に気付かないふりをして、リリアナの背中をトントンするぐらいしかできなかったな。リリアナは、本当に誰にも気づかれていないと思っていたんだろうか。
いつのころからか、君は自分の気に入らないものは、オリビアに譲るという形で押し付けるようになったね。最初は、なんでそんなに自分がもらったものを妹に譲るのかわからなかったよ。僕と兄の間には3人の姉がいるが、欲しいものは取っ組み合いのけんかをするぐらいに取り合っていた。それなのに、こんな天使みたいな子がいるのかと不思議でしょうがなかった。
気になって、ずっと君を目で追っていたよ。そして気が付いた。君は自分が気に入っているものは妹に譲らない。好みに合わないものだけを妹に譲る。
気が付いたときは衝撃的だったよ。すごいな。周りの心を操ってって。直情的な姉たちを見慣れていたせいか、なんて賢い子なんだろうって感動した。それからずっと君を見ている。オリビアはどう感じているのか気になって観察してみたが、いつもボーっと何かを見ていて、何を考えているかよくわからなかった。
君と僕に婚約話が出たとき、君が僕と婚約したくないのはすぐわかったよ。いつものようにオリビアへ話を振ろうとしていたね。でも8歳のオリビアは幼くて、ただボーっと母上のブローチを見ているだけで、婚約話に無関心だった。父親たちは気づかなかったようだけど、母親たちは君が乗り気じゃないのに気づいていたよ。だから、学園で他に出会いがあった場合はなんて、猶予期間を提案してくれたんだよ。この猶予期間の間に、貴族の結婚と責任を理解できるようになるだろうって。母たちも、親が決めた結婚はすぐ受け入れられるものじゃないって知っていたからね。
君が望まないなら仕方がないとは思ったけど、ブローチをオリビアに譲られたのは、本当にショックだったな。僕の思いを伝えたつもりだったんだけど、完全に空振りに終わったよ。
僕はリリアナのことがずっと好きだった。ヴォルテール家に婿入りすると言われたとき、絶対リリアナがいいと思った。だからこそ、リリアナの望みが叶うならそれでいいと思って黙って見守ってきた。でも近頃思う。それは間違いだったのではないかと。僕が気持ちをはっきり伝えていた方が、リリアナは思い切れたんじゃないかと。
ルイーズとモニカを見ていると、特にそう思う。
伝えるべき時に伝えなければと。
♢♢
「ううん、あら、私また寝ちゃった?ダメだわ。横になるとつい・・・」
リリアナは眠そうな目を無理に開けて、ゆっくりと起き上がった。立ち上がったリリアナをそっと抱きしめる。
「ジョシュア?どうしたの?」
「・・・・・リリアナが愛おしくて」
「なあに?急に・・・・・・」
「君は・・・いつも頑張ってくれているのに、僕は君にきちんと伝えてなかったね」
「え?」
「僕はね・・・いつも頑張っている君が好きだ。でも、そうじゃないときの君も好きなんだ。僕と結婚してくれて本当にありがとう」
「ジョシュア・・・・」
「リリアナ、愛してる」
ルイーズとモニカの穏やかな寝息が聞こえている。
気がつくと、ふんわり抱きしめ返してくれたリリアナが、優しく背中をトントンしてくれていた。
<了>
最後までお読みいただき誠にありがとうございました!




