第6話:それぞれの緊張
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夏季休暇に入り、私は今祖父の邸宅に来ている。
門のところへ行ったり応接室に行ったりして、私は朝から落ち着かなかった。
「オリビアにしては珍しいな。そんなにソワソワしているのは」
「だっておじい様、自分がデザインしたものが初めて形になるのですよ!しかもそれが誕生日の贈り物になるのですよ!」
「わかった、わかった。オリビアに、大事な贈り物のデザインを任せてくれた彼に、しっかり感謝の意を伝えないといけないな」
「アラン・シュナイゼル様がいらっしゃいました」
執事から声をかけられて、私の心臓は跳ね上がった。
♢♢
「仕上がりはどうかな?」
俺は、緊張で震えているオリビアの手に、今朝工房から受け取ったばかりの髪飾りを渡した。
「本物だわ・・・・!こんな素敵に作ってくださって!」
オリビアは髪飾りをじっと見つめたまま、それ以上言葉が出ないようだった。
「オリビア、ありがとう。君がいてくれたから、こんな素敵な作品になったんだ。工房の職人が、”今度このデザイナーを紹介して”って言っていたよ」
「まあ!そんな、どうしましょう!」
オリビアが照れて、手を頬に当てた。
「アラン様、オリビアに貴重な体験をさせていただき、誠に感謝いたします」
「いえ、こちらこそ突然無理を言ったのに引き受けてくれたこと、感謝しています」
オリビアの祖父ヴォルテール元侯爵に頭を下げられて、俺は少し緊張した。オリビアに男性客、どんなふうに受け止められているのだろうか?
「アラン様、あの少し気になったのですが、この髪飾り、この箱で渡す予定だったのでは?」
工房で渡された箱は、贈り物用に包装されていたが、オリビアに見せるため開けてしまっていた。
「うーん。でもパーティーですぐ身に着けるって言ってたから」
「それはダメです!!私が新しく包装してきます。少しお待ちください」
そういうものなのか?
えっ!オリビア!
俺とヴォルテール元侯爵を部屋に二人で残していくのか?
・・・・・。
・・・一体なにを話せば?
ふと見ると、棚にボードゲームがのっていた。
♢♢
完成品を私に見せようとしてくれたアラン様の優しさはすごく嬉しかったけど、さすがにロゼリア様に開封済みの贈り物を渡すわけにはいかない。
私は、自分の部屋に行き、昔から集めている綺麗なものをしまってある箱をあけた。その中から新品のものを選んで、花の形になるようにラッピングした。受け取った瞬間から喜んでもらいたい。
夢中になって作業をしていたら、思っている以上に時間が経っていた。
あっ!おじい様とアラン様、初対面で二人きりにしてしまったわ!
心配しながら応接室に近づくと、二人の笑い声が聞こえてきた。
「アラン様はなかなかやりますね。久しぶりに手強い相手との対戦でしたよ」
「ありがとうございます。でもヴォルテール元侯爵には及びません。陛下からヴォルテール元侯爵にボードゲームを教わったと聞いています。自分は陛下から教わりました」
「ああ懐かしい。短い間でしたが陛下の家庭教師をしていた時期がございましたね。陛下はとても優秀な方であられるので、こちらが予定していたよりずっと早く課題を終えられていらっしゃった。空いた時間でボードゲームの手ほどきをほんの少し・・・」
「王宮での座学は大変だけど、ヴォルテール侯爵が家庭教師に来る時間は一番楽しい時間だったと聞いています。・・・・・あ、オリビア!どうしたの?入口で立ち止まって」
私は呆気に取られていた。
アラン様とおじい様が、孫と祖父のような親し気な雰囲気になっている!
アラン様は、国王陛下の実子。大丈夫なのかしら。それより、今おじい様、陛下の家庭教師って言ったかしら?なんだか私が席を外しているうちに会話が弾んでいるわ。
テーブルの上には、今対戦が終わったと思われるボードゲームと冷めた紅茶がのっていた。
「オリビア、アラン様のおかげで大変楽しい時間を過ごせたよ。オリビアが戻ってきたのなら、私はここで失礼しよう。アラン様、またいつか対戦できることを楽しみにしております」
「ありがとうございます。今度対戦するときはもっと強くなってきます。次は負けません」
おじい様は、ここ最近みたことがないくらい生き生きとした笑みを浮かべて、部屋を後にした。
「アラン様、ありがとうございます。おじい様のあんなに嬉しそうな姿、久しぶりに見れました」
「いや、俺も楽しかった。ヴォルテール元侯爵は本当にお強いなあ。今度ぜひまた対戦させてほしいな。おおっ、これはすごい!!花が咲いている!さすがオリビアだ。ありがとう」
侍女が入れ替えてくれた紅茶を飲みながら、しばらく話をしたあと、アラン様は
「ロゼリアの反応を伝えに1週間後また来るよ」
と言って帰っていった。
♢♢♢♢
「オリビア、ロゼリアと母上にひどく怒られたよ」
一週間後の早朝、感想を伝えに来たアラン様の言葉に、血の気がサーっと引いた。
「申し訳ございません。お気に召さなかったのですね」
「えっ!?違う!ごめん。俺の言い方が悪かった。ロゼリアは渡した瞬間から喜んでいたんだ。母上も感心していたよ。ロゼリアと母上が怒ったのは、君をパーティに招待しなかったからなんだ。”なんでこんな素晴らしいデザインをしてくれた人をパーティに招待しないんだ。気が利かない”って二人から責め立てられたよ」
「まあ!そうだったんですか。良かった。本当に良かった・・・・・」
私はホッとして思わず泣きそうになってしまった。
「それで今からお茶会に招待したいから連れてくるようにって」
「・・・・・はい?」
今から?
アラン様とおじい様にボードゲームをしてもらっている間に、私は慌てて用意をする。平服でどうぞと言われても、辺境伯家を訪問するのに失礼なことはできない。自宅ではないので十分なことはできなかったが、なんとか身支度を整えた。
「アラン様、オリビアのことよろしくお願いいたします。」
「はい。夕方までオリビアをおあずかりします」
「おじい様、行ってまいります」
夕方まで?
今、朝なのに?
そんな長いお茶会聞いたことない。いえ、こんな朝早くからのお茶会なんて初めてだわ。
私は不思議に思いながらアラン様がのってきた辺境伯家の馬車にのった。




