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5.

 アンジェリーナ皇女にぶつかり、嘲笑した男子生徒達は1カ月の謹慎となった。その間に実家で最低限の礼儀を教育する様に、と王家から通達があったとの事。


 そして、それまでは監視の報告を聞き流していた王も、さすがに皇女に怪我をさせる様な事に成り兼ねない事態に護衛を付ける事にした。


 朝、大使館の馬車から降りたアンジェリーナ皇女は、待っていた侍女に連れられ、学院の本館応接室に向かった。


 フレドリック王子が二人の侍女を紹介した。

「この二人は騎士相当の訓練を受けている。教室外にあなたが出る際にはどちらかが護衛に付く。煩わしいかもしれないが、受け入れて欲しい」

皇女は一瞬戸惑ったが、頭を下げて受け入れた。

「国王陛下とフレドリック殿下のお心遣いに感謝します」


 フレドリックもこれで一安心した。


 一方、悪意ある者達は偽情報を展開した。

『たまたま通りがかって肩がぶつかっただけなのに、通りがかった王子に皇女が泣きついて男子生徒達は謹慎になった』

そもそも外国の皇女に肩をぶつける段階で問題なのだが、それを問題と思っていない者達はその不当さに憤慨した。


 学院では侍女・護衛を連れて歩く事は禁止されていた。皇女が例外として侍女を連れて歩く事も人々の感情を刺激した。

『わざわざ外国に留学に来るなら、ルールくらい守るべきだ』

…それを言うなら外国の皇女を虐めて良いルールなどない。だが、人間の理屈は屁理屈で不公平なものだ。そう言う訳で、王が護衛代わりに侍女を付けた事がかえって周囲の感情を悪化させた。


「と、言う訳で、侍女を付けた事で生徒達の皇女様への感情はかえって悪化しています」

スコット・レズリーの報告に、事態を憂慮しているイアン・ダグラスは思わず語勢が強くなった。

「子供達に外交的な配慮を教えられる貴族はいないと言う事か!?馬鹿揃いなのか、王国貴族達は!」

フレドリックは眉間に皺を寄せながら瞳を閉じたままだった。


 ケント・ブルースが口を開いた。

「戦争をしたという歴史があり、20年程度では恨みを忘れないでしょう。そういう親に育てられた子供達も同じ感情を持つのも仕方がないのではないでしょうか。敗戦と、その際の犠牲の記憶も忘れてはならない事だと思います」

イアンは青筋を立てて言った。

「だからやって来た皇女に恨みをぶつける事が正当だとでも言うのか!?お前等は女性の扱い一つ出来ない未熟者なのか!?」


「イアン、皆の感情論に対して感情的になるなら同類だ。冷静になってくれ」

フレドリックの指摘にイアンも矛を収めた。

「申し訳ありません。ケント、感情的になって悪かった」

「いえ、とんでもないです」


「さて、ケント。皇女ご自身は穏やかな方だった。彼女を虐めて楽しいと思うか?」

「…いえ、むしろ気が引けます」

「むしろ罪悪感を持つだろう?」

「そう思います」

「なら何故虐めが起こる?」

「…弱いもの虐めを娯楽とする者が一定数いるから、と思います」

フレドリックは兄ダリウスの顔を思い浮かべた。抵抗出来ない相手を攻撃するのはあの手の人間達にとっては最高の娯楽なのだろう。


 イアンは吐き捨てた。

「貴族のプライドも何もない愚者揃いか…」


 その頃、アンジェリーナ皇女は1年棟の階段を降りていた。踊り場を回って1階近くを降りている皇女の上からざばっという音がした。前を歩く侍女が気付いて振り返ると、皇女に上から水がかかっているところだった。


 侍女が見上げると、手すりの上からバケツをひっくり返している女生徒がいた。

「何をする!」

侍女の鋭い声に驚いた女生徒は、バランスを崩した。仲間と思われる女生徒達は「キャ―」と声を上げて逃げて行った。


「殿下、失礼!」

棒立ちの皇女の手を引いて自分に倒れかけさせた侍女は、そのまま皇女を抱えて、上から落ちて来るバケツと女生徒に対して背を向けた。


 幸い、女生徒とバケツは侍女にも皇女にも当たらなかった。ガタガタ、どすっという二つの音が階段の周囲に響いた。

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