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4.

 先日のイアン・ダグラスの聞き取りに肝を冷やした生徒達は、一旦虐めから手を引いた。だが、逆に反発心から虐めを激化させた者達がいた。彼等、彼女等は教室以外で虐めをする事にしたらしい。


 皇女の魔法能力は機密扱いな為、魔法実技には参加せず、一人図書室で自習をしていた。


 通路で教室への移動中に一人鞄を抱えて歩いていたアンジェリーナ皇女に、近くを通りがかった男子生徒がすっと歩幅を横に広げ、皇女に肩をぶつけた。

「あっ」

皇女は横に倒れた。


 男子生徒は大声で言った。

「酷いなぁ、皇女様。そちらからぶつかっておいて、被害者みたいに倒れるなんて」

「あんまりだよなぁ、皇女様って言うから憧れてたのに、こんな酷い女だなんて」

ぎゃははは、と男子生徒の連れ達は大笑いした。


 他の生徒達はもう殆どが教室移動を終わっていたので見ていた者は少なかった。ところが、逆に教室に戻る生徒達がいて、その中にフレドリック王子がいた。


「何をしている」

王子の問いかけに男子生徒達は慌てて姿勢を正した。

「ここを通りがかった時、この方と運悪くぶつかってしまいました。少し早足なだけで、普通に歩いていたんです」


 フレドリックが皇女を見ると、身体を曲げて横になったまま地面を向いていた。

「ケント」

「はい」

フレドリックの指示を理解したケント・ブルースが跪いて皇女に右手を差し出した。

「皇女様、王国の者が失礼いたしました。お立ちください」

「…ありがとうございます」

ケントの手を借りて、ようやく皇女は立ち上がった。


 フレドリックは当然、証言を得る必要があった。

「皇女殿下、誠に申し訳ありませんが、状況を教えていただけませんか?」

アンジェリーナ皇女は地面を見たまま答えた。

「意図せず肩がぶつかってしまった様です。ご迷惑をおかけしました」


 フレドリックは以前イアン・ダグラスが口にした言葉を思い出した。

『側妃の娘と言う事で、身の置き場がない』

『我々も信用されていない』

(我々も虐めを行う貴族達、あるいは兄のダリウスの様に手は下さないが相手を見下し、その不幸を喜ぶような人間に見えているのか)

そう思うとフレドリックは思わず二拍、手を叩いた。


 木陰から出て来た平服の男が口を開いた。

「お呼びでしょうか」

「何が起こったか報告しろ」

「男子生徒がいきなり横に動いてアンジェリーナ皇女殿下に肩からぶつかり、皇女殿下が転倒されました」

「交代時間になり次第、陛下に報告せよ」

「分かりました」


 フレドリックは先程証言した学生達に向かって指示を下した。

「君達の偽証が証明された以上、実家に抗議が行く。速やかに担任に報告して自宅で謹慎しろ」

「そんな、我々は本当に意図せずに…」

「王子に偽証をしてただで済むと思っているのか?なら親にそう報告すると良い。王の付けた監視は王の権威の元、客観的な証言を王に行う。この発言を元にする王の判断を疑う者は王を疑う者だ。それを知ってもまだ言い訳をするなら、家ごと処分されると考えよ。さあ、何か他に言う事はあるか?」

男子生徒達は悔しがるやら、怯えるやらで口を開く事が出来なかった。

「言う事が無いなら、動け」

男子生徒達は小走りで教室に向かった。


 フレドリックは皇女に向かって言った。

「皇女殿下、我が国の者達の無礼、誠に申し訳なかった。彼等に代わって謝罪する」

頭を下げたフレドリックに、皇女は慌てて答えた。

「その様な謝罪は不要です。人の心は周囲が変える事は出来ません。かつて戦争をした国に留学に来た以上、この様な事は覚悟の上です」


 そう言う皇女はフレドリックと目を合わせず、地面を見ていた。フレドリックが兄に対しては忖度で、従弟達に対しては劣等感で素直に話せない。それと同種の気後れを感じた。


「皇女殿下、王国と帝国は互いの主権を認める対等の講和条約を結んでいる。だから、帝室を尊重しない者は、講和条約を軽んじる者で、引いては対等の王室を軽んじる者だ。許容する事は出来ない。私は貴女を尊重する、だから貴女と帝国を軽んじる者がいたら、私に報告して欲しいんだ。そんな風に目を逸らさないで欲しい」

「っ、失礼しました」


 皇女は慌ててフレドリックを見た。フレドリックは優しく微笑みかけた。

「せっかく王国に留学していただいたのだ。私はあなたに良い思い出を作って欲しい。だから、何かあったらすぐに話して欲しい」

皇女は一旦地面に視線をやり、すぐ戻して言った。

「ありがとうございます。何かありましたらお話しします」

彼女の少し小さめの鼻が、控え目な皇女に似合う気がした。顔全体的には美貌と言うより可憐と呼ぶべき顔つきだった。


 フレドリックは直接皇女と話せて良かった、そう思った。これまでは形式的な挨拶しかしていなかったんだ。

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