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3.

 国王ウィグムントは、24年前の敗戦の講和条件に先王の退位が含まれていた為、急ぎ即位した男だった。


 準備不足の上、父王を支えた者達も国内貴族の怒りを抑える為に次々と職を辞した為に支える者達も未熟者揃いだった。おまけに弟ヴィンセントは開戦に反対して終戦時は謹慎状態だった為、貴族達はむしろ親に意見のできないウィグムントよりヴィンセントが王に相応しいと噂していた。


 だが、敗戦でガタガタになりかけた国を纏めるには順当な政策が好ましい。よってウィグムントは急ぎ戴冠する事になった。元々素養に劣るウィグムントとその周囲の者達を危ぶんだ先王は、亡くなるまで離宮からウィグムント達に指示を出し続けた。


 それもウィグムントの評判を更に落とす理由になった。それでも先王としては、親の言う事を聞かないヴィンセントより人形となるウィグムントの方を好んだのだ。


 そう言う事で、24年前の戦争の一番の被害者は自分だと考えているウィグムントが、帝国の側妃の娘などに必用以上の心配りをする筈が無かった。

「学院内外では影ながら護衛を付けている。問題が起こりそうなら彼等が動く。護衛が動かないレベルでも目に余るとお前が思うなら、対処しなさい」

「その様にいたします。些末な打ち上げをお聞きいただき、ありがとうございました」

「報告は必用な事だ。これからも必用と思えばいつでも打ち上げなさい」

「はい。その様にいたします」

「任じている以上、皇女の世話は必用だが、学業も大切にしなさい」

「もちろんです」


 自分の宮に帰るフレドリックは、一般論で語り自分の悩みを理解していない父に苛立った。

(学業を頑張ろうにも、それで兄上を追い越してしまったらそれも問題だろ!?だから二人して従兄弟達より下と噂される事になってるのに…父上は次男の事など考えてくれないのか…)


 フレドリックの宮の前に人影があった。護衛を連れた兄ダリウスだった。

「父上にどんな陰口をしに行ったんだ?」

フレドリックはうんざりした。兄にはこういう暗さがある。

「陰口などしておりません。父上に命じられている帝国の皇女の世話について相談に伺ったのです」


「皇女か。敵国に平気な顔でやってくる様な面の皮の厚い女だ。痛い目に遭わせてさっさと帰らせればいい」

「…兄上、ご意見させていただければ、その様な事を人前で仰らない様にお願いします」

「皆、帝国も皇女も憎んでいるではないか。お前は帝国の肩を持つのか?」

「もちろん、必用以上に皇女を庇うつもりはありませんが、外交という問題があります。こちらの瑕疵で争う様な事はあってはなりません」

「帝国の腹黒女が粗相をしたと言い張れば良いではないか。そして今度こそは奴らを完膚なきまでに叩いてしまえば良いのだ」


(誰にそんな実力があると言うのだ?)

王国は講和条件として10年間の兵力制限を受けた。戦争における人的資源の減少によりどっちにしろ10年は兵力増強は出来なかった筈だが。


 また、敗戦による国内の反感から、その後も王家直属の実戦力の増強は自重していた。つまり、現在王国が戦争を行うには、貴族議会の承認と貴族家の兵力を必用とした。そして王弟ヴィンセントを筆頭とする伝統貴族は24年前から外征に反対だった。現在出兵するとしても、国内の半分の貴族は兵を出さない。


 フレドリックとしては父の威を借りる以外になかった。

「父上も影から皇女を守る様に指示しているとの事です。とにかく、こちらから喧嘩を売るような真似は出来ません」

「ふん、いくじなしが」

ダリウスは自分の宮に帰って行った。


 フレドリックは暗澹たる気持ちになった。


 もちろん、あれが本心と言う訳ではなかろう。ダリウスはフレドリックより剣が下手だ。そういう暴力に興味の無い人間が、用兵を理解しているとは思えない。暴力を好む者の中で、暴力を知性でもって効率よく振るい、相手を確実にねじ伏せる事を望む者が名将になるのだ。感情論で勇ましい事を言いたがる者が勝者になる事はない。


 そして、今のダリウスの言葉は『皇女の世話』という枷を付けられたフレドリックを虐める為の論法だ。フレドリックに兵を用いて帝国に勝つ自信が無い以上に、ダリウスの方が自信が無い筈だ。


 しかし、大問題があった。


 皇女に対して問題を起こすなどあってはならないと思っている人間は、皇女に対する虐めを肯定する事などない。それを口にするダリウスは、皇女と帝国を軽んじている事になる。そんな軽率な男が王となった時、自分は王弟として支えないといけないのか。


 暗い上に軽率な男…時々フレドリックは思ってはいけない事を考える事があった。


…兄は王には向かないのではないか。


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